若い人たちの選択肢を増やしたい トゥエレスバリエンテ・志村一

「日本では、友人や誰かの真似をして人生を決める人も少なくはないですよね。誤解なさらないでください。それが悪い事とは思っていません。私は「夢を与える」なんて大げさなことは言えませんが、ただこの活動を通じて、若い人の生き方の選択肢を増やしたいと思っているんです」

今回クラウドファンディングを実施することなった「トゥエレスバリエンテ」の志村一さんはインタビューでこのように話します。

では、生き方の選択肢を増やすために必要なことは、一体何なのでしょうか。その答えは志村さんが社名に選んだ「バリエンテ」という言葉の中に、すでに現れているのかもしれません。

社名の「トゥエレスバリエンテ」の意味するところ

アルコルコンのスタジアムでU-23の監督とコーチと記念撮影をする志村さん (写真提供 トゥエレスバリエンテ)

―まず志村さんの会社名に関して、質問させていただきます。

「トゥエレスバリエンテ」という言葉は、スペイン語で “Tú eres valiente.”と書いて、日本語に翻訳すると「君は勇敢だ」あるいは「君は勇気のある人だ」という意味になります。

でも、スペインのスポーツ界を見ていると、例えばコーチや監督が選手に対して “Tú eres valiente.” と言う時には、「プレーの成功や失敗という結果だけではなく、お前がそのプレーをやってみようとした勇気と決断力を認めるぞ。」という感じで使うことが多いんですね。つまり、立派な褒め言葉なんです。

もしかしたら志村さんは、このようなスペインのスポーツにおける「トゥエレスバリエンテ」の意味もご存知の上で社名になさったのかなと思っているのですが、いかがでしょうか。

「いいえ、僕はまだスペイン語を勉強中なので、そこまでのニュアンスは理解していませんでした(笑)。

実はこの会社を設立する時に、チャンレンジするという意味のスペイン語を社名に使いたいと思い、デサフィオ(DESAFIO)という言葉を見つけたのですが、このデサフィオという言葉はすでに他社名に使われていたんです。そのため、トゥエレスバリエンテという社名になりました。

でも、トゥエレスバリエンテというフレースがスポーツの世界で、『お前がそのプレーをやってみた勇気を認めるぞ。』というニュアンスで使われているなら、僕はすごく嬉しいですね。僕らの活動内容と一致する言葉だと思うので。」

若い人の生き方の選択肢を増やすために

ADアルコルコンのU-23の練習風景 (写真提供 トゥエレスバリエンテ)

―今回のクラウドファンディングの最大の目的は、おそらく「トゥエレスバリエンテ」の活動目的と同じものだろうと思うのですが、「若い人がより多くの選択肢から、生き方を選べるようにするため」であると伺っています。もう少し詳しく話していただけますか。

「選べる選択肢が少ないと、みんな同じような人生になってしまうかも知れません。そして、そのことはサッカー選手にとってもおなじかも知れませんね。

例えば、家族で回転寿司に行ったとき、ネタが一品だけなら面白くないじゃないですか。数多くのネタがあるから、選べる楽しさが生まれます。勿論、興味のないネタもあるでしょう。その時は選ばなければいいだけです(笑)。

もしもスペインでサッカーをプレーすることができたら、日本でプレーするよりも、メッシと同じピッチに立つことができる可能性は高くなりますよね。

メッシと同じピッチに立つというのは極端な例だとしても、日本の外に出ることで、日本にいては見つからない選択肢が現れることってあると思うんです。

「夢を与える」なんて大げさなことは僕は言えません。でもこの活動を通じて、若い人の生き方の選択肢を増やしたい、と思っています。」

夢や目標を持っている若者のために、参加費無料のトライアウトを日本で開催したい

すでにADアルコルコンに所属している朴龍二選手(写真提供 トゥエレスバリエンテ)

―今回のクラウドファンディングの具体的な目的は、スペインのサッカーチームであるADアルコルコンが、日本でのトライアウトを通じて選手を発掘するためと伺いました。そのために多くの選手が参加できるように、参加費無料のトライアウト日本で開催するという解釈でよろしいでしょうか。

「はい、そのとおりです」

―ということは、通常日本で外国のサッカーチームがトライアウトを開催する場合は、参加者が参加費を払ってトライアウトを受けているんですよね。

「はい。参加費無料のトライアウトが開催されるのは、おそらく今回が初めてだと思います。」

―今回のトライアウトの参加人数は、何人くらいを予定されていますか。

「男子選手のU-19 とU-23、そして女子のトップクラスと3つのカテゴリーに分けて、各カテゴリーごとに26人の選手とお会いしたいと考えています。そのため最大で78人の選手が参加できることになります。

そして今回のトライアウトは東京・大阪・福岡の3ヶ所で開催するので、合計で234人の選手とお会いします。」

―とはいえ、参加費無料でこうしたイベントを開くとなると、参加できる人数はやはり限られてしまいますよね。すると参加者が予想より多い場合には、志村さんの方で、トライアウトの前段階で選手を選ぶ事になるかと思います。そうしたトライアウト前に行われる参加者の選考について、何か基準はありますか。

「まず、参加希望者が多かった場合には、抽選という形になります。そして、事前選考の基準の一つとして、申込時に参加希望者に書いて頂く「このイベントに対する思い」や「サッカーへの思い」、そして「将来への夢」をこちらでしっかり読ませていただいて、トライアウトの参加者を決めたいと思っています。

