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福島の子供たちに「サッカーをする」という選択肢を―FCシャイネン福島 渡邊剛充―

サッカーは世界で最も競技人口の多いスポーツのひとつである。世界中どこへ行っても、街中でサッカーボールを蹴って遊ぶ子供や大人の姿を見ることは、決して難しいことではない。

しかし近年日本では、そんなサッカー事情が様変わりしている。いや、むしろサッカー事情というより、子供たちの運動する環境自体が大きく変化してしまっているようである。

福島で子供たちの育成に取り組むサッカークラブのFCシャイネン福島の代表である渡邊剛充代表に、現代のサッカー選手の育成について話を聞くことができた。

全力でボールを追う子供

小さな子供がサッカーに触れる機会を

FCシャイネン福島ができた経緯をお聞かせいただけますか。

渡邊剛充代表(以下、敬称略)「私が約20年前から持っていた、社会人チームがFCシャイネン福島の前身になります。その昔、福島ユンカースという名前で活動していたこともあったチームなのですが、そこから私が社会人チームを引き受ける形で受け取りました。その時、チーム名を輝くという意味をもつドイツ語のシャイネンに代えました。

 2022年に現在のようなクラブの形態になり、幼稚園や小学生の段階からしっかりと育成をしたいと考えて、現在のような活動をしています。」

FCシャイネン福島の育成について、どのようなことをされているのか、聞かせてください。

渡邊「まず、福島で最初に育成の仕組みを作り直さなければいけない、という思いがありました。

 選手を育成するのに必要な段階は4つあって、第1に競技を普及させること、第2に将来伸びる可能性のある選手を発掘すること、第3によりよい選手になるために育成すること、第4に育成した選手を強化すること、というものなんです。

 私がかかわっている場合ですと、第1段階では私が幼稚園や小学校でサッカー教室を開いて、子供たちにサッカーを広めることが相当します。その後サッカーが好きになった子供たちの中で、可能性のある子供たちを探すことが第2段階に当たります。この取り組みを経て、サッカーに夢中になった子供たちの中で可能性のある子供たちを育成し、強化につなげていくということになります。

 特に、小さいうちに子供たちがサッカーに触れる機会を多くして、『サッカー大好きだよ』とか『サッカーに夢中だよ』と言えるような環境を作っていくことが、なによりも大事だと思っています。

 というのも、今の日本の社会状況では、自然発生的に子供たちが遊びでサッカーをすることなんて、ほとんど無理なんです。娯楽が増えて子供たちの遊びも多様化していますし、遊びとしてサッカーができる公園もほとんどありません。そうした状況では、私たちの方から子供たちに働きかけないと、サッカーをプレーするものとして子供たちが選んでくれないんです。その一方で、あまり押しつけがましく私たちの方がアピールしても、それはそれで問題が起こります。

 だから今、子供たちにサッカーを普及させるやり方は、相当に難しい時代になったんだと思います。

 私自身、幼稚園でサッカー教室を開くために幼児体育の認定委員の資格を取りました。また、今はリトミックの勉強をしています。こうした遊びながら運動することを通して、まず体を動かすのは楽しいんだと子供たちに気づいてもらって、その次にサッカーという楽しいスポーツがあるんだと思ってもらえるようにしているのが現状ですね。

 また、すでにFCシャイネン福島でプレーをしている子供たちには、教えすぎないということを指導方針にしています。なんだかんだ大人が言葉で伝えても、スポーツって結局はプレーする本人である子供が気づいた上で、自分でやってみるということを繰り返さないと、身につかないものですからね。」

元気いっぱいの子供たち

子供たちの間の運動格差が明確になる時代に

近年、子供たちの体力低下が指摘されていますが、渡邉さんも、そのことは現場で感じていらっしゃいますか。

渡邊「確かに子供たちの体力や運動神経の低下は、私も非常に強く感じています。

 私自身、0歳からの子供も参加するような運動教室の運営にかかわっているので、たぶん子供たちの体力や運動能力について、比較的詳しく知っている方だと思います。そうした経験から言えることは、大人が子供たちに何か運動をやらせないと、今の子供たちは運動神経や体力を向上させる機会がほとんどないんですね。

