湘南ベルマーレを愛して27年、チームと生きる男の新たな挑戦とは
「ベルマーレが好きなんです」
笑顔で語るのは、湘南ベルマーレフットサルクラブの鍛代元気(きたいげんき)選手。
サポーター、コーチを経て現在は湘南ベルマーレのトップ選手として活躍。
物心がつく前の幼少の頃からスタジアムへ足を運び、
湘南ベルマーレと共に生きてきた彼は愛するチームのために新たな挑戦を決意した。
変化を恐れた10年前
幼少期から湘南ベルマーレのサポーターだった鍛代選手は、自身もサッカーとフットサルを経験し、高校生のときに「サッカーコーチになる」という夢を志す。サッカーコーチになることを目指して専門学校へ進学。
卒業後は幼少期から応援していた大好きな湘南ベルマーレでサッカーコーチとして指導するチャンスが巡ってくる。夢を叶えた鍛代選手だが、コーチになって1年後に「フットサルクラブの選手を目指したい」という想いを描きだした。新たな一歩を踏み出すことに不安や迷いはなかったのだろうか。
「実はめちゃくちゃ迷いました。大好きなベルマーレで夢であったサッカーコーチになることができたのに、フットサル選手という違う道を目指すことへの迷いがありました。
自分の中で葛藤が続き、なかなか一歩を踏み出すことができませんでした。」
当時22歳だった鍛代選手。
「やるぞ!」という自分と「本当にこの道でいいのか?」という二人の自分と戦っていたという。変化を恐れた鍛代選手の背中を押したのは当時活躍していた先輩選手たちだった。
「一人で決断したと言うよりは、背中を押してもらった部分がとても大きいです。
フットサル選手としてチャレンジするなら今しかないだろうという話をいただいて決意が固まりました。だからこそ自分のフットサル選手人生は自分だけのものではないと感じています。コーチが選手になりたいなんてありえないことなのに、話を聞いてくれる。
なんとかしようとしてくれる。
そういうところも今振り返れば、ベルマーレらしさだなと。」
その後は、サッカーコーチを続けながらサテライトチームである「P.S.T.C.LONDRINA(当時)」でフットサル選手としての活動をスタート。徐々にトップチームの練習に呼ばれるようになり、サッカーコーチとの両立が厳しくなったときも湘南ベルマーレは彼を見放さなさず、アルバイトとしてサッカーコーチを続けることになった。
どこまでも湘南ベルマーレの「あたたかさ」が窺える。
今は亡き恩人”ヒサさん”が教えてくれたこと
鍛代選手のフットサル選手人生を切り開いた一人とも言える久光重貴氏は、
2020年12月19日に肺がんのため亡くなった。
彼を「ヒサさん」と慕う鍛代選手は思い出を振り返る。
「ヒサさんとは本当に長い時間を一緒に過ごしました。『ちょっと迎えに来いよ』って、後輩である自分とコミュニケーションが取れるように一緒に居られる時間を作ってくれたこともありました。
特に忘れられないのが『そのままでいいのか』という言葉。
即戦力として既に活躍している選手を追い抜いていくためには、チーム内でのトレーニング以上の練習が必要でした。そんな時に、ヒサさんは『まだ足りない』と言うだけではなく、一緒にトレーニングをしてくれたんです。」
久光氏は、声をかけるだけではなく自主トレーニングにも積極的に誘い、若き鍛代選手を導いた。チーム練習後や仕事後にいつも「坂道ダッシュ」に誘ってくれたという。
「ヒサさんは、本当にクラブのためを思ってプレーや行動をしていました。
心が温かい選手で、僕はもはや彼のファンです。
フットサル選手としての礎を築いてくれた人。僕も後輩にそんな背中を見せたいです。」
改めて実感した応援してくれる「人」のパワー
世界中の人々がこれまでの「当たり前」を奪われたコロナ禍。
フットサル界においても多くの試合が無観客のリモートマッチで開催された。
これまでは当たり前だった試合会場での声援が聞こえなくなった今、感じていることがあるという。
「会場にお客さんがいるかいないかで試合の面白さが全然違うことを今シーズンは本当に痛感しました。応援されていることがこんなにも力になっているんだなと。
これまで、お客さんが会場にいない試合を経験したことがなかったから、改めて応援してくれる人の存在の大切さを実感しました。」
人とのつながりが希薄になりがちなコロナ禍で「応援してくれる人」の力を改めて実感した鍛代選手は、クラウドファンディングという新たな挑戦を決意した。
「実はクラウドファンディングには以前から興味がありました。クラウドファンディングは、お金を集めるだけではなく、支援をしてくださる人の『想い』を集める力があります。例えば、1人から100万円をもらうより、1人1万円を100人の方から支援してもらうことの方が価値がある。それだけ人の『想い』は大きな力になるんです。
そして、応援されることのありがたさや『人』の力を後輩にも感じて欲しい。」
今回、クラウドファンディングに挑戦することで後輩や若手選手へ「挑戦する姿勢」を示したいという。
「今は大好きなベルマーレでフットサル選手として活動をすることができていますが、いつかは選手を引退しなければならない時がやって来ます。僕自身はセカンドキャリアに対しての不安はなく、むしろワクワクしているんです。
僕はフットサル選手だけど、選手ではない時間もあります。選手じゃない時間も選手としての自分に良い影響を与えることならどんどんチャレンジするべきだと思います。フットサル選手として全力を注ぐのはもちろんですが、引退後のキャリアを見据えた取り組みは大きな経験になります。」
鍛代選手にとってのクラウドファンディングは「資金を募る」ではなく、「応援してくれる人の想い」を集めるという意味を持つようだ。今回のプロジェクトを通して、個人トレーナーをつけることでパフォーマンスを向上させ、大好きな湘南ベルマーレを勝利に導こうとしている。
「チームで行うトレーニングにプラスして自分に足りない部分を強化しています。自分の質が上がることで結果的にクラブのためになります。」
今年32歳になる鍛代選手だが、27、28歳の頃はパフォーマンスの低下に悩んだ時期もあったという。フットサル選手としてのピークを感じた時期を乗り越えられたのは、やはり湘南ベルマーレへの愛だった。
「ベルマーレと生きている人生が幸せなんです。ベルマーレのユニフォームを着てプレーが出来る限り続けていたい。最近はプレーもメンタル面も成長している実感があります。だからこそ今回のプロジェクトを通して成長を加速させたい。『あ、なんか成長したな』ではなくて『進化したな。変わったな』というところまで持っていきたいです。」
「チームを勝たせる選手になります」
「自分史上最高はこれから」と語る鍛代選手。
最後に、今シーズンにかける想いを聞いた。
「湘南ベルマーレはまだタイトルを獲ったことがないんです。だから、今シーズンはタイトルをとって優勝パレードをしたい。そのためにも僕のプレーの質を上げて全身全霊で戦う。僕はチームを勝たせる選手になります。」