フルコンタクト空手~『インカレ(大学)』と『カラテ甲子園(ジュニア)』が及ぼす大きな影響とは
フルコンタクト空手の競技人口が増えており、各大会が盛り上がっている。同日開催された『インカレ(大学)』と『カラテ甲子園(ジュニア)』の会場には多くの空手戦士達が集い、汗ばむような熱気で溢れかえっていた。
11月23日、『第4回JKC全日本フルコンタクト空手道選手権大会(以下インカレ)』と『第19回JKJO全日本ジュニア空手道選手権大会(以下全日本ジュニア)』が、国立代々木競技場第一体育館で開催された。
「限界突破~限界を超えろ!」を掲げた全日本インカレには、男女13部門に115校179人の選手がエントリー。2022年の大会創設時に大学1年だった学生が卒業年を迎えた大会は、例年以上の盛り上がりを見せた。

~インカレのレベルが上がっているのを痛感します(三ヶ島玲奈)
大会に先立って選手宣誓を行ったのが、インカレ1部女子に出場した三ヶ島玲奈(城西国際大/無限勇進会)。「『インカレができる』と聞いた時の喜びを覚えています」と満面の笑みで答えてくれた。
「インカレができる前まで、大学生は一般(=社会人)に混じらないといけなかった。レベル差等も踏まえ、出場を躊躇する選手もいたと思います」
また、大きな大会となると関西地方を中心に開催されることが多かった。遠征費等の負担を考えても、大学生には厳しい状況だったという。
「学生の中には一人暮らしをしている選手もいて、負担が大きくなります。関東開催でのインカレ開催には誰もが喜んでいました。競技に専念することができました」
第1回大会から出場を続けた中、インカレのレベルが確実に上がっていることも実感する。
「どの選手も遜色なく、懸命に戦っていて、誰が勝ってもおかしくない感じ。その中で結果を出せるように、普段から練習に励みました」
在籍する大学空手部はフルコンタクト空手ではないが、同競技に挑む三ヶ島に対して顧問や他部員が理解と協力をしてくれる。「城西国際大の名前を背負えることに喜びと誇りを感じます」と強調する。
「この先も競技に関わっていきたいですが、まずはインカレが1つの区切りです」と、充実した表情で締めくくってくれた。

~試合中の打ち合いは楽しい(浦山竜精)
同じく選手宣誓を行ったのが、高校男子70kg未満に出場した浦山竜精(武奨館吉村道場)。小学3年から始めたフルコンタクト空手に、“現在”を捧げている。
「今までは年齢が上がると、大人の大会に出ないといけませんでした。もちろん、そこでも勝てるように練習しています。でもその上で、インカレという年代別の目標もできたのは、“やりがい”になると思います」
年齢が上がると一般に混じっての大会出場となる。今まで多くの選手がぶつかってきた壁だったようだ。
「どの競技でもそうだと思いますが、モチベーションや気持ちが大きく左右します。一般の大会で勝つことばかりを考えると、正直、シンドク感じることもあります。同年代の大会があってライバルのことを考えれば、『負けたくない』と思えます」
年上の強豪選手に勝つことは大きな喜びと自信になる。同時に同年代で切磋琢磨することで、成長も大きなものになるはずだ。
「同年代の大会で負けているわけにはいかない。でもレベルがどんどん上がっているので、簡単にはいきません。上だけを見て背伸びするのではなく、地に足をつけることが大事。同年代の選手にしっかり勝ち切っていきたいです」
ジュニア時代から強豪として知られた浦山は、高校生になっても順調に成長を遂げている。
「フルコンタクト空手は本当におもしろい。打ち合いは楽しいし、勝てば最高の気分です。どんどん強くなりたいです」
「先のことは考えず、今を頑張って、試合に勝って楽しみたいです」と自信に溢れた表情が印象的だった。

