【佐藤愛】会社員を経て、再びサッカーの世界へ〈後編〉

前編に引き続き、佐藤愛さんがプロ引退後に会社員を経て、再びサッカーの世界に戻ってくるまでのプロセスや今後の展望について、お話を伺ってきました。

▼【佐藤愛】まだ夢を持てていない、それでもいい〈前編〉
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ー佐藤さんは現役を引退して、不動産の正社員として30歳を機に新たなスタートを切りましたが、不安に感じたことはありましたか?

サッカー選手と仕事を両立していたので、とくに不安は感じませんでした。

ー地元の宮城県に、戻る選択はありましたか?

地元に戻ることも考えましたが、当時はやりたい事がなかった上に、関東の方がたくさん仕事があったんですよね。関東であれば、実家に帰ろうと思えば、新幹線ですぐ帰れるし、知り合いが多くいた事も決め手の一つです。

プロの時とは違う
周囲との温度差に悩んだことも

ー家族と友人のことをしっかり考えた上での決断だったんですね。
不動産会社では、具体的にどのような仕事をされていたんですか?

営業をしていました。もともと人と接する仕事が好きで、現役の時も接客業のアルバイトをしていたんです。
営業はやった事がない仕事だったからこそ、新鮮で楽しかったですね。
数字を追うことも初めてでしたが、職場の方がすごく良くしてくれて、目標まで足りなそうな時は、お客様を譲ってくれたこともありました。みんなで協力し合って売り上げを立てようと言ってくれたり、本当にたくさんの事を教えていただきました。

ただ、悩んだこともあります。私のやる気が空回りをして、どうしたら良いか分からない時がありました。例えば、仕事にも慣れてきた頃、会議で意見を述べると、他の方と意見がぶつかる場面が出てきてしまったこと。
そういった小さな事が積み重なっていき、だんだんプロの時とは違う、周囲の温度差とジレンマを感じるようになり、転職という言葉が頭をよぎることもありましたね。

ー悩みにぶつかった中でも、サッカーの経験を活かせたことは何でしょうか?

大きく分けて二つあります。
一つ目は、社交性です。現役時代は、知らない方とお話しする機会がたくさんありましたし、初めて行くグラウンドでプレーする事もよくあります。こういった経験から、自然と誰とでも話せるようになり、環境にも早く馴染めることが出来るようになりました。
二つ目は、目標から逆算する考え方が出来る事です。目標を立てて、いま何をしなければいけないのかという思考は、高校生の時からのベースになっています。続ける能力・努力することはもちろんですが、小学生から30歳までブレずにやってきてよかったなと思います。

サッカーって楽しいんだと伝えたい

ー続けてきたことは自信に繋がるんですね。
不動産会社を辞めて、現在TREの一員として働く決断をしましたが、具体的にどのような活動をされていますか?

サッカーを通じて色々な活動をしています。 メインとなる活動は子供達の指導ですが、大人の方に指導する機会もあるんです。

大人になってもサッカーが上手くなりたいと積極的に学んで下さる方々や、「子供と蹴りたいから」と大人になってから始める方もいて、始めはすごく驚きました。現場では子供はもちろん、大人の方々もすごく楽しんでくれて、見ていて嬉しくなります。この他の活動では、アスリートセーブジャパンの一員として、活動する事もあります。
指導とは別にはなりますが、最近は自分達でオリジナルグッズの作成をしました。これは販売を目的としてではなく、 スタッフとして着たいものを作成しただけなんですけど、生地選びから、ロゴのデザイン、サイズなどを考えたり、すごくワクワクしましたね。

このように指導者だけではなく、新しいチャレンジが出来る事は、一つ一つが楽しくて、1日で考えるととても充実しているなと思います。地元では、サッカーを引退する=サッカーの指導者という考え方が一般的なので、こういう活動は都会だからこそ、味わえているかもしれないですね。

私の経験を、プロを目指している子供たちに伝えることも大事な仕事

ー指導だけではなく、サッカーを通じて活動の幅を広げることは新しい挑戦ですね。
そもそも、TREの活動を始めるきっかけは何だったのでしょうか?

