• HOME
  • コラム
  • 学生スポーツ
  • 「芯からダンスが好きなので」翔凜高等学校チアダンス部 梶本雅さん 日本一獲得に秘められた競技への愛情と思考力

「芯からダンスが好きなので」翔凜高等学校チアダンス部 梶本雅さん 日本一獲得に秘められた競技への愛情と思考力

翔凜高等学校(千葉県君津市)のチアダンス部に所属している梶本雅さん。

現在2年生の梶本さんは昨年7月、「全国高等学校ダンスドリル選手権大会2023」にて、個人での日本一(文部科学大臣賞)に輝いた。

今回は梶本さんの競技との出会いから日本一獲得までを振り返るとともに、今後の目指す姿などについて伺った。

(取材 / 文:白石怜平)

幼少期から「自然と夢中になれた」

物心がついた頃から踊ることを始めていた梶本さん。幼稚園時のお遊戯会を両親が見た時、軽やかなリズム感や楽しそうに踊っている姿が鮮明に映った。それがきっかけで、小学校入学前よりチアダンスのクラブに通うようになった。

自身も「音楽が流れている中で踊るのは幼少時から好きだったので、自然と夢中になれたと思います」と語る。

チアダンスはプロスポーツの応援などでメディアに取り上げられるチアリーディングから派生した競技。様々なテクニックやチームで踊る際の一体感、競技者による喜怒哀楽の表情や迫力が見どころの一つである。

大会ではダンスの技術や振付構成、表現力などが採点の対象となり点数を競い、個人と団体の部門がある。

梶本さんの通ったクラブは小学1年生から中学3年生までが在籍。同級生や年齢の近いメンバーと切磋琢磨していくことで実力をつけていった。

小学校高学年になると選抜チームにも選ばれるようになり、次第に競うライバルが全国へと広がっていった。

小学生時から全国をライバルにして踊っていた(家族提供)

中学入学後は体力強化と並行するために陸上部と掛け持ちし、週3回ほどチアダンスの練習に励むハードなスケジュールをこなしていた。

今まで取り組んできた中で一番きついと感じた時期だったのは中学1年生の時だったという梶本さん。

イメージと表現のバランスが合わないことで悩んだ期間だったという。そこをどう乗り越えたのかを訊くと中学生離れした思考力があった。

「自分としては急な克服は難しかったのですが、動画を見て前から踊っている自分の姿と、頭でイメージしながら踊っている姿が違ったので、前から見ている自分をイメージすることで意識を変えました」

乗り越えたもう一つの要因は、パフォーマンスの際の意識だけではなかった。練習での心構えについても語った。

「諦めない心。クラブチームでは人の心を育てるチームに所属してたので、その心構えを学びました。時には厳しい言葉もありましたが、今はなぜ言ってくれたのかが分かります。

私も部活動で上の学年なので後輩たちには、”相手のために”どう厳しく言うかを考えるようにもなったので大事な経験だと思っています」

思うようなパフォーマンスができない時期であっても、辞めたいと考えたことはなかったという梶本さん。「芯からダンスが好きなので」と断言した。

ダンスが好きな気持ちを一貫して持ち続けてきた(家族提供)

常にチアダンスに向き合うきっかけとなった教えとは?

梶本さんのストイックな精神、そしてチアダンスが好きという気持ちは日常生活の中で自然と表現されていた。それはコーチからのある教えがきっかけだった。

「クラブのコーチに『1日やらないだけで3日後退する』というのが強く心に響きました。教わった日から一層スイッチが入りました」

以降は柔軟性を向上させるストレッチや体幹トレーニングなど、より一層ダンスと向き合う毎日になった。

「センターであることが全てではないですが、どこのポジションでもセンターの意識で踊ることも教えていただいていました。ただ、やるからにはセンターは獲りたいという想いがあってので目指していました」

そしてチアダンスが好きという気持ちが日々溢れているシーンについて、父親である祐介さんが明かしてくれた。

「以前から先輩や自身の大会で踊っている動画を毎日見ています。僕たちも曲が流れた瞬間に何の踊りか分かるくらいです(笑)それは”やらないきゃ”とではなく、純粋に好きで上手くなりたいから自然に見ているというのは間近で感じていました」

ちなみに、祐介さんも身体障害者野球チーム「千葉ドリームスター」の選手である。4番・捕手を張る強打者で、全国大会にも毎年出場している。

自身も長く野球を続けているスポーツマンであることから、雅さんに競技としての姿勢を教えていた。

「僕が伝えていたのは、ダンスも先生に教わりに行くのではなくて”披露する場”だと。行かない時に練習して、先生には見せる=アピールする場なんだというのは伝えていました」

身体障害者野球「千葉ドリームスター」で活躍する父・祐介さん(本人提供)