 そうしたこともあるのか、運動をしている子供と、していない子供の差がはっきり表れ始めているのが現状です。つまり、何も運動をさせていない子は壊滅的に体力がなくて、運動神経も本当に悪いです。また、自分の体の動かし方がわからない子供も多く、走り方がロボットみたいな子供も大勢います。

 その一方で、大人が積極的に運動させている子供たちは私たちの子供時代以上に、体力もあるし運動神経も抜群に良いのも事実です。 

 今の日本では、習い事として運動やスポーツを学ばない限り、子供たちの体力や運動能力を向上させることができないんですね。公園でも子供たちが目いっぱい遊ぶことが許されない場所も増えていますし、遊んで体を鍛えるということが、ほぼ不可能な時代になってしまったのでしょうね。

 こうしたこともあるので、私自身、子供が小さいころから運動をさせたほうが良いと思っていて、小さな子供が集まるいろいろなところに顔を出しているんです。今、幸いにも日本サッカー協会もそうした活動を積極的に支援しているので、このような活動がやりやすいという事実もあります。

 昔はサッカー選手の育成というと、小学校の3年生ぐらいから将来伸びそうな選手を集めて育てていけばいいと考えられていましたが、今ではその方法では無理ですね。もっと早い段階で、スポーツ以前に運動が好きという子供を育てるところから始めなければ、未来のサッカー日本代表は生まれないと思います。」

渡邊さんは、幼児教育とか幼児体育といったものに、もともと関心を持っていたのでしょうか。

渡邊「全く興味も関心もありませんでした。なにしろ私自身は小学校のころからサッカーで育ってきて、サッカーをしてきたから大学も卒業できて、今まで生きてきたような人間なので、サッカー以外のことはほとんど知らない社会人なんです。

 サッカー選手として活動していたころは、自分がいかにプロになるのか、とか、現役プレーヤーとしてどのように自分の立ち位置を作るかなど、自分のことしか考えていませんでした。でも、25歳から26歳くらいになって福島に来て、自分の選手としての限界を感じて指導者に転身しました。

 もともと私は子供が好きでしたし、子供と遊ぶことも大好きだったので、子供たちと仕事をすることにのめりこんでいった部分もあります。自分が今までやってきたサッカーで、子供たちがいろいろ学んでいくのを見るのが楽しいと感じている自分に気が付いて、もしかしたらこういうことは自分は得意なのかもしれないと思った結果、いままで活動が続いているという感じですね。」

ぶつかり合いも怖くない、体でしっかりガードする

子供たちに衝撃を与える指導を

子供たちにサッカーを教える時、渡邉さんが一番意識していることとは、どのようなことですか。

渡邊「サッカーの楽しさを教えるということは、大前提として存在します。でも、それと同じくらい、子供たちへの伝え方も常に意識しています。

 時にはプレー自体を見せて伝えることもありますし、それとは対照的に言葉に落とし込んで伝えることもあります。あるいは、抽象的に突っ込むというか、こんな感じでやってみてね、という伝え方をする場合もあります。

 でも、どのカテゴリーの子供であっても、どのような状況であっても、『今は答えをはっきり言うべきときなのか、あるいは言うべきではないのか』といつも考えるようにはしています。例えば、子供たちが全く知識がない状況で、こちらが質問する場合は、2択ぐらいの答えをこちらで用意した上で、子供たちに選ばせる形をとります。でも、ある程度子供が経験したことのある状況であれば、子供たちに考えさせるようにしています。

 あと、子供たちにものを伝える時の方法も大事になってきます。例えば重要なことを伝える時に、子供の注意をひくためにわざと小さな声でしゃべったりしますし、本当に小さな子供が相手の場合は手遊びなどを取り入れて、子供たちの集中力をこちらに向けてもらうようにすることもあります。」

