大阪公立大学漕艇部~2つの歴史ある部の統合からインカレ初メダルへの挑戦~

かつてのライバル、2校が統合して新たな漕艇部へ

 大阪公立大学は、ともに140年以上もの歴史を持つ大阪府立大学と大阪市立大学が2022年4月に統合され、新たに誕生した大学だ。両大学の漕艇部が統合され『大阪公立大学漕艇部』となり今年3年目のシーズンを迎える。

 統合2年目の昨年9月には、全日本大学ローイング選手権(インカレ)の男子舵手(だしゅ)付きフォアで過去最高成績タイの4位入賞を果たした。今秋のインカレではさらに上、メダル獲得(3位以上)を狙う。

 2022年4月の大学統合から半年間はそれぞれの漕艇部で活動し、9月のインカレには別々のチームとして出場した。当時の4年生が引退、幹部が代替わりし新チームがスタートした10月から『大阪公立大学漕艇部』として新たなスタートを切った。

 両部とも長い歴史を誇り、過去には日本トップクラスの選手を輩出している。全日本選手権男子エイトで2度の優勝を果たした西和希(NTT東日本漕艇部主将)は大阪府立大学漕艇部OB、パリ五輪女子日本代表候補の廣内映美(明治安田生命ボート部)は大阪市立大学漕艇部OGだ。統合前、両部は競技の実力と成績において互角であり、ライバル関係にあった。

「自分たちの1学年上の先輩たちが中心になって部の統合を進めたのですが、市立大学の漕艇部は130年、府立大学の漕艇部は60年、ともに長い歴史を持つ部でしたから、統合が決まった際にはOB、OGからの反発もありました。どちらも部の伝統にプライドや誇りを持っていますから」

 今年度、主将を務める井坂史周(工学部電子物理工学科4回生)は統合当初をそう振り返る。井坂は茨城・水戸第一高から1年間の浪人を経て2021年に大阪市立大学へ入学した。

舵手付きフォアのレースではボートの最前部に小柄ながら重要な役割を担う舵手(コックス)が位置している

猛練習の市立大、自主性の府立大

 もともとは別の大学、別の部だった。練習場所も違えば練習メニューも違う。部の伝統やボート競技に対する考え方も違う。同じ漕艇部ではあっても、2つの部が歩調を合わせるのは簡単なことではなかった。井坂は『旧市立大学』の漕艇部についてこう話す。

「旧市立大学の方は昭和の考えに近くて、練習したら練習した分だけ伸びるという考え方から、練習量がすごく多かったんです。自分たちは日本一練習しているというプライドを持って練習に打ち込んできました」

 一方、『旧府立大学』の漕艇部には「自主性」を尊重するという伝統があった。
「府立大学は市立大学より練習量は少なくて、練習は効率を重視し、それぞれの学生の自主性に任せるという雰囲気がありました」と語るのは今年度、副将を務める青木大典(生命環境科学域緑地環境科学類4回生)だ。青木は和歌山・桐蔭高から2021年に大阪府立大学へ入学した。

『旧府立大学』の部員からは「こんなに練習をやらなきゃいけないのか」という反発が、『旧市立大学』の部員からは「旧府立の部員は練習についてこられないのか」という反発がそれぞれあった。練習量の違い、文化の違い、伝統の違い、大切にしているものの違い。それまでとの違いを受け入れられず、部を去った者もいた。それでも、それぞれの幹部はミーティングを重ね、部の進むべき方法について話し合った。

「一時期、部の統合自体を見直すべきではないかという意見も出ました。それでも何回も何回も話し合いをして、一緒にボートに乗って練習しているうちに、だんだんとお互いに歩み寄る姿勢を持てるようになったんです。ボートが好きで、ボートで勝ちたいという気持ちはみな同じですから」と青木は言う。

チームの先頭に立つ井坂主将(右)と青木副将(左)

