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「博多の森を真っ赤に」 ホーム1万人動員を目指すイコールワン福岡SUNSの目指すものとは

福岡に拠点を置く社会人アメリカンフットボールクラブ「イコールワン福岡SUNS」の壮大なプロジェクトが動き出した。

「~博多の森を真っ赤に染めよう! #福岡SUNS1万人プロジェクト~」

今季の最終節(11/21)に博多の森陸上競技場で開催されるホームゲームで1万人の観客動員実現という、日本のアメフト界ではこれまでになかった目標に向けてチーム全体でのPR活動に力を入れている。

8月28日に開幕したリーグ戦「X1AREA WEST」を戦いながらのプロジェクトへの取り組みは、スポーツクラブという枠組みには収まりきらないほど精力的だ。

昨シーズンはタレントのコージ・トクダの加入で話題を呼び、他にも元ラグビー選手やプロ野球からの転向などもあり、ファンの関心を集め続けている。選手の顔触れが多彩であることもこのクラブの大きな特徴と言え、活動の原動力となっている。


今回はチーム代表であり、ヘッドコーチ、そして現役プレイヤーでもある吉野至代表にイベント開催を決意した経緯や、チームのこれまでの歩み、アメフトという競技への想いを伺った。

2年ぶりのホーム開催、イベント実施に込められた強いメッセージ

全12チームで構成される「XリーグAREA」は8月28日から11月21日のおよそ3ヶ月間に渡り6試合のレギュラーシーズンを戦う。関東関西を中心に試合が行われ、イコールワン福岡SUNSは11月21日博多の森陸上競技場でホームゲームを開催する。

国内トップに位置付けられるカテゴリー「X1SUPER」でも、数千人の集客で多いとされる日本のアメリカンフットボール。福岡SUNSはX1AREA初年度となった一昨年の本拠地開催では1500人近い観客がスタンドを埋めている。その数字を大きく上まわる、一試合での1万人動員を目指すという今回のプロジェクトを決意した背景にはどんな想いがあったのか。


「11月21日の試合は今季唯一のホームゲームになります。昨年はコロナ禍によりホームでの試合が行われなかったため、2年ぶりとなる待望の地元開催です。この2年間で選手も増え、チーム状態も向上してきている中で、このホームゲームを盛り上げたい、さらには日本のアメフト界に大きなうねりを起こしたいと考え、1万人という目標を掲げプロジェクトを進めています。

チームの選手にも数ヶ月前より『最終戦は1万人のお客様を呼ぶ』という意思、ビジョンは伝えてきました。選手たちは今回のイベントへ向けたプロモーションや、クラウドファンディング用の動画の撮影などさまざまな形で協力してくれていて、イベントへ向けてチーム一丸となって進んでいるという状況です」



シーズン最終節、2年ぶりのホームという特別な日のイベントに足を運んでいただくお客様へのメッセージには、福岡という地でアメフトを根付かせたいという強い願望があった。

「福岡ではアメリカンフットボール自体がマイナー競技という認識が強く、当日、足を運んでくださるお客様は殆どがアメフトを初めて観る方だと思います。そういったお客様にとって11月21日の我々の試合が、アメフトというスポーツの印象を決めることになるゲームだと考えています。

来てくださった皆様が『アメフトは面白い、また観に来たい』と思ってもらえるような試合やイベントにしたいですし、その中で我々チームの力で、お客様に感動してもらい涙を流していただけるような1日にしたいと思っています」

当日は、アーティストを招いてのハーフタイムショーやチアリーダ―によるパフォーマンス、また同じ福岡を拠点とする多ジャンルのスポーツクラブとのコラボ企画と、まさにこれまで類を見ないイベントが計画されている。もちろん、真っ赤なスタンドに包まれ行われるであろうゲームは、選手の気迫あふれる展開となることが十二分に期待される。

クラブ代表、ヘッドコーチ、現役プレイヤーでもある吉野氏(中央)

福岡で訪れた大きな転機、そして九州初のXリーグクラブ創部へ

2009年、学生時には関西大学で大学日本一にも輝いた吉野氏。大学卒業後には一旦、アメフトから離れるも、製薬会社勤務時の福岡への転勤がきっかけとなり、指導者として再びアメフトに携わる。さらには現在代表を務める「福岡SUNS」を創部するに至った。クラブの代表のみならずヘッドコーチとして指揮を執り、さらには現役プレーヤーとしてもフィールドに立つ。
「社会人として22歳で福岡へ転勤となったのですが、縁があり西南学院大学アメフト部のコーチを務めることとなりました。その後ヘッドコーチとして指導を続けていくうちに、全国ベスト4という結果も出すことができ、自分の中でも手応えを感じていました。しかし、卒業後にアメフトを続ける学生が一人もいなかったこともあり、九州にも本気で日本一を目指す社会人のチームの必要性を強く感じました」


福岡SUNS創設は、社会人で訪れた福岡という地での指導の経験がきっかけとなりストーリーが紡がれた。そしてそれは、自分にしかできないことは何なのか、本当に命を懸けて取り組めることは何か、自身に問いかけながら辿り着いた答えでもあった。

