シドニー五輪銀、永田克彦さんが語る『本物の筋肉』とは

「本気の筋肉づくりを目指しています」
柔らかな笑顔で、新ジムのオーナーはそう語った。

シドニーオリンピック、レスリンググレコローマン69㎏級銀メダリストであり、アテネオリンピックにも出場、さらには47才となった現在も現役を続けるアスリート、永田克彦氏が新たに設立した新ジム『MUSCLE-WIN(マッスル・ウィン)』。
今月、オープンを迎えた筋肉トレーニングジムへの自身のこだわり、お客様へメッセージ、さらには筋肉についての想いなどを語ってもらった。

新ジムへ込められた思い、こだわりとは

はじめに、ジムの名前『MUSCLE-WIN(マッスルウィン)』に込められた意味、そしてその背景を聞いた。

「機能的な筋肉づくりを応援、指導するジムとして願いを込めています。
僕自身、競技生活の中でも筋肉トレーニングは欠かせないものでしたし、一般の皆様の筋肉作りを応援したいという意味もあります。鍛えることで、日常生活、人生において“勝つ”ということに繋がってほしいと思っています。
僕の名前にも『克』の文字があります。『レッスルウィン』(永田氏による2010年オープンの格闘スポーツジム)というもう一つのジムもあり、(ジム名にある)『ウィン(Win)』は単に勝ち負けだけでない、レスリング、トレーニングを通して自分に、そして人生に「勝つ・克つ」という意味もあり、好きな言葉なんです」

2015年、全日本選手権では13年振りの優勝を果たす

新ジムの大きな特徴といえるのが『フリーウェイト』だ。多くのトレーニングジムで設置されているような設備、マシンは置かず、ダンベルやバーベルのみでのトレーニングを行い、一般的なジムとは一線を画すスタイルと言って良いだろう。そこには永田氏本人の強いこだわりがあった。

「僕自身、フリーウェイトだけでトレーニングしてきましたし、フリーウェイトだけのジムは少ないんですよね。フリーウェイトだけで十分鍛えられるし、ボディメイクでの効果や競技成績も上げられます。
一般の(マシンを置いた)ジムでは、思い切りフリーウェイトでのトレーニングを行うとなると、どうしても肩身が狭く感じる部分もあり、ある意味ではマニアックでもある。
だからこそ、『本気の筋肉作り』を応援するためにもフリーウェイトのみとしました。他のジムではなかなか無い、リフティング・クイックリフト(バーベルを持ち上げ、床に下ろす)のプラットフォーム(リフティング専用の床)も取り入れています。
僕自身も好きなトレーニングですし、それらを自由に『ガンガン』と行うことが出来るのが新ジムの大きな売りですね。」

動きの軌道が決まっているマシンでのトレーニングとは逆に、自由な可動域を活かして、角度を少し変えることで様々な効果を得られるというフリーウェイト。
もちろん、トレーニングのサポートへの意識も強い。

「フリーウェイトって、物凄く鍛え上げられる反面、リスクもあるんですよね。正しいフォームで行わないと、効果が上がらないだけでなく、怪我に繋がったり、逆に動きが悪くなったりもします。だからこそ、自分が長年、培ってきたやり方をしっかり伝えていきます。」

アスリートとしての経験が裏付けとなる筋肉への熱量

今回、『マッスルウィン』という、筋肉を鍛えるという部分に特化したジム設立に至った大きな理由には、トップアスリートとしての経験、さらにはトレーニングを志すお客様への願望が込められていた。
そして何より、永田氏自身の『筋肉への情熱』が新しいジムのコンセプトとなっている。

「僕自身が筋力トレーニングを自分なりに工夫し、やり方をみつけながら続けたことで競技での成績を上げることが出来ました。
アスリートに限らず、一般の人も、トレーニングを続けることで長く身体を動かすことができる、ずっとポジティブな気持ちでいられるといった、筋肉づくりによって一人一人の可能性を広げていけることも伝えていきたいです。
大勢の人にトレーニングを通して、前向きに可能性を広げていってほしいし、僕自身もこれからもさらにガンガン鍛えて、パワーアップしていきたいですね。」