なによりも、夢や目標を持っている選手に一人でも多く参加してほしいと思っていますので。」

―今回のトライアウトの最終テストはマドリードのアルコルコンで開催されるそうですが、その日程は決まっているのでしょうか。

「はい、今年の7月5日から7月30日までの期間になります。その間、日本のトライアウトで合格した選手はアルコルコンに泊まり込んで、現地で最終トライアウトを受けることになります。」

女子選手のスペイン挑戦もバックアップ

ADアルコルコンのスタジアム前に立つ志村さん(写真提供 トゥエレスバリエンテ)

―今回は女子選手も参加できるトライアウトとなっています。今まで、志村さんは女子選手がスペインでプレーするのをお手伝いなさったことなどあるのでしょうか。

「いいえ。今回僕は初めて、女子選手のトライアウトに関わることになります。でも、現在スペインでプレーしている日本の女子選手が20人近くいるんですね。また来シーズンから日本の女子のプロサッカーリーグが発足しますし、これから日本でも女子選手の需要というのも増えてくると思います。

そうなると、やはりスペインでプレー経験が男子だけではなく、女子の選手にも重要になってきます。ですから、今回は女子選手にもどんどんに挑戦してほしいと思います」

―女子選手もトライアウトで合格したら、アルコルコンのチームに入団するということですよね。

「はい、そうです」

スペインの指導者は怒らない? 育成段階における日本とスペインの違いとは

ADアルコルコンのU-23チームの選手とスタッフ(写真提供 トゥエレスバリエンテ)

―志村さんは今までスペインのサッカーチームに、何人も日本人選手を送っていらっしゃいます。お伺いしたいのですが、選手の育成という面から見た場合の日本とスペインのサッカーの違いは、どのようなものだと思われますか。

「スペインの指導者って、怒る人が本当にいないんですね。選手がまずいプレーをした場合も絶対に怒らないで、まず『どうしてそのプレーをしようと思ったのか』と選手に質問するんです。そして選手の話を聞いた上で『君の意図していたことはわかった。でも、あの状況ではこういうプレーをしたほうが良かった。』って話すんですね。それに試合中の監督はずっとピッチに立って選手を励ましているし、練習や試合の前後には選手一人一人の顔を見て声をかける人がほとんどですね。

日本の指導者は、もちろん全員ではないですが、練習中は選手を怒鳴りつけて、試合ではベンチにふんぞり返っているような人も少なくはないです。そういったところを見ると、スペインの方が選手と監督が対等だし、スペインの監督の方が忍耐強くて優しい人が多いな、と思います」

あと、実際にスペインのチームに行った選手の話を聞くと「スペインのサッカーは本当に団体競技だ」って言うんです。日本ではサッカーと言うと、ドリブルやリフティングなどの個人技の高さが注目されるけど、スペインでは選手と監督の間の戦術の理解度が高い、と。

スペインのチームでは、まず選手同士がよく話すし、そして選手と監督との間がとても近いので、日頃からコミュニケーションも頻繁にされています。そのためチーム戦術を選手全員が理解していることに驚く日本人選手が多いです。」

スペインで活躍する選手になるために必要なことは

ADアルコルコンの2020年のU-23チーム(写真提供 トゥエレスバリエンテ)

― では、最後に、志村さんの目から見て、日本人選手がスペインで活躍するためにはどのような能力が必要だと思われますか

「まずは、コミュニケーションできることでしょうね。サッカーのプレーが上手下手ではなく、他人とコミュニケーションできることが最初の条件だと思います。

繰り返しになりますが、スペインのチームは選手に戦術を理解することを高いレベルで求めるので、日本選手はそのことを知っている必要があります。

でも、それは必ずしも「語学ができる」ということを意味するものではないんです。極端なことを言うと 言葉の壁をぶち破って「俺は仲間になりたいんだ!!」ということを伝える能力がまず必要なんですね。

練習前後に他の選手と雑談するとか、監督やコーチと少しずつでも話してみるとか、そういう努力ができる人でないとスペインでは厳しいと思います。

日本人には、言葉のハンデがあったとき、あえてそれでも自分から前に出てコミュニケーションを取ろうという人は少ないですからね。でも、そこで自分から一歩前に出て積極的にコミュニケーションをとろうという勇気を持つことができる人がスペインでサッカーをするのに向いていると思います。」

―ちなみに、ADアルコルコンはここ数年、国際的に選手の発掘を手掛けているチームです。そうしたスペインのチームの内部では、通常どのくらい英語が通じるのでしょうか。

「国際的に選手発掘・育成しているスペインのチームの監督やコーチは、英語を問題なく話せる人がほとんどです。その意味では、日本人にとってハードルが少し低いと言えますね。」

最後に

ADアルコルコンの事務所の前で朴龍二選手と記念撮影をする志村さん(写真提供 トゥエレスバリエンテ)

多くの日本人選手が今回のトライアウトに参加することを望んでいる志村さん。彼が今回のトラアウトで何より注目していることは、参加選手の中にある「挑戦する勇気」であるように思われます。

若い選手に一つでも多くの生き方の選択肢を提供し、彼らの「挑戦する勇気」を最大限に発揮できる状況を作ること、それが「トゥエレスバリエンテ」が今回のクラウドファンディングで達成したいと考えていることなのではないでしょうか。

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