ニック・ファジーカス 引退試合「NICK THE LAST GAME」共に戦い続けたメンバーが一堂に集結「一緒にプレーできたのは本当に誇りです」
5月30日、川崎市のとどろきアリーナでニック・ファジーカス選手の引退試合「NICK THE LAST GAME」が行われた。川崎ブレイブサンダース、そして日本代表で共に戦ったメンバーなどが集まり、盛大にその最後を飾った。
(表紙写真©KAWASAKI BRAVE THUNDERS、取材 / 文:白石怜平 ※以降敬称略)
「NICK THE LAST」を飾る豪華メンバー、サプライズゲストも
とどろきアリーナにはファジーカスの功績を物語るように、そうそうたるメンバーが集まった。
2023-24シーズンを戦い抜いた川崎のチームメイトや、かつて”ツジーカス”として川崎の得点源を担った辻直人(現:群馬クレインサンダース)も参加。
加えて、日の丸を背負い戦った田中大貴(サンロッカーズ渋谷)や竹内譲次(大阪エヴェッサ)、Bリーグ初年度から盛り上げ続けてきたベンドラメ礼生(サンロッカーズ渋谷)もラインナップに名を連ねた。
そして、サプライズゲストも登場。コートに姿を表したのは渡邊雄太だった。田中や竹内らとともに日本代表で共闘した渡邊は「今日はニックのために来ました」と、ブレイブレッドのユニフォームに身をつつんだ。
これはファジーカスも知らなかったそうで、その時や会話したことを試合後に明かしてくれた。
「今日アリーナに着いたら彼の名前だったりとかユニフォームがあったのを見たので、これは特別なことだと思いました。
彼とは試合前にも少し話したんですけども、『来年B.LEAGUEに帰ってきたらプレータイムも伸びるし、絶対疲れるよ』と。僕も彼自身がリーグにどれだけの影響を与えられるか、これから見守っていくので楽しみにしています」
試合はTEAM REDとTEAM WHITEに分かれ、REDは川崎の北卓也GMがヘッドコーチ(HC)に、WHITEは今シーズンまで川崎を率いた佐藤賢次HCが指揮を執る。ファジーカスは前半TEAM RED、後半からTEAM WHITEに移ってフル出場した。
40分間出続け、脅威の75得点をマーク
試合は、出場選手がそれぞれの持ち味を発揮した。12年もの間川崎そして日本代表でもファジーカスとプレーした篠山竜青は、最初シュートが決まらないシーンもあったが、第2Qで3Pシュートを決めるなど存在感を放った。
ファジーカスと同期入団で同じ時を刻んできた長谷川技も第2Qで4本の3Pシュートを決め、長年共に攻撃をけん引してきた藤井祐眞も試合を大いに盛り上げた。
またダンクシュートも飛び交い、アリーナが何度も沸いた。ジョーダン・ヒースやロスコ・アレン、トーマス・ウィンブッシュが次々に魅せると、渡邉もファジーカスから受け取ったパスから豪快なアリウープダンクを決めた。
最も活躍した選手はもちろんファジーカス。 40分間フル出場し、なんと73得点・16リバウンドを決めた。
試合終了がいずれも背番号にちなみ残り22.2秒となったところで、代名詞ともいえるフローターシュートを成功させ、さらに残り2.2秒での最後のプレーで辻の3Pシュートをブロックするなど、ハイパフォーマンスを見せた。
北HCは試合後の会見で、「後半疲れてきたかなと思ったんですけど、4Qに盛り返したので、ここまで(シュートを)入れられるんだと思って見ていました。『まだ引退しなくていいんじゃない?』って言いました(笑)」とそのプレーに感心していた。
背番号「22」が永久欠番に制定
試合終了後、セレモニーが行われた。マイクを握ったファジーカス。
「今日は1年目・2年目くらい以来のフル出場をして明日は動けるか不安ですが、すごく楽しかったです」と会場の笑いを誘いながら始めた。
日本でプレーした12年間、共に戦ってきたさまざまな選手たちと最後一緒にバスケができたことについて、
「この試合は後ろのみんながいなければ成り立たなかったものですし、12年間支えてくださったみなさんのおかげですので、感謝を述べたいと思います。ここに集まった選手というのは、僕と一緒に日本バスケットボール界を変えてきたメンバーだと思っています。