両部の長所を組み合わせたハイブリッド戦略

 長く続けてきた練習方法、部の運営方法、伝統にも、よいところもあればよくないところもある。両チームの長所を残して、よりよいチームを目指そう。そんな考え方を共有するようになってから、部の雰囲気は好転した。

 井坂は「旧市立大学にも旧府立大学にも、それぞれいいところがあったけれど、足りないところもあった。2つのチームが統合したことによって、足りなかったものをお互いに補い合えるようになったんです」と説明する。

 ミーティングを重ね、活動を進めながら、練習の方法や回数、練習場所、部の運営方法などを見直し、新しい『大阪公立大学漕艇部』としてのやり方を作り上げてきた。井坂は「旧市立大学と旧府立大学のいいところをハイブリッドした。その結果が昨秋インカレでの過去最高成績につながったと思うんです」と胸を張る。

 昨秋のインカレ、男子舵手付きフォアでは過去最高成績タイの4位入賞を果たした。井坂を含め、そのクルーのメンバーが2人残る今季は、同種目で初のメダル獲得を狙っている。

 井坂は「昨年、自分もその艇に乗っていましたが、先輩頼りのクルーでした。今年は自分が主将としてみんなを引っ張って、公立大のチームに最高の景色を見せたい」と力強く語る。青木は「舵手付きフォアだけではなく、今年はスカルの種目でも上を狙えると思う」と意気込む。

 私学の強豪校では部員が寮生活を送りながら競技に取り組むところが多いが、大阪公立大学の部員たちは自宅通いもしくは一人暮らしをしながら大学の授業を受け、競技に取り組んでいる。

 井坂は「僕らはあえて寮生活というスタイルを取っていません。寮生活ではプライベートな時間が取れなかったりしますし、ストレスがたまることもある。寮生活が絶対の正解だとは思っていないので」とその理由を説明する。その環境の中で工夫し、練習効率を上げ、私学の強豪とも渡り合ってきた。

昨秋のインカレで4位入賞を果たした男子舵手付きフォアのクルー

女子選手3人も男子に負けない成績を目指す

 漕艇部で競技に励むのは男子選手だけではない。3人の女子選手も「男子に負けない成績」を目指して毎日汗を流している。女子チームの主将を務める清水羽南(生活科学部3回生)は大阪公立大学が誕生した2022年4月に入学した。

 清水は「先輩たちが苦労して部の統合を進めてこられました。私たち3回生は最初から『大阪公立大学漕艇部』の部員です。こんなことを言うのはおこがましいかもしれないですが、私たち3回生以下が先輩たちをつなげる一助になればいいのかなと、そんなことを思ったこともあります。全員が高い志を持って競技に取り組み、お互いを鼓舞し合える関係性を築けているのが大阪公立大学漕艇部のいいところだと思います。女子もインカレでは昨年逃した入賞(8位以上)を目指しています。欲を言えば男子より上の成績を獲りたいですね」と言葉に力を込める。

女子チームも男子を上回る成績を目指している(右から2人目が清水主将)

ボート競技は究極の団体競技

 高校1年からボート競技に打ち込んできた青木は、その魅力についてこう話す。

「ボート競技は『究極の団体競技』と言われています。それぞれの力が強くても、動きが合っていないと速く進めない。全員が同じ動きをすることで艇が進むんです。水の上だけじゃなく、普段の生活から全員が心をひとつにし、動きを合わせることによって、ひとつの艇を動かすことができる。そこがボート競技の一番の魅力です」

 力のある選手がそろっても、動きがバラバラでは、ボートは動かない。クルー全員が心をそろえ、動きをそろえることで艇は目指す方向へ進むのだ。2つの部が統合されて3年目。大阪公立大学漕艇部は心をひとつにし、大きな目標に向けてボートを進める。

(写真提供/大阪公立大学漕艇部 取材・文/小川誠志)

2つの部がひとつになり、目標へ向かって進む

北海道札幌市出身。スポーツライター。日刊スポーツ出版社などを経て2018年よりフリーランスに。

プロフィール

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