重量により色分けされているウェイト

これまでも、そして今後もさらに鍛え続けていくという永田氏。長年の競技人生での経験から、筋肉の中でも特にトレーニングで意識した部位についても語ってもらった。

「背中の筋肉を重視しますね。トレーニングを行う上でもそうだし、体つきをみるうえでも背中を見ちゃいますね。
広背筋、大円筋、棘下筋など、色々あるんですけど。特に、背中の筋肉はアジア人と欧米人では根本的に違っていて、アジア人が弱い部分でもあるんです。
アスリートは背中を鍛え上げることで、パフォーマンスが変わってきますし、一般の人も見栄えが良くなりますね。」

もちろん、知識の下地にあるのは学生時代よりトップレベルで戦い続けた、レスリングでの競技生活だ。数多くの国際試合等を通して蓄積された経験により発せられるその言葉には、やはり説得力がある。

「(欧米人は)レスリングでも組んだ際の引き付けが強烈ですし、瞬発的な力も違います。先天的な部分でもあり、(アジア人と比較し)差はありますね。骨格などの違いもある中で、いかに欧米人の背中に近づけるか。
そのためには背中を軟らかく、大きく使うことを常に意識してトレーニングすることが重要だと感じ、様々な鍛え方で試行錯誤してきました。」

トレーニングでのポジティブな効果は精神面にも

ジムへ足を運ぶ多くの人々にとって、アスリートとして、またボディメイク、アンチエイジングといった、様々な方向を目指す中で、根底に根付いている共通な意識を育てることに力を入れたいと永田氏は語る。

「ジムへ通われる人はそれぞれが、トレーニングへの目的、目標をもっています。その中で、前向きに目標に向かって自分を高めようとする意識は誰もが持っていると思います。
特にそういうお客様に集まってほしいですね。今の自分よりも少しでも上に行こう、伸ばして行こう、チャレンジして可能性を広げて行こうという思いを持った人に来て欲しいし、何とか変わりたいという思いの人にも来てもらい、前向きな意識を高めていきたいですね。」

筋力トレーニングを続けることで得られる効果は、外見はもちろん、内面にも変化を及ぼすというメリットもあるという。
お客様の自己実現に向けてのアドバイスも。

新ジム内には様々なトレーニング設備が

「自信がつきますね。見た目が変わり、自分の変化に気づくとポジティブになり、前向きな気持ちになりますね。もちろん、その成果を得るためには、それなりに頑張らなきゃいけないところもあります。
例えば、同じ重さで10回を続けたら、次は11回上げようとする。さらにその次のセットでは、出来る限りの回数を目指し、その為に持っている力を出そうとする。そうすることで筋力は発達し、筋肉が付いていきます。自信もつくし、自分を越えよう、現状の自分を打破しようとチャレンジしようという、前向きな姿勢になっていけると思っています。

(様々な要素で結果が変化する)格闘技とは異なり、トレーニングはちゃんとやったことに対して、確実に成果がでます。
見た目や機能、数値なんかにはっきりと表れることで、内面、メンタルへの影響は大きく、ポジティブな気持ちになるし、もっともっと頑張ろうと、チャレンジ精神が得られるんです。
トレーニングを続けることで、変わっていける、自分の持っている可能性を広げていける、そういうことを伝えていきたいですね」

『本気の筋肉作り』を通して、フィジカル、メンタルともに変えていくことが出きると力強く語る永田氏。常に柔らかい口調ながらもその言葉は、激しく伝わる程の熱を帯びている。
何より、筋肉トレーニングの魅力や方法の伝え方には、極めて深い説得力を感じた。そして、「前向きに」「ポジティブに」というフレーズが頻繁に発せられたこともあり、聞く側のこちらの気持ちも豊かにしてくれる、そんな印象も受けた。

現在、新オープンにあたりクラウドファンティングで出資を募っている。ジムに通うお客様がこれまで以上に安心して汗を流せるように、コロナ禍での感染対策・安全のための設備をはじめとする、トレーニング環境を充実させることが目的だ。安心・安全の中、多くの人が自信をつけ、ポジティブになっていく…。永田氏が見据えているのはそんなジムの光景なのかもしれない。

次回、中編ではその人柄、人物像に迫る。
(取材 / 文:佐藤文孝)

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