【独立リーグとはなんだ?】 その5 こんなに違う 独立リーグとNPB

「NPBに選手を送り込む」のも独立リーグの重要な役割

 
日本の独立リーグからNPBにドラフト指名された選手は、今年のドラフト少量時点で82人を数える。
四国アイランドリーグplusからは49人、ベースボールチャレンジ(BC)リーグからは29人、関西独立リーグ(解散)からは2人、ベースボール・ファースト・リーグからは2人。
最初の独立リーグ、四国アイランドリーグplusが誕生して12シーズン、この間にNPBがドラフトで指名した選手は1100人ほどだから、7%強が独立リーグ出身ということになる。
 
今や、独立リーグは高校、大学、社会人と並ぶプロ野球選手の人材供給源としてすっかり定着したと言ってよいだろう。
四国アイランドリーグplusや、BCリーグの試合には常にスカウトの姿がある。NPB出身の監督も選手を積極的に売り込んでいる。
 
独立リーグをよく知らないファンの中には「せっかく選手を育てても、NPBに引き抜かれるのでは、球団もファンも応援のし甲斐がないんじゃないか」という声も聞かれる。
 
しかし、独立リーグとは、もともとそういう役割を果たすものなのだ。
四国アイランドリーグplusは、リーグ設立時から「NPBや他国のトップリーグへの人材供給」を最大の目的に掲げてきた。
毎年、独立リーグの本拠地開幕戦では県知事や市長など地域の政治家が祝辞を述べるが、必ず「今年は一人でも多くNPBに送りたい」という。
独立リーグが存在する地域では「NPBに選手を送り出すこと」が最大の目的であることが、共通認識になっている。
 
独立リーグのファンや関係者は、独立リーグを”卒業”した選手の、その後の活躍にも強い関心を寄せている。育成選手が支配下登録されたり、一軍の試合に出場すれば、SNSでは祝福の声が飛び交う。
チームを離れても、”おらがチーム”出身の選手は、いつまでも”俺たちの選手”なのだ。
 
付け加えるなら、独立リーグからNPBにドラフト指名される選手は、契約金や初年度の年俸から一定額を独立リーグ球団に支払うことになっている。いわば「養育費用」だ。独立リーグにとって、選手をNPBに送り出すことは少なからぬ経済的なメリットでもあるのだ。

 
試合終了後、観客を見送る徳島インディゴソックスの監督、コーチ

独立リーグから、NPBに行く選手はどんな選手か?

一概には言えないが、独立リーグの球団関係者に聞くと、やはり「明確な目的意識をもって、時間を無駄にしなかった選手」が、ドラフト指名されるという。
 
NPBから来た独立リーグの監督は、異口同音に
「独立リーグの選手は、なかなか指示した通りにできない。”この練習を続けろ”と言っても、結果が出なかったらすぐにやめてしまう」
と言う。身体能力やスキル以前にものごとに取り組む姿勢、学ぶ姿勢が足りない選手が多いのは事実なのだ。
そんな中で、独立リーグからNPBを真剣に目指している選手は心がけが違う。NPBから来た指導者の言うことを真剣に聞き、それを実行しようとしている。
 
また「自分にはあまり時間がない」ことを、認識していない選手も多い。
 
独立リーグに来る選手は「大学に行ったと思って頑張る」という選手が多い。その期間に才能を磨いて頭角をあらわそうという考えだ。
しかしそういう選手の中には「1年目は独立リーグに慣れるため、のんびりいこう」と思っている選手もいる。そういう選手のプレーは、指導者にもスカウトにも甘いものに映る。
怖いのは、「この選手はこの程度だ」という先入観がこのタイミングでついてしまことだ。
実際には、独立リーグからNPBにドラフトで指名される選手の多くは、1~2年目の選手が多い。
 
プロのスカウトは、選手の資質を短い時間で見抜く。
あるNPBのスカウトは
「春に独立リーグを視察して、夏にもう一度見に来たら、見違えるようになっている選手が何人かいます。うちは、当然そういう選手をマークします」
と語った。
 
中には「独立リーグでプレーしているだけで満足」という選手もいる。
ユニフォームを着て、観客が入るスタジアムで試合をする。地方のテレビや新聞でも取り上げられる。少数ながらファンも付く。サインをすることもある。
そういう境遇に満足する選手も中にはいるのだ。
ある監督が、「うちに今年入った高卒の選手は、ベンツで球場入りしているんだ。親は何を考えてるのか、注意する気にもならない」と言った。
NPBを目指して必死に頑張る選手がいる一方で、そういう選手もいるのが、独立リーグなのだ。


