野球を楽しむ「ラミちゃんCUP」開催 VAMOS TOGETHERの活動を通して届けたい想いとは
ラミちゃんことアレックス・ラミレスさんの名を冠した少年野球大会「ラミちゃんCUP2024」が開催中だ。全チームがラミちゃんと一緒に記念写真を撮り、合言葉は「ゲッツ!」。
子どもたち誰もが野球を楽しむために作られた大会は、妻の美保さんとともに作った社団法人「VAMOS TOGETHER」の活動の一環だ。
障がいを持つ子の親でもあるラミレス夫妻に、活動を通して目指すものを語ってもらった。
誰もが野球を楽しめる「ラミちゃんCUP2024」
小学校3年までの子供たちが野球を楽しむ「ラミちゃんCUP」は今年4回目。昨年は予選から32チームが参加したが、今年は予選はなく、抽選で集まった16チームが週末を利用してトーナメントを戦う。神奈川のチームが多いが、試合の開催日に参加できれば、地域に限定はない。
優勝者には優勝杯が授与され、3位までは表彰される。参加費は無料で、参加者全員に「ラミちゃんCUP」の公式Tシャツをプレゼント。勝っても負けても「エンジョイベースボール」が信条だ。
やってくる子どもたちは、ラミレスさんの本名や経歴は知らないが、「去年ぐらいからみんなラミちゃんって呼んでくれる」という。
「初めての参加でも前からの友達みたいに呼んでくれるのが、とても嬉しく幸せです」
にこにこと笑顔で子どもたちと触れ合うラミレスさん。大会後に子どもたちからお礼の手紙が届くことも多く、「スペシャルレターです。可愛くて大好き」と顔をほころばせる。
2か月に渡って行われ、関わるボランティアスタッフなどかなりの人数が動員される大会だが、「すごくアットホームなトーナメントができていると思います。彼の人柄がそれを可能にしています」と妻の美保さんは言う。
「負けたチームに真っ先に声をかけに行ったりする彼の姿を見て、そういうところはすごく大切だなと一緒にやってて感じます」
今年の開催では、初日こそ雨で流れたが、翌日は晴天。グラウンドでは子どもたちが駆け回り、歓声が上がっていた。
これから「ラミちゃんCUP」を様々なスポーツに広げたい
もともとやはり野球を通じての活動をしたかったというラミレスさん。ラミちゃんCUPは毎年続けていきたいし、今後色々なスポーツでも大会を広げていきたいと思い描く。活動はいつも家族ぐるみ。ダウン症である長男の剣侍(ケンジ)くんも一緒だ。
「例えばバスケを教えてくれる選手のサポートがあれば、ケンジもバスケができる。低いゴールでね」
ラミちゃんCUPを主催する社団法人「VAMOS TOGETHER」は、障がいがある「スペシャルニーズ」の才能と個性を最大限に引き出し、自立した生活ができる社会を目指して、夫妻が設立したものだ。
活動の原点はダウン症の長男を授かったこと
VAMOS TOGETHERは2020年に設立された。「VAMOS」はスペイン語で「さぁ行こう」。「TOGETHER」は英語で「一緒に」。あえて混合した言語は、国籍も障がいも関係なく、触れ合い助け合って共生していこうという意味を込めて付けられた。「みんな違ってみんないい」が理念だ。
活動の原点はラミレス夫妻の長男剣侍(ケンジ)くんがダウン症という障がいを持って生まれたこと。ダウン症は染色体が1本多いことにより、様々な身体的異常が現れる。ケンジくんも心臓の手術をした。言葉の発達もゆっくりだ。
障がいがあれば、サポートが必要なのは確かだ。でも、「それはほかの子どもも同じ。すべての子どもにはサポートが必要なのです」とラミレスさんは言う。
障がいとは、少しだけ特別な手助けが必要だということ。だからラミレス夫妻はあえて「スペシャルニーズ」という言葉を使う。
「日本では、障がいのある子を親が守らなくては、と思ってしまう。でも守りすぎると社会に出て自立できない。小さいうちから少しでもオープンにできる環境やシチュエーションがあれば、成長とともに親も子も自立の一歩を踏み出せます。守る、ではなくて、自立できる方法を教えていく。そういうところも活動を通じて、ご家族にお伝えできたらと思います」
話をするセミナーなら簡単だが、それよりも実際に同じ時間をともにして、見てもらったり、相談を受けたりして共有していけたら、と美保さんは言う。