みんなの顔を見た時、一人ひとりに対してメッセージや思い出がたくさんあり、語りきれないほどです。僕の引退試合のために多くの選手に集まっていただき、一緒にプレーできたのは本当に誇りです。みんなに感謝したいです」と述べた。
そして、一番大切と語ったファンの方々へも大きな感謝の意を表した。
「12年間の日本でのバスケットボール人生。バスケットボール選手でいるのは本当に特別なことですし、これだけの多くの皆さんに応援してもらえることもすごく特別なことだと思っています。
足を運んでくださったバスケファン・相手チームのファン・川崎ブレイブサンダースファミリーの皆さんなど、いろいろな人が集まってくれたと思います。
5000人の前でこの試合ができたことは感謝ですし、シーズンでも足を運んで応援してくれたファンがいたからこそ、僕の12年間はすごく特別なものになりました。本当にありがとうございました」
その後、北GMから重大発表が行われた。ファジーカスの背番号「22」が川崎の永久欠番に制定された。自身にとってはネバダ大学時代以来の2度目、チームでは北GM以来となる快挙だった。
「永久欠番はすごい選手というだけではなく、人間性も兼ね備えていること。それに加えて、何かをチームにもたらした、街にもたらした、組織に何か変革をもたらした選手というものがなると思っていますので、とても光栄です」とその想いを話した。
「勝利に貪欲で、勝ち続けるチームでいてほしい」
試合後、ファジーカスは北GMとともに記者会見に応じた。まず、川崎に今後引き継いでもらいたいものについて問われた。
「強豪チームとしての文化を残してもらいたいと思います。このチームは僕がいる間に常勝軍団となり、常にチャンピオンシップに出場して、優勝争いにも絡んできたので、そういったものが続くことを願っています。
川崎そして、日本代表においても、僕が植え付けてきたことは『勝ちにこだわること』ですので、勝利に貪欲で、勝ち続けるチームでいてほしいです」
また、ファジーカスを語る上で欠かせないのは日本代表での話。さかのぼること2018年。
東京五輪の自国開催枠取得もかかっていた翌年のFIBAワールドカップ出場へ向け、アジア地区予選を戦っていた日本代表。しかし、1次ラウンドの開幕から4連敗を喫し後がない状況に。しかも、次の相手は当時世界ランキング10位のオーストラリア。
この試合から八村塁(現:ロサンゼルス・レイカーズ)とともに代表入りし、まさに救世主となった。ファジーカスはチーム最多得点を挙げオーストラリアに勝利を収めると、怒涛の8連勝を決めワールドカップそして五輪への出場を決めた。
日本のバスケットボールの歴史を変えたターニングポイントとされており、代表選手のみならずBリーグで活躍する外国人選手もファジーカスに憧れ、影響を受けていると公言する選手も多くいる。このことについて問われると、
「僕が与えた影響というのは、皆さんがどう思ったかが大事だと思うのですが、僕自身あの試合では多くの役割を果たしたと思いますし、(オーストラリア戦の)勝利に関しては大きく貢献できたと感じています。
あの試合があって日本のバスケが変われたと言ってくださるのであれば、僕も日本バスケを変えることができたと思います」と誇らしく語ってくれた。
北GMもファジーカスが日本バスケにもたらしたものについて語った。
「ニックの得点力がピンチを救ってくれましたし、日本の多くの選手に自信を与えてくれたと思います。
国際大会は特にアウェイだとメンタル的にも不利になりますが、ニックはそれでも得点を決めて悪い流れを解消してくれるので、周りの日本人選手たちも『ニックがいるから』と自信を持つことができる。
『自分たちもやればできるんだ』と思いを持てたからこそ、日本のバスケットが強くなった要因だと思っています」
今後については家族との時間を大切にし、ゴルフを極めたいと明かしたファジーカス。ただ、「日本バスケから姿を消すわけでは全くない」とも話し、育成世代に関わっていきたい意欲も見せた。
また、ファジーカスが日本のバスケに関わる時、大きな歴史の扉を開いてくれるだろう。