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香川県でアイスホッケー58年目 香川ジュニアが「香川アイスユナイテッド」へ

この11月に「 ⾹川ジュニアアイスホッケークラブ」から名前を変え、新たなスタートを切った「⾹川アイスユナイテッド」。アイスホッケーを知らない⼦どもたちが、体験を通してその魅⼒に触れ、団結して試合に勝つ楽しさを知ってくれればと、指導者たち、保護者たちが⽇々サポートしている。

社会⼈チーム「⾹川アイスフェローズ」のコーチを兼任しながらジュニアチームの指導をする今政則監督に話を聞いた。

活動時期はリンク営業時期

⾹川アイスユナイテッドは、⾹川県では唯⼀の⼩学⽣アイスホッケーチームだ。監督を務める今政則さんは、古河電⼯から栃⽊⽇光アイスバックスなどを経て⾹川アイスフェローズに⼊団した経歴を持つ。

「⾹川のアイスホッケーを強くしたい、ということで声をかけてもらいました。⾹川って住んだこともなかったので、どんなところだろうと思いながら、普及活動をしてみたいとやって来ました」

それ以来⾹川で活動を続け、選⼿時代からジュニアチームの指導を⾏ってきたが、昨年現役を引退した。

2016年からジュニアチームの指導を続ける今政則監督

地域に根付いた社会人チームがあり、ジュニアチームの歴史も古い。もともと香川ではアイスホッケーが盛んだったのだろうか?

「いや、全然ですよ。アイスホッケーの話をしても、何それ?という感じで。そこまで盛んではなかったですね。アイスホッケー自体が北の地方とは違ってマイナースポーツなので、その辺はすごく苦労するところかなと感じます」

当然、人数確保は常に課題となっている。誰もが知るメジャーなスポーツではないだけに、まず見てもらったり、やってみてもらったりという地道な勧誘が大事だ。アイスホッケー体験は積極的に募集しているが、基本的には何も知らない状態から、まず「滑る」ことを教える。

「子どもたちは早いですよ。ちょっと教えたらすぐ滑れるようになる。教えがいがありますね。それに、防具を着けているので転んでもそんなに痛くないんです」

最近では試合や練習の様子をSNSで発信していて、それを見て体験に来てくれる人もいるという。

社会人出身の指導者から受けられる技術指導は本格的

活動の拠点は、香川県唯一のアイスアリーナであるトレスタ白山。社会人チームの香川アイスフェローズもこのリンクを使う。チームの練習は営業時間外の週2回だ。一般の営業やフィギュアスケート、ショートトラックなど他の競技も練習しており、リンクの使用時間は限られる。

「小学生は練習すればどんどん上手くなるので、本当はもっと練習したいのですが」

アイスアリーナは通年営業ではないため、氷上での活動は9月末から4月末くらいまでだ。その間に複数の大会に参加する。

香川でジュニアのアイスホッケーチームは一つしかなく、基本は県外に出て試合をする。過去には西日本選抜大会という中国・四国・九州・関西のチームのトーナメントで優勝するなど、実績も残してきた。

夏はトレーニング期間 体育館でインラインスケートも

リンクが営業期間外の夏はトレーニングの期間だ。子どもたちも「この時期が大事」と理解していて、モチベーションは下がらない。練習メニューは、氷上での動きに近いトレーニングを中心に考えられている。

今年からは廃校になった体育館の利用が可能になり、インラインスケートを取り入れられるようになった。これまでは真夏でも公園など屋外練習が主だったというから、練習環境としても大きな利点がある。

秋冬のリンクでは営業時間外の早朝や夜に練習し大会に備える

メンバー集めと体験用防具の充実に苦労

現在のチームメンバーは男女混合で小学生が19人。4~5人の指導者がいて、最低でも3人で練習の指導に当たる。コーチのうち2人はこのクラブの出身で、就職して香川に戻り、子どもたちの指導を行っている。

コロナ期を経て全体の人数はなかなか増えていない。リンクの使用代金を部費で賄うのは大変で、悩みの種は尽きないのが現状だ。

アイスホッケーは道具が多い。スティックやスケート靴のほか、防具はヘルメットとフェイスガード、グローブ、ショルダーパッド、エルボーパッドなどなど。防具は各自で買うことになるが、体験用の防具は揃えておく必要がある。