幼稚園や小学生のころは、学年が一つ違えば、体力的にも知性の面でも、非常に大きな差があります。また、サッカーをやっていく中で、上手な子とそうではない子の差も明らかになってきます。そうした中で、子供たちにサッカーを教えるのは、実は難しいことなのかもしれませんね。

渡邊「確かにそうですね。そのため、子供たちと接するときには、機会を見つけて子供たち一人ひとりと個人的に話すように努めています。子供たち一人ひとりが、何を考えているのか、とか、どのような思考なのかということをこちらで読み取ることも、必要だと思っています。

 人数が多くなると、大きな全体練習をすることがどうしても多くなってしまうのですが、小さな個人の練習を通じて子供たちと話すことで、子供たちに衝撃を与えるような指導ができればよいな、と考えています。

 確かに、子供の個人差って本当に大きくて、同じことを指導しても、話を聞いて頭だけで理解できる子もいれば、体を使うことでやっと理解できる子供もいます。また、中にはまだ本能でしか動けない子供もいたりするので、そうした子供にはどうやって衝撃を与えて気づかせるかということが大事になってくるので、ほかの指導者のスタッフと相談しながら、そうしたタイミングと方法を図る場合も多々あります。」

子供に衝撃を与える、とお話しがありましたが、その衝撃とは、うれしいとか楽しいというプラスの感情であることはもちろん、負けて悔しいとか、なんでうまくいかないんだという、一見マイナスに見える感情でもあるのでしょうね。

渡邊「確かに、サッカーをしていれば、いろいろ悔しい思いもしますからねそうした悔しいという衝撃を受けたときに、そこを乗り越えるのか、あるいはクラブや環境のせいにしてやめてしまうのか、という判断を選手がする際には、親とのかかわりもカギになってきてしまうのでしょうね。

 でも、そうした状況で私たちが子供に教えられることは、悔しい思いをしてもそこは乗り越えていかなくてはならないし、自分でやりきるということを経験しておかないと、将来サッカーに限らずあらゆる面で苦労するよ、ということだけなんです。

 でも同時に、今はすごく豊かな社会だから、いやなことや悔しいことを避けて、一生を終えることもできるかもしれない。だから今ってすごく難しい時代なんだよね、とも子供たちには伝えます。

 『この悔しさを乗り越えることもできるし、乗り切らずに周囲のせいにすることももちろん可能だよ。どちらを君は今選ぶの?』という質問を子供にしたりもしますね。」

サッカーを通じて、子供たちに学んでほしいこととは、どのようなことでしょうか。

渡邊「自分は何者なのか、ということに気づいてほしいですね。自分は何が好きなのか、何が得意なのか、どんな性格なのか、というようなことを、サッカーを通じて理解してくれればいいな、と思っています。

 現実的な話をすると、クラブチームで活躍できても、プロのサッカー選手になれる人は、本当に一握りの選手だけです。大半は、サッカーをやめて別の世界へ行くことになります。その時、自分の得意なことや性格などが把握できていたら、その子供にとって苦しい世界に行く可能性は本当に低くなると思うんです。

 例えば、もしもサッカーの中で戦術分析をするのが好きなら、将来何かを分析する仕事に就くのが良い選択となるでしょう。また、リーダー気質の強い子供なら、自分で事業を起こして社長になるのも一つの方法かもしれません。

 私も長いことサッカーの指導者をしてきましたが、自分の好きなことや得意なことを知らないまま大学生や社会人になってしまった元教え子って、実はかなり多いんです。

 サッカーで経験できることは、プレーすること以外にも意外とたくさんあります。そうした経験を積むことで、自分をよく知って、社会で活躍できるような大人になってくれれば、うれしいですね。」

悔しさが次への道しるべとなることも

日本の社会環境の変化により子供たちの遊ぶ機会がなくなったことで、サッカー選手の育成についても大きな変革期を迎えていることを、渡邊氏は今回のインタビューで指摘していた。

サッカー日本代表の育成は、幼い子供に運動の楽しさを教えることから始まっていることを、今の大人たちは強く認識しなくてはならないのだろう。

(インタビュー・文 對馬由佳理)(写真提供 FCシャイネン福島)

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