「杜アガれ!」東北工業大・髙橋沙奈さんが仙台六大学野球ポスターに込めた思い
25日に最終節を迎える仙台六大学野球春季リーグ戦。大会を盛り上げようと、試合会場である東北福祉大学野球場や仙台市内各地にはリーグ戦の情報を伝えるポスターが掲出されている。ポスターを制作したのは、東北工業大学ライフデザイン学部産業デザイン学科4年の髙橋沙奈さん。完成に至るまでの経緯や、ポスターに込めた思いを聞いた。
今年から大学生がポスター制作を担当
2022年春から昨秋までは、スポーツグラフィックなどを手がける株式会社心花堂(ときめきどう、仙台市)がリーグ戦用のポスターを制作していた。仙台六大学は昨年から試合のネット配信を学生主体で行っており、今年はポスターも学生が担当することに。そんな中、配信を担当する学生の友人で、大学でデザイン分野を学ぶ髙橋さんに白羽の矢が立った。
幼少期から絵を描いたり、段ボールで家を作ったりと「ものづくり」が趣味だった髙橋さん。ポスター制作は大学の授業やアルバイト先で取り組んだ経験があるのみで、公共の場に掲出するポスターを作るのは今回が初めてだった。
中学ではバレーボール部、高校では弓道部に所属していたものの、元々野球を含めスポーツ観戦をする習慣はなかった。今年の年明けにプロバスケットボールチーム「仙台89ERS」の試合を観戦するところからスタートし、当初は心花堂で仙台89ERS関連の制作のアシスタントをしてスポーツグラフィックの技術を学んだ。
工夫凝らして“仙台”と“熱気”を演出
プロ野球やプロバスケのグラフィックを参考にアイデアを出し、心花堂代表取締役の千葉充さんの助言も受けながら構想を練った。2月中旬から本格的に制作に取りかかり、試行錯誤の末に完成させた。
コンセプトは「仙台を盛り上げる」。仙台の愛称である「杜の都」を連想させる緑をテーマカラーとし、上部には仙台の街並みや伊達政宗騎馬像のデザインをあしらった。きれいな緑色を出すのには苦戦し、何度も調整を重ねたという。自身で考案したキャッチコピー「杜アガれ!」は中央に大きく配置。仙台を前面に押し出した。
またポスターには、東北福祉大・木下大我内野手(4年=明秀日立)、仙台大・小田倉啓介内野手(4年=霞ヶ浦)、東北工業大・檜森雄太内野手(4年=仙台育英)、東北学院大・小林三邦内野手(4年=鶴岡東)、東北大・鈴木杜朗内野手(4年=仙台二)、宮城教育大・渡邉諒外野手(4年=東北学院)と各校の主将が登場する。
この写真はリーグ戦開幕前に千葉さんがスマートフォンで撮影したもの。各選手には髙橋さんがイメージした指定のポーズをリクエストして撮影し、その後画質を上げたり、色味を調整したりして編集を施した。髙橋さんは「作り物ではない感じを出したかったので、躍動感や顔の表情が出るようなポーズをお願いして、熱気が伝わるような加工をしました」と話す。
見出したスポーツグラフィックの可能性
完成したポスターは仙台市内の大学や飲食店、JR主要駅など、あらゆる場所に掲出された。連盟のホームページやパンフレットの表紙にも使用されおり、日々多くの人の目に触れている。
髙橋さんは「正直スポーツグラフィックに関われるとは思っていなかったので、貴重な機会になりました。自分の作ったものが公共の場に出るのは嬉しくもあり、不思議な感じもあります。何気なく大学に登校している時も駅で目にしたんですけど、他人事かのように俯瞰で見てしまうくらい現実味がないというか…」と完成後の率直な感想を口にする。これまで様々なものづくりに励んできたが、今回のポスターは髙橋さんにとって特別な“作品”になった。
制作を進める中で、「仙台を盛り上げる」以外の思いも芽生えた。「今の選手の世代が仙台六大学のことを知らないのは課題だと思いました。制作をするにあたって、まずはポスターを、私たちの世代に知ってもらうきっかけにしようと意識しました」。実態を肌で感じ、リーグ自体の認知度を上げることも重要な目的の一つに据えた。
さらに仙台89ERSの試合を観戦した際、会場のゼビオアリーナ仙台周辺にチームのポスターやフラッグが多数掲出されているのを目にしてヒントを得た。そして、髙橋さんはある未来を思い描く。「(会場最寄り駅の)長町駅は89ERSカラーになっている。89ERSがグラフィックに力を入れてから認知度が上がったように、グラフィックによる印象付けはスポーツの認知度を上げるきっかけになるはず。今回緑をテーマカラーにしたので、将来、リーグ戦の時期になったら球場周辺がグラフィックであふれて、『仙六といえば緑』というふうになったらいいなと思います」。
最終節では、いずれもここまで8戦全勝の東北福祉大と仙台大がリーグ優勝をかけて対戦し、今春初勝ち点獲得を狙う東北大と宮城教育大も相まみえる。杜の都で、ポスターが表現する熱気さながらの熱い戦いが繰り広げられる。
(取材・文・写真 川浪康太郎)