秩父宮ラグビー場でアメフト初開催「最高の箱が競技の素晴らしさを伝えてくれる」

アメフト・Xリーグ開幕戦が、8月29日(金)に“ラグビーの聖地”秩父宮ラグビー場(以下秩父宮)で行われた。
富士通フロンティアーズ (以下フロンティアーズ)と富士フイルム海老名MinervaAFC(以下ミネルヴァ)の対戦。フロンティアーズがミネルヴァを「37-0」と圧倒、リーグ制覇へ向け順調な滑り出しを見せた。
都心開催というアドバンテージはあったが、速報値で7,276人の観客が集結した。昨年8月31日(土)、同カードで行われた開幕戦(富士通スタジアム川崎)の観客数は582人。「方法次第でアメフトにも客が集まる」ことを証明できた開幕戦だった。
2026年からは『X Premiar』を頂点とした、ライセンス制度導入による新リーグが始まる。今回の秩父宮開催は、新リーグへ向けての期待を抱かせるにも十分なもの。各クラブも各々がしっかりとした課題を持ち、この日に挑んでいた。

~秩父宮を継続的に使わせて欲しい(フロンティアーズGM・常盤真也氏)
キックオフ約3時間前のメインスタンドには、希望に満ちた瞳でピッチを眺めるフロンティアーズGM・常盤真也氏の姿があった。
「秩父宮で試合ができるのは本当に嬉しい。開催が決まってから、多くの方々から声をかけられました。『アメフトは日本ではマイナー競技』と言われ続けている中、注目を浴びる中でプレーできるのが嬉しいです」
日本社会人協会設立40年と、Xリーグ30年目の記念事業として開幕戦は開催された。「伝統ある場所でプレーできることに喜びと感謝しかないです」と続ける。
「都心のど真ん中という立地に優れています。また球技専用スタジアムなので、スタンドとの距離がすごく近いのも良い。選手同士のぶつかり合う音、試合中に絶え間なく発する声や息遣いを感じてもらえるのではないでしょうか」
「個人的希望を言えば、今後もアメフト界に使わせていただければ嬉しい。もちろんラグビーの試合がない、空いている時で構いません(笑)。頂点を決する東京ドームという“聖地”もありますが、やはり箱が大き過ぎて競技の良さが伝わりにくいですから」
アメフト人気を高めるためには、同競技の面白さや迫力がスタンドへダイレクトで届くことも重要。「球技専用スタジアムが果たす役割は大きい」という。
「普段は富士通スタジアム川崎を多用します。球技専用でスタンドが埋まった時の雰囲気も素晴らしい。しかし収容人数が少なく(約3,800人)、ビッグゲームになると入れない人もいる。約25,000人収容の秩父宮を使用できれば、多くの人に楽しんでもらえます」
2029年11月には新・秩父宮として、約15,000人収容の屋内型に生まれ変わる予定。「天候に左右されない素晴らしいスタジアムをアメフト界にも使わせていただければ…」とも語る。Xリーグを牽引するフロンティアーズGMは、プレー環境の更なる向上を望んでいる。

~秩父宮での経験を地元に持ち帰りたい(ミネルヴァGM・松井孝夫氏)
秩父宮の敷地内には、両クラブに関わる多くのブースが出されていた。炎天下の中、ミネルヴァGM・松井孝夫氏は展示物の準備を汗だくになって手伝っていた。
「フィールド内のことは、朝倉孝雄・ヘッドコーチをはじめとするスタッフに任せています。GMとして今やるべきことは、選手・スタッフが気分を高めてプレーできる環境を整えること。そしてホーム・海老名市をはじめとする、支えてくれる地域や人々との関係性を作り上げることです」
ミネルヴァは『X Premiar』参加も決定している。ライセンス維持のためには2億円以上の事業費が必要になるなど、強固な地盤作りが必要になる。
「ミネルヴァには大口スポンサーだけでなく、中小スポンサーも数多くいます。秩父宮開催ということで、スポンサーが一堂に会することができました。みんなが1つになって、今後に向けて何ができるかを実験する場所にもしたいです」
「スポンサー同士もチームとして1つにまとまる。雰囲気が格段に良くなると思うし、やれることも増えるはずです。それらをホームの人々に還元できれば、地元との関係性も強固になると信じています」
「2030年に日本一になる」と掲げている。そして、フィールド内外における総合評価も大事にする。「ミネルヴァを応援するのには意味がある、と感じてもらいたい」と強調する。
「試合は勝ちに行きます。でも現状におけるフロンティアーズとミネルヴァの立ち位置は異なります。これだけの大観衆の中での試合や運営経験もありません。まずは秩父宮に集まってくれた1人ひとりと真剣に接して、何ができるかを知りたいです」
「秩父宮という素晴らしい箱での経験を、ホームに持ち帰りたい」と付け加えてくれた。地元に根付いて応援してもらえるクラブになるため、「今すべきこと」に注力している姿が印象的だった。