高知ファイティングドッグスの試合前セレモニー

NPBとの待遇格差は大きい

 
独立リーグの選手と、NPBの選手の待遇面の違いは大きい。
今のNPBの選手は二軍であっても、練習や試合をするグランドを、自分たちで整備することはない。またグラブやバット、用具類を自分で運搬することもない。マネージャーや用具係がいる。
 
しかし独立リーグではグランドの整備も自分たちでやる。試合では5回が終了すると、ユニフォーム姿の選手たちがトンボを使ってグランドの土を慣らしている。
四国アイランドリーグplusでは、福岡ソフトバンクホークスや讀賣ジャイアンツの三軍との交流戦が組まれている。
例え三軍といえど、NPBの選手がユニフォーム姿でグランド整備をすることはないが、ソフトバンク三軍を指導していた水上コーチは、ソフトバンクの選手にもトンボを持たせてグランド整備をさせた。水上コーチは三軍の選手たちに、何事かを学ばせようと思ったのだろう。独立リーグとの試合は、単なるテストマッチだけではなく、野球しか知らないNPBの選手たちに、違う社会を見せる機会でもある。
 
NPB三軍選手は、交流戦の際には球場の近くのホテルに前泊して朝、球場へ向かうことが多い。ホテルのロビーでユニフォーム姿の選手がミーティングしているのを見かけることもある。
しかし独立リーグの選手は、経費を節約するために、朝からバスで球場に乗り付け、試合が終わると疲れた体のまま本拠地に帰ることも多い。同じ試合に出ていても、待遇の違いは大きいのだ。


トンボでグランドを整備する徳島インディゴソックスの選手たち

生きていくこと、そして地域貢献

 
NPBの選手の主たる義務は「野球をすること」だ。しかし独立リーグの選手の義務はそれだけではない。
給料が安いから、それを補うために働かなければならない。試合、練習がないときには選手の多くは球団があっせんするアルバイト先で働いている。
飲食店の厨房に入ったり、事務仕事をしたり、レジ打ちをしたり。バイト先の企業は当然、独立リーグの選手であることは知っているから応援はしているが、アルバイトとして役に立たなければ注意される。
独立リーグの選手の中には、高校、大学まで野球一筋できた選手も多い。そういう選手は世間の冷たい風に当たる体験となる。
 
また、独立リーグの選手にとっては「地域貢献」も義務だ。
地元の祭りに参加したり、子供たちに野球を教えたり、福祉施設に慰問に行ったり。そういうイベント参加はNPBの選手もやっているが、それはあくまで「余技」であり、義務ではない。
しかし、独立リーグでは「地域貢献」は「野球」と同様、義務だとされている。
ある独立リーグ球団の経営者に
「野球と地域貢献は、50%50%ですか?」
と聞くと
「違います。100%100%です」
と即座に帰ってきた。
 
独立リーグはNPBよりもはるかに歴史が浅い。当初、地域の人々は「なぜこんなところで野球をしているのだ?」と思っていた。
地域の人々の理解を得るためには、球団、選手が積極的に地域の中に入っていき、交流し、理解されるように努力しなければならなかったのだ。
独立リーグはそうした地道な努力を重ねて、「おらが町のチーム」になったのだ。
地域の人々に応援してもらいために、選手たちも「地域貢献」をしなければならないのだ。

ファンと交流する愛媛マンダリンパイレーツ選手

野球ができる社会人に

 
一見、こうした野球以外の活動は、野球選手には不要なもの、無駄のように思える。
しかし、決してそんなことはない。
どんな野球選手でも40歳を過ぎれば、引退しなければならない。多くの野球選手は一般社会に放り出される。そのときに、野球以外に何も知らない元選手たちは、生活や社会のルールに適応できなくて苦しむことが多い。
そうしたセカンドキャリアのことを考えれば、野球ができる間に社会に触れ、世の中の仕組みを知ることは非常に重要だ。
 
高校野球、大学野球、社会人野球は、「野球選手」を育てる場だったが、独立リーグは「野球ができる社会人」を育てる場になろうとしている。これも独立リーグの大きい特徴だ。

広尾晃
「野球の記録で話したい」ブロガー、ライター

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