全日本大学駅伝東海地区選考会 ~名古屋大学はあと一歩及ばす3位~

第54回全日本大学駅伝東海地区選考会が6月18日、愛知県岡崎市の龍北スタジアムで行われた。

「やれることは全部やった。ベストのレース。それで負けたのなら仕方がない」。

出場権を逃した名古屋大の林育生コーチはそう言い切った。

選考会は各校8人が10000mを走り、合計タイムを競う。出場権を得られる2位との差は1分19秒。1人当たりで約10秒。僅差とは言えないかもしれないが、大差とも言えない。全日本大学駅伝出場があと一歩で手が届くところまで力をつけていた。

代表校争いは戦前の予想通り皇學館大が1位。混戦が予想された2位争いは愛知工業大が制した。2校が11月6日に行われる全日本大学駅伝(熱田神宮~伊勢神宮 8区間106.8km)の出場権を獲得、皇學館大が6年連続6回目、愛知工業大が3年振り19回目となる。

全日本大学駅伝は全国8地区(北海道・東北・北信越・関東・東海・関西・中四国・九州)で行われる選考会を勝ち抜いた大学と前年8位に入ったシード校で争う「真の大学日本一」を決める大会だ。大学駅伝では箱根駅伝(東京箱根間往復大学駅伝競走)が圧倒的な人気、知名度を持つが、2023年については関東地区以外の大学は出場できない。2024年に行われる第100回大会は関東地区以外の大学も予選会出場が認められることが発表されたが、2025年以降は未定である。

先行逃げ切りを目指すも2組終了時点で3位

選考会は各校2名ずつ4組に分かれてレースが行われる。林コーチは1位皇學館大が先行し、愛知工業大、岐阜協立大との勝負になると予想していた。名古屋大は2組目までに2校に先行し3組・4組で逃げ切る戦略で1組に準エースの重田直賢(4年・生野)、2組にエースの森川陽之(修士1年・近大東広島)を投入した。最終組で先行していれば、相手の後ろに付くことで出場権争いを優位に進められるからだ。

1組では皇學館大の2名が飛び出した。予想通りの展開で名古屋大、愛知工業大、岐阜協立大、そして中京大を含めた4校8名の選手は互いに牽制しスローペースでレースを進めた。6000mで重田が飛び出すがペースを上げきれず、7000m過ぎから追い上げてきた愛知工業大・土方悠暉(2年・愛工大名電)に逆転を許す。田尻慎之介(2年・兵庫)が3位に入ったが、合計タイムでは2位愛知工業大に5秒遅れ。この組では先行することができなかった。

2組目は森川が最初の2周こそ自重したが、そこから飛び出し、一度も先頭を譲らずトップでゴール。阿部祥典(2年・基町)は愛知工業大の選手に離されたが、最後粘りを見せた。総合タイムで1位、2位と差を縮め、2位愛知工業大との差は0.6秒まで縮まったが、この時点で林コーチは「かなり苦しい」と感じていた。

先頭を走る森川と追う皇學館大・岩嶋(2年・益田清風)。森川は最後まで先頭を譲らなかった。

3組で大きく離されるも4組で意地を見せる~勝田・河﨑が自己記録を更新~

3組は名古屋大にとっては苦しい展開。日が落ち体感気温が下がった中、2組までとは違い速いペースでレースは進む。村瀬稜治(3年・桃山)、小川海里(2年・津西)も集団に付いていたが、徐々に遅れだす。愛知工業大は5000mを過ぎて主将の渡邉大誠(4年・愛知黎明)が集団から抜け出し、そのままトップでゴール。3位に吉田椋哉(2年・豊明)が入り、総合1位皇學館大との差も大きく縮めた。名古屋大はこの組だけで1分14秒離され、アクシデントがなければ逆転は難しい状況となった。

最終4組に出場する勝田哲史(修士2年・広島皆実)は落ち着いた表情、河﨑憲祐(3年・大津緑洋)は少し硬めの表情でスタートを待つ。レースが始まると中京大・鈴木雄登(4年・中京大中京)が飛び出したが、逃げ切ることなく集団に吸収されてレースが進んだ。5000m過ぎで岐阜協立大・中尾啓哉(4年・高岡向陵)が先頭集団を抜け出し、そのままトップでゴールした。勝田は先頭から7秒遅れの5位でゴール、河﨑も8位でゴールした。2名とも自己記録を大きく更新。チームメイトからは「二人とも自己ベストだ!すごいぞ!」と感嘆の声が上がったが、愛知工業大との差は5秒開いた。