~アメフト人気を高めるため、秩父宮開催は素晴らしい試み
フィールドに立つ選手達にも特別な思いがある。日本では話題になりにくいアメフトだが、秩父宮開催は各方面から大きな注目を集めていることを感じている。
「秩父宮開催は素晴らしい試みだと思います」と笑顔を見せるのは、ミネルヴァ主将・市川司韻(シイン)だ。
「ラグビーの試合をスタンドで観たことはありますが、自分がここでアメフトをプレーするとは思わなかった。注目度の高さを感じていますし、“ラグビーの聖地”でプレーできるのが本当に楽しみです」
「ラグビーが人気競技になったのも、W杯等を通じて多くのメディアに取り上げられたからではないでしょうか。アメフトはそういった機会が圧倒的に少ないので、こういう新しい企画や挑戦をどんどんやって、多くの人々に競技自体を知ってもらいたいです」
「フラッグフットが2028年LA五輪では正式競技にもなったので、今がチャンスです。選手は必死にプレーして、観ている人に何かが伝わってくれればと思います」と、日本アメフト界の未来への思いを吐き出してくれた。

「今後に向けて盛り上げるぞ、というXリーグのメッセージを感じます」と、フロンティアーズ主将・大久保壮哉は冷静に語る。
「秩父宮は“ラグビーの聖地”でもあり、日本を代表するスタジアムです。ここで初めてアメフトを開催することに対して、Xリーグの本気度や覚悟のようなものを感じます。『選手・関係者・ファンがみんなで盛り上げていこう』という思いに受け取れます」
「アメフトは米国では人気があります。本当に面白い競技なのに、日本ではマイナー扱いをされてしまう。もちろんレベルの違いもあるでしょうが、各々がもっと本気になる必要もある。『新リーグ化もそのためにある』と認識して必死にプレーしたいです」
「人生を賭けてアメフトをやっています。人気が出ない現状には歯痒い思いもあります。だからこそ、こういうチャンスを1つずつ大事にしたいです」と、前向きな姿勢を崩さない。

「試せることは何でもやってみるべき。今後の秩父宮開催の可能性を含め、盛り上がるためにできることはやる。フロンティアーズとしては、『一丸となれた』と納得できる戦い方で、日本一を勝ち獲りたいと思います」(フロンティアーズGM・常盤真也氏)
「いつの日か日本一になった時、我々がやってきたことが認めてもらえれば嬉しい。そのためにも言い訳せず、1歩ずつで良いから進むしかない。これは日本アメフト界全体にも言えるのではないでしょうか。みんなで前進して盛り上げていきたいです」(ミネルヴァGM・松井孝夫氏)
新リーグ構想に関しては、ドラスティックな改革も伴ったため多くの意見を目にした。それでも導入に踏み切った背景には、日本アメフト界が抱く危機感がある。秩父宮開催という「飛び道具」もその1つではないだろうか。
この日、集まった人々にはアメフトの魅力の一端は伝わったはず。エンタメの本場・米国で老若男女に人気がある競技が「つまらない」わけはない。次回、秩父宮でのアメフトが行われた時には、さらに多くの人々でスタンドが埋まる風景が目に浮かぶ。アメフト人気が、少しずつでも高まっていくのを確信した開幕戦だった。
(取材/文/写真・山岡則夫、写真・秋山仁美、取材協力/Xリーグ、富士通フロンティアーズ、富士フイルム海老名MinervaAFC)