サッカーのキャリアは20年間と長い方だったので、引退した時には、知り合いから「うちで指導者にならないか?」と声はかけてもらっていました。
ただ、私自身がその時「サッカーはやるもの」と感じていましたし、指導者だけで生活するのは難しいと聞いていたので、その選択肢はないかなと思っていたんです。それでも、たまたまTREのスタッフと出会った事をキッカケに、活動に参加するようになって「サッカーってやっぱり楽しい!サッカーに恩返しがしたい!」と、どんどん気持ちが変化していったんですよね。それに伴って、このまま不動産の仕事を続けていくか悩み出しまして…。
最後は、TREの方に「一緒にサッカーの仕事をしない?愛ちゃんがプロにまでなった経験が活かせると思うし、ぜひ一緒に働きたい!」と背中を押してもらったことで、今の仕事を辞めて、やってみようと決意しました!

実際に働き始めると、子供達は可愛いし、大人の方々との活動も、とても楽しかったんです!まさか私が指導者になるなんて…と今でも思いますけど。(笑) 続けていくうちに、関わった全ての人達に「もっとサッカーが上手くなってほしい」という気持ちが強くなってきました。また、プロを目指している子供達に「なぜプロになったか」「どうしてプロとしてやっていくことが出来たのか」を伝えていくことも大事な仕事だと思っています。

正直、正社員を辞めて生活していけるのか不安でしたが、働き方次第で、さほど問題ではない事が分かりました。
何より毎日が本当に充実していて、ワクワクする日々を送れているので、転職して良かったなと思っています!!

サッカー人生の財産は、人との繋がり

ー「やりたいことを仕事にできる」ことは、幸せなことなんですね!

趣味に没頭していて、それがそのまま仕事になれば幸せですよね!それでも、そういう人達って、すごく稀なんだと思います。生きていくために働く人が、ほとんどだと思うので。続けていた事が財産になりますし、他の道に進んだ時には、新たなやりがいが見つかる事だってあると思います。

とにかく、今やりたい事がないからと不安に感じる事はなくて、迷っていても、まず働いてみる事が、 次に進む一歩だと思います!私もサッカーを引退した後は、やりたい事がない中でも、ご縁で紹介していただいた不動産会社で働き始めました。そこで色々な事を学び、今の仕事に出会ったワケですから。

ーお話を伺っていて、とても力強く前向きな考え方だと感じますが、サッカーで培われたものですか?

サッカーで培われたものでもありますし、それ以上に、たくさんの人達に出会って変わったのかなと思います。 現役時代は、失敗するとすぐに切り替えることが出来ず、引きずってしまうこともよくありました。そんな時、チームメイトの言葉ですごく救われましたね。

また引退してからの多くの出会いから、私と同じように選手を引退して働いている先輩方もいらっしゃいました。その方々と話すと、いつも刺激をもらいますし、「みんなすごいな。私も負けずに頑張ろう!!」という気持ちに自然となるんですよね。

ー周囲の人から後押ししてもらえるような素晴らしい環境にいるんですね。では最後に、今後の目標をお願いします!

私は出会った方々や環境にすごく恵まれていると思います。 サッカーを引退した時も、不動産の仕事で悩んでいた時も支えてくださった方々がたくさんいますし、何よりご縁で仕事に就く事が出来ています。今もTREだけではなく、飲食店のアルバイトもしているのですが、 ダブルワークを考慮して働かせてくれていますし、とても助かっています。

今後の目標は、指導している子供達が、サッカーを楽しんで、より上手くなってもらうこと。大人の方々には、サッカーを通して人と人とが繋がる場所を提供し続けることですね!!そして何より、TREに関わった全ての方々が笑顔になってくれたら嬉しいです。

◆佐藤さんのように幼い時から女子サッカーの現実を冷静かつ真剣に考え、それでもサッカーが好きな気持ちを正直にセカンドキャリアに反映したことは、多くの女子スポーツ選手のロールモデルになるのではないでしょうか。

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【元J2日本人得点王!一般社団法人TRE代表の長谷川太郎さんを直撃】
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出野 千夏
1995年静岡県出身。バスケット競技歴10年。会社員の傍ら、スポーツライターとして活動中。

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