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選手としても人間としても成長を Jクラブ下部組織の元コーチが兵庫県三田市に立ち上げたパジャカFC

プロサッカー選手の育成を行うクラブやスクールは、全国に数多く存在する。兵庫県三田市で活動するサッカークラブ、パジャカFCもそのひとつだ。2022年4月にプロ志望コースを立ち上げた。

クラブ創設者であり代表を務める藤谷和輝氏は、かつてプロサッカー選手を目指していた。その夢を叶えることはできなかったが、今は三田市の子どもたちの育成へと形を変えている。

パジャカFCは、ただプロになるためだけの指導をするサッカークラブではない。プロを目指すと謳うからには、サッカーのスキルを向上させる環境が整っているのは言わずもがなだが、ここで学べるのはサッカーだけではない。人間性を備えたプロサッカー選手の輩出が目標だ。

パジャカFCは兵庫県三田市で活動するサッカークラブ

プロになる夢が叶わずとも失われなかったサッカーへの情熱

昨年惜しまれながらも現役を引退した、元日本代表の大久保嘉人さん。このスーパースターに憧れていたのが、パジャカFC代表の藤谷和輝氏だ。

藤谷氏は国内外のサッカー指導者資格を保有し、自らクラブ運営も行う経営者だが、かつてはプロを目指すサッカー少年であった。小学校3年生のときに友達に誘われてサッカースクールに入り、中学校でもサッカー部に所属。その後は地元の高校に進学し、在籍時にサッカー部は全国高校総体に出場する。しかし、メンバー入りできないという挫折を経験した。

サッカーを始めてから約10年間、プロになることを目標に練習に励んできたが、プロクラブの目に留まることはなかった。それでも、小学校の文集にも書いたという「大久保嘉人選手のようなプロサッカー選手になる」夢を追いかけ、高校卒業後も個人でトレーニングを続けながらJリーグクラブのトライアウトに参加。しかし最終的にオファーをもらうことはなく、幼い頃からの目標に区切りをつける。

そんな藤谷氏だが、自分を育ててくれたサッカーへの情熱が冷めることはなかった。Jリーグクラブの下部組織を含む複数のクラブで指導経験を積み、地元の三田市に自ら立ち上げたパジャカFCで、自身と同じ夢を追う子どもたちをサポートしている。

YouTube等メディアにも出演するパジャカFCの創設者 藤谷和輝氏

プロ選手輩出と人間育成に取り組むパジャカFC

パジャカFCに在籍するスタッフは個性的だ。複数のクラブでの指導実績を持つ藤谷氏もその一人である。Jリーグの京都サンガFC下部組織やJFLのFC大阪の関連クラブ、地域のクラブチームでも指導した。

「3クラブで指導してきましたが、それぞれの良さがあり、目的も違います。選手の目的に合ったクラブを選ぶ必要があります」と藤谷氏は話す。選手としての挫折や、複数クラブを渡り歩いた指導者としての経験を、選手に寄り添った指導に繋げている。藤谷氏の他にも、海外クラブに所属した経験があるアドバイザーや、現役フットサル選手のコーチなどが在籍。このようなスタッフを招くことができるのは、指導者としてのキャリアで築いた人脈によるものだが、狙いは様々な視点での指導が行える環境を提供することだ。

パジャカFCはサッカースクール(教室)なので、他のクラブや少年団などのチームに所属しながら通う選手が多い。そのため、所属チームでの試合で活躍するための個人スキルを向上させる練習が中心だ。

ヴィッセル神戸が大好きでプロになりたい、というパジャカFCスクール生の高木遥太君(小学5年生)は「1対1での相手との間合いを試合で意識できるようになりました」と話してくれた。同じくプロを目指す國次結仁君(同)は「相手をかわしてから素早くシュートを打てるようになって、ゴールを決めることができました」と言う。いずれもパジャカFCの練習で学んだことだ。このような個人スキルの習得は、現役フットサル選手がコーチとして在籍しているからこそ、可能なのだろう。
「現役選手や元選手とか、いろんなコーチが教えてくれるのが良いです」と遥太君が言うように、各指導者による自らの経験を活かしたコーチングやアドバイスは、子どもたちに届いている。

インタビューに答えてくれた高木遥太君
同じくインタビューに答えてくれた國次結仁君

ただし、パジャカFCは「サッカーが上手ければ良い」という考え方を嫌う。縁日を開催しスクール生に運営にも携わってもらうなど、サッカー以外の体験も提供している。その理由は「社会性を身につけたり、人とのコミュニケーション能力を向上させたりするため」であり、このことはクラブとして徹底している。

パジャカFCはプロを目指す過程を大切にしている

プロサッカー選手を志す子どもたちを受け入れているパジャカFCだが、現実として全ての子どもたちがその夢を実現できるわけではない。藤谷氏がそうであったように、多くの選手が途中で諦めることになる。そのことを藤谷氏はどのように捉えているのだろうか。

「サッカー以外でも役に立つ社会的スキルを身につけられるクラブでありたいです」
子供の頃の夢が叶わなくとも、今はやりたいことを仕事にできている。選手から指導者、そして経営者へと、一つ一つ目標を達成するためにやるべきことをやってきた結果だ。パジャカFCの子供たちにも、これから何度も訪れるであろう課題や困難を乗り越えられる、自立した大人になってほしい。藤谷氏はそのように考えている。

そんな想いから、様々な企画で子どもたちを楽しませながら成長を見守っている。「サッカー以外のことも教えてくれます」と話してくれた結仁君は、インタビュー中にパジャカFCで習ったというスペイン語の単語を教えてくれた。

もちろんサッカーのスキル向上が大前提だ。「良い指導者や目標にする選手に出会うことが大切」と語る藤谷氏をはじめ、スタッフは様々なバックグラウンドと確かな実績を持つ人たちだ。プロを目指す過程を経験してきた身近な人物は、子どもたちにとって大いに参考になるだろう。

パジャカFC練習の様子

「生活の中心にパジャカFCがある」
パジャカFCというサッカークラブの理想像を、藤谷氏はこのように表現した。

一方で、理想の指導者像についてはまだ模索しているようだ。
「これまで何十人もの指導者を見て、この人には近づけるとか、同じようになれないなとか。そういう視点を常に持ってきました。それでもまだ理想像は決まっていないですね」
藤谷氏もまだ成長を続けているのだ。それでもはっきりしていたのは「卒業したスクール生が自分のところに戻って来てくれる。そんな指導者でありたい」ということ。

実際に現役スクール生からは「パジャカFCでサッカーを続けているのは、藤谷コーチがいるから」との言葉があった。その理由を聞くと「サッカーの技術や戦術を教えてくれる」のはもちろん、「練習前にもいろいろな遊びを教えてくれて、通うのが楽しい」であった。藤谷氏がサッカーのコーチとしてだけでなく、一人の大人として慕われているのがわかる。

藤谷氏が自身の経験をベースに、三田市に創設したパジャカFC。その後も学びを止めずに、理想のクラブへと成長を続けているサッカークラブである。今後もクラブはどのように発展していくのだろうか。数年後にパジャカFC出身のプロ選手が誕生していることを楽しみにしながら、注目したい。

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