「子どもはサイズもバラバラで、合う合わないがあります。防具がもっとあれば、体験人数を増やせるのかなと思うのですが」

OB・OGとの繋がり 教え子と国体で共闘できたことが区切りに

現在社会人の香川アイスフェローズには、このクラブ出身の選手がいる。クラブを卒業したOB・OGたちがジュニアの指導に来てくれることもある。保護者や卒業生の伝手でスポンサーが増えることもある。人との繋がりがクラブの支えだ。

かつて香川とは縁もゆかりもなかった今監督だが、昨年まで香川で現役を続けていた中で、大きな出来事があった。

「このクラブを卒業して大学生になっている現役選手がいるのですが、その子が香川県代表として国体に出場することになり、昨年僕は、教え子と一緒に冬季国体に出ることができました」

この上ない嬉しさと、そして「一区切り」という実感があった。「これでやっと終われるな、と。それで自分は選手を引退したんです」。

アイスホッケーの魅力は「何よりもスピード感」

8歳の頃から37年間現役を続けた今監督。アイスホッケーの魅力は「何といってもスピード感」だという。氷上を滑るスピード感。パックを奪い合い、パスをする。高速シュートでゴールを狙う。

小学生以下では、「氷上の格闘技」と形容されるボディチェック(体当たり)は禁止されており、小さい子どもでも安全に楽しむことができるが、ぶつかり合いも醍醐味の一つだ。

スピード感は何よりの魅力

「アイスホッケーは、スポーツの中ではめずらしく、ゴールの裏が使える競技なんです」

ほかの競技にはない道具やルール、氷上限定のプレーというハードルになる部分も「やってみてハマる魅力」なのだという。

団体競技として「みんなで頑張って、みんなで勝つ」

今まで8年間子どもたちを指導してきた中で、監督自身に変化はあったのだろうか。

「教え始めた頃は、自分自身が実業団で勝負していたので、どうしても勝ちを意識していました。でも勝とう勝とうというプレッシャーがあると、プレーがどんどん小さくなってしまうんです」

そこからはいろいろ考えた。他競技の指導者の本やメンタルの本などを読み、考え方は少しずつ変わっていった。

「結果のみではなく、プロセスも大事にしようと考えました。例えば上手い子が一人いて勝っても、団体競技としての楽しみがない。みんなで頑張って、みんなで勝とうと。だから、今はそこまで勝負にこだわっていません」

今監督が子どもたちの指導をするとき、大事にしている「理念のようなもの」がある。

「アイスホッケーは個人競技とは違います。相手も必要だし、レフェリーや進行してくれるオフィシャルの方、サポートしてくれる保護者たち、全ての協力のもとで試合ができています」

一番大事なのはチームの仲間。そして、対戦する相手も、支える周りの人も、すべてが揃っていなければアイスホッケーはできないのだ。

「だからその全てに対してリスペクトと感謝をして欲しいと思う。そこを目指してチーム作りをしています」

「リスペクトと感謝」の心を大事にし、心も強い選手へ

香川ジュニアアイスホッケークラブから香川アイスユナイテッドへ

香川県にアイスホッケーが根づいて58年目。アイスホッケーの普及のため、子どもたちにアイスホッケーの楽しさを伝えながら、「高松国際ジュニアアイスホッケークラブ」「サーパス穴吹アイスホッケークラブ」「サーパス香川アイスホッケークラブ」「香川ジュニアアイスホッケークラブ」と時代とともに名前を変えて活動してきた。

また一歩先へ進むため、2024年11月に「香川アイスユナイテッド」へとチーム名を変更し、新たなスタートを切った。園児や小学生だけではなく、中・高・社会人にまで輪を広げ、香川のアイスホッケーをより活発にしようという方向性だ。

「現在は小学生のみの活動ですが、ゆくゆくは中学生、高校生も一緒に活動していく予定です。将来的には活動を広げ、生涯スポーツへと発展させていきたいです。社会人の香川アイスフェローズは、競技経験者が国体など上を目指すようなチームですが、社会人でも楽しんでアイスホッケーを続けていけるチームを作り、アイスホッケーを楽しむ輪を広げていきたいですね」

(取材・文/井上尚子 写真提供/香川アイスユナイテッド)

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