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異色の経歴を持つ衛藤昂×飯田将之対談 陸上競技の可能性と見据えるセカンドキャリア(後編)

2016年のリオデジャネイロと今夏の東京と2度の五輪に出場した走高跳の衛藤昂選手は、セカンドキャリアを考えながら活動している。そしてインターハイ、日本インカレで優勝し、110mハードルの国内トップレベル選手でありながら、陸上引退後に7人制ラグビーに転向した飯田将之選手。現在はラグビー選手の傍ら、スプリントコーチとして指導にも当たっている。
異色の経歴を歩んできた2選手のこれまでの活動を振り返りながら、陸上競技の可能性を語ってもらった。

リオ、東京と2大会連続の五輪出場を果たした衛藤選手

「本質的に楽しくなければ続けられないのが一番」

――ここで参加者の方から質問を受けたいと思います。

参加者A 私も陸上経験者なのですが、衛藤さんと飯田さんとは違いトップレベルではありませんでした。そこからの見え方ですが、飯田さんが言われた通り「あれだけの実力があるのに辞めるのはもったいない」という人がいることをすごく感じました。
違いは何だろうかと考えていますが、常にエリート路線を走ってきた方が辞めるのではと感じています。私は陸上で進路が決まったことはなく、それでも好きで陸上を続けてきました。
そのため辞めるという選択肢はなく、自分で時間を作り、お金を出してやっていこうと思っていました。トップ選手と私のようなタイプとのギャップはどこで生まれるのでしょうか?

飯田 常にトップでやってきた選手は結果を残さなければいけないという義務感と、遅い自分を見られたくないというプライドがあるのだと思います。

参加者A ありがとうございます。そこはラグビーではどうなのでしょうか?

飯田 僕はラグビーのトップ選手ではないので分からないのですが、やっていって楽しいなと感じたから続けられます。
結果を残していかなければいけない選手は競技が楽しくなくなってしまう時期が来てしまいます。実際僕も陸上を辞めたときに「楽しくないな」と感じたので、陸上を引退してラグビーに転向しました。
本質的に楽しくなければ続けられないのが一番かなと。僕の経験の話ではありますが、そう思います。

参加者A 私からすると「それだけ実力があるのだから、実業団が決まらなくてもお金を出してクラブに入ってやればいいのに」と思います。飯田さんが言われた通り、そこまでしてパフォーマンスを出せなければ楽しくないのかなと思いますし。

――私はサッカーをやっていて、年齢が上がると身体が動かなくなるのですがチームで勝つことに楽しさを感じて続けられています。それが陸上では自分との向き合いで比較対象が自分で完結してしまうことが楽しさを見つけにくい競技性だと思いました。

衛藤 いつ辞めるかは自分に委ねられているところはありますよね。満足していれば続けるし、楽しくなければ辞めるし。

飯田 僕が実業団の陸上選手として活動をした4年間は、競技で結果を出すことが仕事でした。なので1日の中で時間はかなりありました。
実業団を辞めてラグビーに競技を転向したときに、仕事は最低1日8時間、週2回休みという条件でラグビーをしていましたが、その中でも自分で時間を作って1日2、3時間ウェイトトレーニングを週5回していました。
時間がない中でも自分で時間を作ってトレーニングができるので、実業団選手で時間があるからいいというのではなく、逆にそこに甘えが出てしまいます。
僕は両方を経験していますが、個人的には時間がない方がしっかり時間のマネジメントが可能で、集中もできます。その上で社会人として仕事もしているので、キャリアを積むことができます。

走高跳の記録として日本歴代6位(21年8月現在)を誇る衛藤選手

「スポーツに関わる機会を作ることが携わってきた選手の使命」

参加者B お二人共約30年間競技を続けられていますが、その中でピークのようなものはいつ頃あったのでしょうか?

飯田 陸上に関しては26歳で辞めてしまいましたが、あと2年ほどやればパフォーマンスは上がったのではと思います。陸上で自分の最大のパフォーマンスを出す前に辞めてしまいました。
ラグビーに関しては、今が一番いいのかなと思います。ラグビーを始めて、体重を70キロから86キロまで上げてコンディションが悪くなってしまったんです。
それから一度落として今は77キロ。ラグビー選手としては軽いのですが、今はスプリントの指導をすることで自分の中でも再確認ができていて、人に教えることで走りが良くなっています。

衛藤 僕も今が調子はいいです。昔に比べて選手寿命も伸びているので、競技をやろうと思えば今後も続けられると思います。ただ選手としてその先に何を目標にするかがないので、今年が最後なのかなと思います。

参加者C アスリートではない人がどうしたらスポーツを楽しめますでしょうか?

衛藤 品川駅にたまにピアノが置いてあるじゃないですか。あのような形で急に高跳びのセットがあったら跳んでみたいなと思うんです。そこでふらっと跳ぶと多くの人が楽しいと感じると思いますし、1つ高さを上げて跳べるとまた楽しいと感じます。
陸上だと「さっきより速くなった」「さっきより跳べるようになった」という乗り越える瞬間が楽しいのかなと思います。機会を作る、仕組み作りをすることはスポーツに携わってきた我々の使命だと感じています。

――それは面白いですね。ハードルも一般の方からすると高いですもんね。

飯田 あれは一般の方でなくても高いですよ(笑)。1m6cmあるのでかなり高いですね。
アスリートではない方がスポーツを楽しむには、スポーツ自体を楽しむことはもちろん大事ですが、一緒にやる仲間がいると自然に楽しくなると思います。 僕は陸上からラグビーに変わって、ラグビーだと仲間と一緒にプレーをします。練習に向けて気が乗らない日もあるのですが、仲間の顔を見て他愛のない話をすると「今日も練習を頑張ろう」と思います。スポーツをする上で仲間が大事だとラグビーを通じて感じました。

ラグビーで仲間とプレーをする楽しさを学んだ飯田選手

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