入学時から目標としていた個人賞で日本一に

中学を卒業すると、翔凜高等学校に入学した梶本さん。その決め手はクラブのコーチが同校でも教えていること、そして共に踊ってきた先輩方も進学していたことが理由だった。

「先輩方がいたからこそ『元々踊っていた仲間とまた一緒に踊れる』と感じたので、迷いなく決めました」

元々踊っていた先輩の一人は今回自身が受賞した文部科学大臣杯を受賞していた。小さいころから一緒に過ごしてきた尊敬する先輩が、おのずと目標になった。

高校で部活動として行うことになり、週6回に練習日が増えた。好きなチアダンスにより打ち込めるようになったのが何よりの喜びだった。

「ダンスが好きな人が集まっている部活なので、みんなで授業終わりに好きなことを目一杯できる。レベルアップにもつながるので今も本当に幸せなんです」

大切な仲間とチアができる幸せを日々感じている(家族提供)

梶本さんは積み重ねてきた経験を基に早速実力を発揮した。昨年1月の「第十四回全国高等学校ダンスドリル冬季大会」に出場し、1年生ソロ部門で早くも1位を獲得。

中学時代まで通ったクラブでは、団体の他にもソロでの大会出場経験があった梶本さん。緊張はあったものの、「(ソロも)経験してあの舞台に立つイメージがありました」と振り返った。

2年生になると、関東大会で全国最高得点で優勝し、昨年7月の「全国高等学校ダンスドリル選手権大会2023」に出場。選手宣誓も担当した。

同大会の個人の部では、全国8ブロックを制した選手など13名がこの舞台に立った。入学時から目標としてきた文部科学大臣杯を獲得するための大会。

梶本さんの出場した部門では、バレエダンスの基礎ができることが評価のポイントとなる。出場者それぞれが曲や振付を考えて披露される。

約10年もの間成長を支えてきたコーチが、梶本さんにあった曲や振付を考え、梶本さんもそれに応えるパフォーマンスを完遂。晴れて全国の頂点である文部科学大臣杯を受賞した。

「一番は”恩返し”の気持ちで舞台に立ちました。両親や振付を考えてくださったコーチ、チームメート、クラブチームの先生方たちへの想いを持って踊りました」

入学時から目指していた女王の座。背中を追い続けてきた先輩にも受賞したその日に報告し、祝福を受けた。

現在はキャプテンとして、今夏の最後の大会へ

3年生が引退後は梶本さんがキャプテンとしてチームを引っ張る立場にもなった。その自覚は既に醸成されていた。ここでもプロアスリートさながらの考えを持って臨んでいた。

「人数は部員全員で7人ですので、一人の踊りがより目立つようになりました。後輩には褒めて伸びる人や焦った方がいい人などそれぞれです。

『その練習が何に向けたものであるか』を伝えながら、相手に合わせてコミュニケーションをとっています。その目的や目標。目指すところが一緒になればチームは変わっていくと思っています」

顧問を務める松本裕希也先生も日々の様子を見て、

「私の役割は生徒たちが怪我をしないように見守るだけと言っても過言ではないです。みなさんチームで日本一を獲るという目標に向けて自主的に行動できていると思います」と全幅の信頼を置いている。

取材から3日後、翔凜高校は団体として「第十五回全国高等学校ダンスドリル冬季大会」に出場。

夏に行われる「全国高等学校ダンスドリル選手権大会2024」での団体戦で高校生活の最後を飾る。(※梶本さんは前年優勝のため個人参加はなし)

地域や学校の持つチアダンスの可能性

翔凜高校のある君津市はじめ周辺地域では、チアダンスの競技人口の伸びしろを感じているという。松本先生はこの背景について、

「学校のある君津市も少子化が進んでいるデータがあります。ただ、小学校・中学校の必修でダンスがあるためか、『ダンスをやりたい』という生徒たちが増えている話を聞いてます」

梶本さんも魅力の発信に大きな力になっている(家族提供)

翔凜高校では個人賞日本一を2人輩出していることから、その実績を活用していきたい想いを抱いている。

「中学時チアダンス部で高校進学後に一度離れた生徒が、文化祭や大会でのパフォーマンスを見て『もう一度やりたい』と入部した方もいらっしゃいます。

あと、これだけの実績と実力を持った生徒がいますので、教える立場として戻っていただけるような環境をつくっていきたい考えも持っています」(松本先生)

「人に”ポジティブ”を与える存在に」

まもなく高校3年生に上がり、最終学年となる。長く親しんできた梶本さんにチアダンスの魅力を伺った。

「私がやりがいを感じるのはチームワークがつくられていくのを実感できる時です。みんなで揃うことによって全員の自信になりますし、1曲踊り切ったときの達成感が大きいんです。

構成も考え抜かれているので、音がないとしても見ているだけでその人の心を動かせる。それはとても素晴らしいことだと思います」

チアダンスを通じて培ったポジティブさで元気を与えていく(家族提供)

そして、インタビューの最後。チアダンスを通じてどんな人になりたいかを語ってくれた。

「ダンスを通じて学んだことの一つとして、『人にポジティブを分け与えられる』ことです。それは今後もずっとやっていきたいことです。自分からポジティブを与えられる存在になれたら素敵な人になれると思います」

チームそして学校でもポジティブさを放つ梶本さん。彼女の持つ大きな可能性をこの取材でも示してくれた。

(おわり)

関連記事