また、再びアメフトに携わり、現在まで挑戦を続けるモチベーションとなっているのは「感謝の想い」。選手として頂点に登り詰めたからこそ、その考えがそれまで以上に強くなったという。

「大学3年の時に大学日本一を経験したことが大きかったと思っています。人生においてそれだけの高い目標を掲げつつも実現できずに過ごす人が大半だと思うのですが、大学スポーツでの日本一という半分は『夢』のような目標を達成でき、本当に幸せな時間を過ごすことができました。

そして日本一を達成したことで、それまでとそれ以降で自分の考え方が大きく変わったんです。誰かに支えられて生きていることや過ごせていることへの感謝の想いが強くなりました。その感謝の気持ちを今度は自分が表していきたいという考えを持つようになり、現在までアメフトを通してのチャレンジを続けているモチベーションになっています。」

苦境の中でも揺らぐことのなかったチームの信念

2017年の創部から順調にリーグ昇格を成し遂げ、いよいよトップカテゴリーへ向け、上昇気流に乗るはずだった昨シーズン。だがコロナ禍により世の中は一変。無論、福岡SUNSも例外ではなく、チームは活動を大きく制限されるなど苦境に立たされた。それでも吉野代表に率いられたクラブは同じベクトルを保ち続ける。


「コロナ禍により、昨年は年間10試合が予定されていたリーグ戦で7試合が中止、1試合は移動制限により辞退することになり、僅か2試合しか行うことができませんでした。

練習場所も、普段使用していたグラウンドが使えず、遠方のグラウンドを借りなければならない状況でした。また、緊急事態宣言の出ている時期には練習そのものが出来ず、活動再開後もマスク着用や『タックル禁止』など、様々な制限のもとでの練習となり『アメフトチームなのにアメフトが出来ない』という状況が長く続きました。特に昨年は新しい選手が加わるなど、話題が集まったシーズンだっただけに試合や活動ができない時期があり、悔しいシーズンだったと言えます。

その中でも、チームとして創部当初からの『日本のアメフト界を照らす』存在になるという思いはブレず、自分たちが今出来ることを続け、メンバー全員が気持ちを切らすことなく前を向いて進んでくれたことが、活動を維持できた要因として大きかったと思います。」


困難な状況が続く中でも、迎えた2021年のリーグ開幕。新シーズンを戦い、いくつもの目標実現へ向け、指揮官が発する言葉からはより一層、力強さが伝わった。


「X1SUPER昇格という目標を2年前から掲げています。 チームは創部から5年目ということもあり、現在はいわゆる『創成期』であると捉えています。まだまだ若いチームだからこそ、日々の練習で常に強くなっているという成長を実感できる時期です。

所属選手のプレイヤーとしての成熟、また今季からの新しいメンバーも加わりました。ここからは『第二創成期』に入り、戦術なども整ってきていることも含め、上(昇格)を目指せるチーム状態だと思っています。

昨年、一昨年と比較するとかなり手ごたえを感じており、選手全員が昇格するつもりでシーズンに挑んでいます。」

吉野氏(No.6)を先頭にフィールドへと向かう選手たち

「成功させなければいけない」壮大な目標の達成、さらにその先へと挑戦はつづく

チームとしての大きな目標の一つである、X1SUPERへの昇格、そして壮大なプロジェクトの始動。困難に直面し、それでも歩みを止めることのなかったクラブは、吉野代表の元、全員が同じ様に、「その先」を見据えている。

現在、最終節のイベント開催にあたり、クラウドファンディングでの支援も募っており、当日のイベント運営も含めたクラブが提供するサービスのさらなる充実を目指している。

最後に吉野代表にプロジェクトへの意気込みを改めて語ってもらった。


「コロナ禍の打撃により、一年半にわたって試合がなかったこともあり、運営面では苦しい時期を過ごしています。メインスポンサーが変わるなど、経営的にも激動と言える一年半でした。

チームを運営していく部分も含めて、1万人という高い目標を実現することで色んなことがクリアになり、次のステップに進めると思っております。また、その目標を掲げたからには必ず成功させなければいけないと考えています。


時期的にも、多くの国民が(コロナウイルスの)ワクチンを打ち終わった頃であり、世の中が(経済活動などへの考えも)次の段階へ行けると感じるタイミングかなと個人的には思っています。


今回の1万人プロジェクトを成功させることで、コロナ禍より続いている暗い雰囲気を晴らし、またその先に日本のアメフト界はもちろん、スポーツ界、福岡の経済界を一気に盛り上げていけるような、大きなイベントにしていきたいと思っています。」

静かな語り口から発せられる言葉は、どれもがエネルギーに満ち溢れていた。アメリカンフットボールというスポーツにとって「未踏の領域」でもあった福岡という地で、競技の裾野を広げ、そして根付かせていく。その高い目標の実現に向け、開催される「~博多の森を真っ赤に染めよう!#福岡SUNS 1万人プロジェクト~」は、常に前進を止めない吉野至代表、そしてイコールワン福岡SUNSの確固たる決意や、アメフトの魅力が存分に伝わるイベントとなる事は間違いないだろう。(取材/文 佐藤文孝)

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