~人生を通じてフルコンタクト空手に携わって欲しい(紅谷凱、新里誠光)
開会式で注目を集めたのが、現JKJOチャンピオンの2人。一般男子軽中量級・紅谷凱(極真拳武会さいたま浦和支部/日本体育大)と一般男子軽量級・新里誠光(武立会館/立教大)だ。
共に大学3年で仲の良い両選手は、9月21日に開催された第17回JKJO全日本空手道選手権大会(愛知)で頂点になったばかり。今大会の出場は見合わせたが、開会式でルール説明のための実演を披露した。
「来年5月の全日本フルコンタクト空手道選手権大会(以下全日本)を考え、出場を見送りました。激しい競技で、怪我の心配があります。万が一の場合、間に合わない可能性もありますから」(新里)
「同様の理由です。来年5月の大会で勝ちたい。先日(11月頭)も試合があって、身体全体の回復をしている段階でもあります。ここから調整を重ね、ピークに持っていきたいと思います」(紅谷)
5月の全日本は、普段は対戦機会も限られる複数流派が集結して頂点を決める大会。文字通りの“日本一”を目指すための苦渋の決断でもあった。
「日本一を目指す限りは、最高の状態に仕上げないといけません」と、両者は同じコメントを残す。

「(新里は)スピードが速い。技術も飛び抜けていて、『そこに来るか』という攻めがあります。そうかと思えば、熟練のベテラン選手がやるような攻めもする。気の抜けない選手です」(紅谷)
「(紅谷は)常に相手のスキを狙って正確に攻撃してくる。特定の型ではなく、全てにおいてレベルが高いコンプリートでオールマイティーな選手」(新里)
ジュニアの頃から何度となく対戦を重ね、お互いを知り尽くした間柄。今では友人でありライバルの関係でもある。今年から階級が変わり対戦機会もなくなったが、これまでの各試合を鮮明に覚えているという。
「素晴らしい競技なので、大会参加はもちろん人生の趣味として続けたい。インカレもできたので、ジュニアや中高生の選手達には今後も楽しんでもらいたいです」(新里)
「ジュニアを卒業すると、他競技に移る選手も多く見かけました。面白い競技なのに、勿体ないし寂しく感じます。礼儀も含め人生が豊かになるし、多くの人に長く携わって欲しいです」(紅谷)
日本を代表する2選手からは、フルコンタクト空手を心から愛しているのが伝わってきた。

~インカレと社会人の両方で勝ちたかった(河合透吾)
各階級で熱戦が繰り広げられた中、大会前から注目を集めていたのが、1部男子重量級・河合透吾(北海商科大)。過去3回のインカレ出場で2度の優勝、最終学年の今年も見事に優勝を飾った。
「インカレができた1年時から卒業まで、4連覇を目標にしていました。昨年、負けてしまったことが本当に悔しかったので、その後は文字通り“全力”で打ち込んだ。(敗戦は)今になれば、成長させてくれたので感謝しています」
同階級では日本屈指の強豪としても知られる。インカレのみでなく、一般(=社会人)の大会でも結果を期待される立場だ。
「他大会との絡みもあり、インカレ出場を迷った時期もありました。でも最終学年の大会なので、出たいという気持ちが勝りました。怪我のリスクもありましたが、『インカレで勝つことが次に繋がる』と信じていました」
イチ空手家としてはもちろん、イチ大学生としての立場も理解している。インカレを大切に思う気持ちは誰にも負けない。
「『同年代には負けたくない』という思いが、日々の練習の励みになっていた。いろいろな考え方があると思いますが、僕は『両方で勝ちたい』とずっと思っていました」
「インカレは一般(=社会人)の大会に比べ、レベルが劣る部分も多少はあるかもしれません。でも大事なものが存在すると思います。仲間やライバルと共に競い合う時間、思いなどはかけがえのないものです」
大会前からメディアに注目されるなど、重圧はあったはず。しかし結果を残した後の満面の笑顔は、本当に輝いていた。

「フルコンタクト空手は最高です」と、話を聞いた全選手が口にしていたのが印象的だった。“リップサービス”ではなく、心からの思いのように感じた。
「フルコンタクト空手の中高生における競技人口が20%ほど増えている」というデータもある。競技を続ける選手達が誇りを持てる同競技は、この先も右肩上がりで成長・進化を続けていくはずだ。
(取材/文:山岡則夫、取材協力/写真:全日本フルコンタクト空手コミッション)
