スポーツの価値を引き上げる F-connectが秘める可能性(前編)
かつてプロスポーツ界では「時間があれば練習を」という考えが一般的で、選手は競技の向上に多くの時間を割いていた。しかし現在は技術の研鑽はもちろんのこと、個人で社会貢献活動を行ったりスポーツ以外のジャンルで才能を発揮したりとスポーツ選手の価値が多様化している。きっかけは様々だが、現役Jリーガーの小池純輝と梶川諒太(ともに東京ヴェルディ)は“フットボールで繋げる、フットボールが繋げる”という思いでF-connectを立ち上げ、毎年児童養護施設に訪問している。今年はサッカーと農業がコラボした「エフコネファーム」を立ち上げ、活動の場を広げている。
F-connectを立ち上げた小池と梶川、途中加入し主要メンバーとして活動している野村直輝(大分トリニータ)の3人が考えるスポーツの価値とは?
■実際に訪問し、会って“フットボールで繋げる”がコンセプト
――まずはF-connectを設立された経緯を教えてください。
小池:最初のきっかけは2014年。僕が横浜FCでプレーしていたときに当時のクラブスタッフの方から「プライベートで児童養護施設に行ってくれないか」とお願いをされました。快く受けましたがプライベートのお願いだったので、家が近くてよく会っていた梶川(当時湘南ベルマーレ)を誘って、2人とクラブスタッフの方と一緒に鎌倉児童ホームに訪問しました。最初は少年団に行ってサッカーをするような軽い気持ちで行きましたが、歓迎がすごかったよね、カジ。
梶川:すごかったですね。
小池:体育館にみんなが集まってくれていて「ようこそ!」と。待ち構えてくれていたので、すごく驚きました。その後施設のグラウンドでサッカーをしました。楽しい1日が終わり、後日横浜FCの試合に来てくれました。横浜FCの本拠地・ニッパツ三ツ沢球技場はフットボール専用の球技場で、ピッチとスタンドが近くて観客席から声が聞こえるくらいです。僕はサイドを走るポジションで、ピッチを走っていると子ども達が勝っていようが負けていようが関係なく、1試合続けて「小池選手頑張れ!」と声をかけてくれていました。すごくうれしかったです。
それが夏の出来事で、同年12月のオフシーズンに今度は僕たちの発信で「施設に遊びに行かせてくれませんか?」とお願いをしました。12月だったのでサンタの格好をしてお菓子の詰め合わせを持っていきました。交流をしていたのが小学2年生くらいまでの小さい子たちばかりだったので、久しぶりに会うので忘れられているかと思っていました。でも初めて会ったときと同じくらいの熱量で、しかも名前も覚えてくれていて。それがすごくうれしかったのですが、その日をきっかけにサッカーを通じて子ども達に何かできないかと考えるようになり、2015年に“フットボールで繋げる、フットボールが繋げるというテーマで児童養護施設の子ども達を支援したいと思い、FOOTBALL(フットボール)とCONNECT(コネクト)を合わせてF-connectという名称で活動を始めました。
――皆さん所属クラブでも同じような活動はされていたと思いますが、クラブでの活動とは違う感情はありましたか?
小池:1回だけであればいろんな施設に行ったことはありますが、1回の訪問から観戦に来てくれて交流してという2次的、3次的な経験が僕らの心を動かしたのではと思います。
梶川:クラブから依頼を受けて行く活動とは気持ち的には変わらなかったです。でも小池選手が話したように、その後に触れ合う機会があったことで、「僕たちにできることはないか」と考えるようになりました。そこは違いとして出てきたと思います。
――「フットボールで繋げる、フットボールが繋げる」という名称ですが、活動のコンセプトはどのようなものなのでしょうか?
小池:主には子ども達に会いに行く、訪問をして触れ合い僕たちを身近に感じてもらいたいと思っています。そしてその選手をスタジアムで見られるように招待をする。施設の子ども達は基本的に18歳で施設を出なければならなくて、退所後自立しなければなりません。施設の方からも夢や目標を持ちにくい環境だということは聞いていました。
当初、施設にボールをプレゼントしようと梶川と話していたのですが、2人の気持ちだけだと自己満足で終わってしまう可能性がありました。そこで施設の方に相談をしたところ、子ども達と触れ合う時間を作ってほしいと言われました。なので会いに行く、触れ合うことを大事にしてきましたし、僕たちの活動のベースになってきています。
――小池選手、梶川選手が活動を始められて、野村選手はどのタイミングで参加されたのでしょうか?
野村:横浜FCで小池選手と一緒にプレーをしていて、すごくお世話になっていました。活動に関しても以前から聞いていて、最初は誘われて行かせていただきました。僕が高校生のときに施設から通っている友人がいましたが、施設がどのようなものか分かっていませんでした。実際、児童養護施設に行って友人が育ってきた環境を目で見ることになり、感情移入をしてしまいました。そして翌年に正式にオファーをいただき、2016年に加入させてもらいました。
■スポーツ・アスリートの価値を子ども達に伝えていく
――まずは子ども達に会いに行って触れ合うことがメインになっていますが、印象に残っていることはありますでしょうか?
小池:初めて神奈川県の施設に行ったときに、子ども達と校庭でサッカーをしようと呼びかけたのですが、最初はサッカーが好きで積極的な2、3人しか参加してくれませんでした。周りの子たちは見ているだけでしたが1人、2人と入ってくるようになって、暗くなる頃にはみんなで一つのボールを追いかけていました。帰る前に施設の職員の方と話をしたのですが、いつもであれば誰かがサッカーをしていてもやらないような男の子が一緒になってボールを追いかけていて「驚きました」という話をされました。僕がサッカー選手だったから参加してくれたのか、楽しそうだったからなのかは分かりませんが、そういう瞬間にアスリートやフットボールの価値を感じました。それはすごく印象的でしたね。最初は子ども達を支援したい気持ちはあっても何ができるか分からなかったのですが、そうした経験を通して「子ども達のために活動ができる」という気持ちに変化しました。
梶川:アスリートの価値というつながりの話になります。小池選手と一緒に鎌倉児童ホームの中学生に向けてお話をする機会をいただきました。そこで子ども達が僕たちの話にのめり込んでいるというのを感じました。その中である時期に学校に行かなくなった中学生がいて、その子がダンスをしていたのですがダンス楽しくないから続けるべきか続けないかという相談を受けました。僕たちの感じていることをお話した後、施設の方からその子が悩みを抱えていることを知らなかったと言われました。一緒に過ごしている施設の方に話しづらいことを僕たちに言ってくれたということにアスリートとしての価値を感じました。どういう気持ちで相談をされたのか分かりませんが、すごく印象的で、より多くのことを伝えていけるのではないかと感じるようになりました。
野村:最初に鎌倉児童ホームに行かせてもらった際に、たわむれるように集まってくれました。勝手に暗いイメージを持っていたのですが全然そんなことはなく、逆にエネルギーに溢れていました。サッカー選手として自分が元気を与えに行くという気持ちで行ったのですが、逆に元気をもらいました。それがどこの施設でも同じで、毎回感じています。子ども達のエネルギーはすごいなと思います。
――野村選手が言われたとおり、児童養護施設には暗いイメージを私自身も持っていました。小池選手と梶川選手もお持ちでしたか?
小池:実際に施設の方に言われたのですが、当時芦田愛菜ちゃんが施設を舞台にしているドラマに出ていて、そのイメージで施設の雰囲気や環境に暗い印象を多くの方に持たれていたようです。その印象を変えたいと言われていて、そこについても中の様子を伝えるなどして何か協力できないかと思っていました。