障がいがあってもなくても一緒に「VAMOS TOGETHER」
ラミちゃんCUPには、まだスペシャルニーズの子どもたちがチームで参加したことはないが、ラミレスさんは「参加はもちろんウエルカムです。とにかく誰でも参加できるので」と話す。
VAMOS TOGETHER全体としては、少年野球大会のほか、企業とのコラボレーションもあり、アイスホッケー体験やボウリング、プログラミング教室など様々な活動をしている。
単発のイベントだけでなく、スペシャルニーズの子どもたちのチアリーディングチームがあったり、美保さんが経営するジムで「スペシャルニーズクラス」のトレーニングがあったりする。
「ラミちゃんの名前で来てくれた人が、『スペシャルニーズって知らなかったけど一緒にやってみたら楽しかった』というきっかけの場所になるように、色々な分野で色んなことをしています」
この団体の活動自体が「家族」でありたい
ラミレス家には、ケンジくんを筆頭に4人の子どもたちがいる。ベネスエラからのコーヒーの輸入や、タレントとしてスポーツ関係、マスコミ関係と様々な仕事をするラミレスさんと、ジムを経営する美保さん。忙しさも苦労もあるが、活動は家族で参加するためのものだ。
美保さんは言う。
「この団体を作るにあたって、色々忙しいことはあるんですけど、自分の子どもたちを犠牲にしてやるようなものではないと思っています。この活動自体が『家族』でありたいので、参加する方たちも、子どもを連れて行っちゃだめかなとか、この子を連れて行ったら迷惑かな、とかいうのは一切考えないで欲しいんです」
スペシャルニーズは色々な特性があるので、大きな声を出したり、座っていられない子もたくさんいる。それもウエルカム。その場で色々な人々が遊んでくれる、騒いでも大丈夫だ。
「恥ずかしいとか迷惑かけるんじゃないかとか、その気持ちでさえ持ってこなくていいんです。だからうちは、必ず連れてきて、自由にしています」
将来は自立へ。可能性を知ることが第一歩
美保さんは、いずれは障がいを持つ人々に、個々の特性を生かした就職支援をしたいという。
「自閉症のピアニストの方がいるんですが、普段はずっと座っていられないけど、ピアノの前に座れば素晴らしいピアノを弾ける。その人は企業でパソコンの仕事をするようになりました。それも普通の人の倍の仕事をこなせる。そんなふうに仕事と人をマッチングできたら、と思います」
ダウン症にも個性がある。人により得意不得意があるが、総じてルーティンを決めれば必ず真面目にその通りにやるという。
俳優やアーティストとして活動する例も多くなり、仕事をしながら一人暮らしをしている人たちも増えてきた。日本ではあまり知られていないが、海外にはダウン症で弁護士になった例もある。まず教育システムが開かれているし、日本では聞かない種類の職業に就いた例や、結婚している人のニュースも伝わってくるそうだ。
ラミレスさんの長男のケンジくんは、以前のラミちゃんCUPで、公式Tシャツのデザインをしたことがある。得意な分野はアート?と思いきや、「体を動かすことがすごく好き」。逆立ちもできるそうだ。
「低筋力だから、できないから、と言われると親は守ってしまいがちですが、アメリカではたくさんトレーニングをしているダウン症の方たちもいます。そういうニュースを私たちもよく見るから、やらせてみようと思う。私たちからもそんな発信ができれば、少しでもやらせてみようとする家庭が出てくるかもしれません。一人でも多くの家族に何かしら影響が与えられたらすごく嬉しいです」
VAMOS TOGETHERの活動では多くの企業とコラボがあり、人との繋がりもどんどん増えている。参加した家族の勤め先から縁が繋がることもあり、いずれ企業と人のマッチングに繋げたいと美保さんは考えている。
スペシャルニーズのある人もない人も、みんな一緒に楽しむ。その活動を広げていくことで、将来の可能性も広がっていく。ケンジくんが日々成長を見せるように、VAMOS TOGETHERも成長していくのだ。
「私たちも障がいを持つ子の親としてまだ9年目。子どもと一緒に成長中なんです」
(取材・写真・文/井上尚子)