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東北福祉大が貫録の7連覇、東北工業大は秋の飛躍を予感させる快進撃~仙台六大学野球春季新人戦総括(前編)

 6月17、18日、仙台市の東北福祉大野球場で、仙台六大学野球春季新人戦が開催された。東北福祉大が、新型コロナの影響で中止となった2020年春を挟んで7連覇を達成。準決勝は東北大に24-0、決勝は東北工業大に5-2で勝利し、頂点に立った。

 決勝は7季連続で東北福祉大と仙台大のマッチアップとなっていたが、今大会は準決勝で波乱が起きた。東北工業大が11回タイブレークまでもつれた接戦を制し、仙台大を撃破したのだ。決勝でも東北福祉大相手に善戦し準優勝。秋の飛躍を予感させる快進撃だった。前編では、優勝した東北福祉大、準優勝した東北工業大の戦いぶりを振り返る。

下級生も選手層の厚さは健在

 東北福祉大は2試合で計8人の投手が登板した。うち6人は2年生。この代は投手陣が特に豊富で、その代表格とも言える最速155キロ右腕・堀越啓太投手(2年=花咲徳栄)はダブルヘッダーとなった準決勝、決勝いずれもマウンドに上がった。準決勝は先発し、2回4奪三振無失点の完全投球。決勝は7回に登板し、2四球を与えながらも0に抑えた。この日は最速153キロを計4回計測するなど150キロ台の直球を連発したほか、キレのある変化球で空振り三振を奪う場面もあり、格の違いを見せつけた。

 2年生投手陣は、決勝の最終回に登板し最速149キロを計測した大森幹大投手(2年=東海大相模)ら、速球派右腕が多数名を連ねる。そんな中異色の存在感を放つのが、アンダースロー右腕の森優太投手(2年=八戸学院光星)。今大会は決勝に2番手で登板し、3回無失点の好救援で勝利を呼び込んだ。4、5回にはアンダーながら140キロに迫る速球で三振を奪える強みを見せた一方、1死一、二塁のピンチを背負った6回は「この場面は三振ではなく打たせて取って、野手に守ってもらおう」との考え通り初球併殺打で切り抜けた。

独自のスタイルを貫く森

 中学時代はアンダーだったものの、高校でオーバーに転向し最速を145キロまで伸ばした。しかし大学では同タイプの投手が多かったことから、「自分が目立つため」の策としてアンダーに再転向。2年目の今春はリーグ戦で3試合に登板するなど、着実に経験を積んでいる。筋力トレーニングや食事の改善に取り組んできたことで球速がアップし、新人戦の直前には昨年の最速を4キロ上回る138キロをマークした。大学4年間をかけて、光り出した個性を磨き続けるつもりだ。

 1年生では、準決勝に唐川侑大投手(1年=東海大札幌)、決勝に金子翔柾投手(1年=花咲徳栄)と2人の右腕が登板。唐川が2回無失点、金子が3回無失点とそれぞれ申し分ない公式戦デビューを果たした。唐川は昨秋プロ志望届を提出するも指名漏れ。一方、チームメイトの門別啓人投手は阪神から2位指名を受けた。高校時代は捕手として門別の球を受けながら、毎日一緒にブルペンで投げる中で「投球のすべて」を教わったという。大学では「ピッチャーとしてもう一度プロを目指したい」との思いで投手に専念する。まずは、夢の舞台へと続く道のスタートラインに立った。

初の公式戦のマウンドで落ち着いた投球を披露した唐川

 野手は準決勝と決勝でスタメンを完全に入れ替え、多くの選手を起用した。準決勝では関矢舜内野手(2年=熊野)が特大の満塁本塁打を放ったほか、昨夏の甲子園で活躍した狩野泰輝外野手(1年=聖光学院)が2本の長打で2安打3打点をマークするなど、1年生も大量得点に貢献。決勝は5回に6長短打で5点を奪う集中力を発揮した。秋は野手陣にも上級生を押しのけてレギュラーの座をつかむ1、2年生が現れるか、注目だ。