4組を走った河﨑(左)、勝田(右)。最終学年の勝田は最後笑顔を見せた。

大差で敗退が続くも諦めなかった夢

名古屋大は2012年を最後に選考会で敗退が続き、近年は出場校との差が大きく開いていた。「名大が全日本を目指すのはもう無理だ」という声も聞こえてきても、林コーチは決して決して諦めなかった。

林コーチ:出場が難しかった時も、(出場校以外から選抜される)東海学連選抜で出場した選手が「名大で出場したい」という思いをつないでくれました。エース候補の1年生には(東海地区以外の予選敗退校から選抜される)日本学連選抜の付き添いをさせて、「自分も出たい」という思いを持つきっかけを意識して作っていました。

転機は2020年。5000m14分34秒の記録を持つ村瀬が入部し、当時2年生の重田が急成長。そして全日本大学駅伝での皇學館大の活躍により東海地区の出場枠が2校になった。エース森川が長距離パート長に就任すると、全日本大学駅伝出場を目標としてチームの雰囲気を盛り上げてきたという。

2021年は主力の故障とブレーキで大敗したが、主力選手のほとんどが2022年も残る。新入生も充実。「2022年は過去最強チームに」と気持ちを切り替えた。

やれることは全部やった過去最強チーム ~2回の高地合宿を経て臨んだ選考会~

2022年は決して順調ではなかった。主力選手が揃って故障の影響により調整が遅れ、5月末の東海インカレでは入賞2名に留まった。特に深刻だったのは重田。5000mに出場、自己記録から1分以上遅れた。10000mチーム3番目の記録を持つ村瀬も出場を見送った。

厳しい状況ではあったが、チームは直前も合宿を行うなど選考会に向けて士気を高め、雰囲気もよかったという。

林コーチ:選考会に向けて、ゴールデンウィークと6月の大学祭の休講期間に御嶽濁河高地トレーニングセンター(岐阜県下呂市)で合宿をしました。また故障防止にも細心の注意を払い、学生トレーナーのケアを頻繁に受けていました。

ゴールデンウィークに行った高地合宿の様子。希望者のみだったが多くの選手が参加した。 (写真提供 名古屋大学陸上競技部)

その結果、総合タイムは昨年から10分以上を短縮する4時09分09秒00。気象条件やレース展開の違いはあるが、昨年ならば1位通過に相当するタイムだ。

来年に向けて ~文武両道も意識した取り組み~

今回は敗れたが、メンバーは全日本大学駅伝出場を諦めておらず、むしろこれまでの成長を前向きにとらえていると林コーチはいう。

林コーチ:今回の目標タイムは4時間11分切り、4時間9分台が出るとは思いませんでした。「愛知工業大が強かった」としか言えません。4時間8分切り、8人平均30分台に到達しないと勝負できないし、それには自己記録で30分30秒を切る力が必要。まずそこを目指します。

ラストスパートも課題。愛知工業大はラストも強かった。朝練習で最後に競り合う練習をする大学もありますが、同じアプローチはとれません。練習の質を上げれば、故障防止のためのケアを増やす必要がありますが、学業に時間を割くため簡単には増やせません。

学業と両立するには効率の良い強化策が必要です。また学生トレーナーの不足も課題です。学生トレーナーのケアを積極的に受けていましたが、このペースでケアを受け続けると人数が足りなくなります。

林コーチは「高地合宿も効率の良い強化策の一環」だという。

林コーチ:同じ練習でできるだけ効果を上げるため、高地トレーニングを積極的に行っています。片道3時間で標高1800mの練習環境に行けるのはありがたいです。夏季合宿もすでに計画済み。合宿中も勉強していますよ。6月の合宿では全員勉強していました。多い部員だと1日6時間。「これが本当の文武両道だ」と感心しました。

御嶽濁河高地トレーニングセンターでは400mトラックを使った練習も可能だ。(写真提供 名古屋大学陸上競技部)

名古屋大学がさらに成長していくには、成功要因の分析とその再現も必要だ。毎年好成績を上げるチームは、実績や経験を積み上げた「こうすれば成長できる」という「型」ができている。6年連続出場の皇學館大、毎年出場校争いに絡む愛知工業大もそういうチームの一つだろう。毎年出場校争いをしていくには、名古屋大独自の「型」を作り上げる必要がある。

来年に向けた戦いはもう始まっている。選考会に出場した選手のほとんどが翌週も大会に出場。1500mや3000mSCで自己記録を更新した選手もいた。11年振りの全日本大学駅伝出場を目指し、彼らは走り続ける。

(取材協力 名古屋大学陸上競技部)

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