準決勝では全打席で得点に絡んだ狩野

苦しみ続けた右腕が気迫の熱投

 東北工業大は1回戦の宮城教育大戦で5回コールド勝ちを収め、仙台大との準決勝では劇的な逆転勝利をやってのけた。0-4の6回に1点を返すと、8回には代打・齋藤駿人外野手(1年=古川学園)の3点本塁打で追いつきそのまま延長に突入。タイブレークが適用された11回には古川瑠希也内野手(2年=東北)の2点適時打が飛び出し、これが決勝点となった。

同点の3点本塁打を放ち生還する齋藤駿

 勝利に大きく貢献したのが、主将を務めた右腕・伊藤理壱投手(2年=仙台城南)。3回から登板して9回まで0を連ねると、10回は1死満塁のピンチで二者連続三振を奪い無失点、11回も140キロ台の直球を連発して本塁を踏ませなかった。タイブレーク2回を含めて9回4安打2四球(うち故意四球1)10奪三振無失点。気迫あふれる投球で大金星の立役者となった。

 チーム随一の速球を持ちながらも、1年生だった昨秋はリーグ戦で登板した全6試合で複数失点。今春も2試合で防御率11.57と振るわず、開幕節以外はベンチ入りさえできない悔しさを味わった。四死球で走者を出して崩れるパターンが多く、「自信のあるまっすぐで押したけど、それだけでは通用しないことを身に染みて感じた」と振り返る。それでも、苦しんでいた時期に荻原満ヘッドコーチから受けた「変化球がうまく使えればまっすぐも生きてくる」との助言を胸に、自身の投球と向き合ってきた。

緩急をつけた投球で9回無失点と好投した伊藤

 この日は直球に頼らずスライダーを中心とした変化球でもカウントを取り、「力を抜く」ことを意識した投球でテンポよくアウトを積み重ねた。「春リーグが終わった後はまっすぐの球速が130キロちょっとで、ストライクも全然入らなくて、悔しい思い、つらい思いをしたけど、今日のピッチングで自信がついた。秋はもっと成長した姿で戻ってきたい」。ようやく光が見えてきた。まだまだ成長する時間は十分に残されている。

 野手陣は攻守ともに、リーグ戦上位校に引けを取らないレベルの高さを示した。特に1年生の活躍が著しく、準決勝で同点弾を放った齋藤駿はもちろん、3試合すべてで安打をマークした千葉周永内野手(1年=一関学院)、決勝でチーム唯一の複数安打を記録し好守も披露した菅井惇平外野手(1年=日本ウェルネス宮城)らが存在感を示した。

 1年生に仙台育英、八戸学院光星など東北の強豪校出身者が多い中、部員十数人の県立高校から進学した齋藤陽也内野手(1年=名取)が躍動した。1回戦は「9番・遊撃」でスタメン出場し、逆方向への2点適時三塁打を含む2安打2打点2盗塁をマーク。準決勝では代打で齋藤駿の同点弾につなげる安打を放ち、決勝では東北福祉大・堀越の豪速球に食らいつき9球粘った末に四球を選んだ。

自慢の打撃で持ち味を発揮した齋藤陽

 高校の同級生で唯一、大学でも硬式野球を継続している。「周りは基礎的なレベルの高い選手ばかりで、練習では実力の差を感じる」と口にしながらも、「今は追いかけるのが楽しい」と目を輝かせる。出身校は関係なく、全員で切磋琢磨できるのが大学野球の醍醐味。勢いのある下級生がレギュラー争いを加速させ、秋も“工大の快進撃”を見せてくれるはずだ。

(取材・文・写真 川浪康太郎)

読売新聞記者を経て2022年春からフリーに転身。東北のアマチュア野球を中心に取材している。福岡出身仙台在住。

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