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J1への復帰とその先に向けた「ベクトル」を作るために~大分トリニータ・榎徹社長インタビュー~

7月1日から、大分トリニータが実施するクラウドファンディング「ALL Blue Project」が始まる。

今季の大分トリニータはJ2で戦う一方で、天皇杯では準優勝に輝くなど、チームの持つ勝負強さも垣間見えるシーズンとなっている。

今回の「ALL Blue Project」が大分トリニータにどのような影響を与えるものなのか、榎徹社長にインタビューすることができた。

クラブ・チームとサポーターとの絆

(オンラインでのインタビューに応える榎社長)

過去、大分トリニータがスポチュニティを通じて実施された3回のクラウドファンディングでは、全て目標金額を達成されています。こうしたことから、大分トリニータのクラブ及びチームとサポーター、そして支援されている方との間には相当に強い絆があるように思うのですが、いかがでしょうか。

榎社長「本当にありがたいことだと思っております。クラウドファンディングの実施により『こんなにたくさんの方々が大分トリニータを大切に思ってくださっていたんだ』ということを改めて実感いたしました。本当に感謝の気持ちでいっぱいです。

 また新型コロナウイルスの影響で、チームとサポーターがつながる機会が本当に少なくなりました。我々スタッフがサポーターの方と接する機会もやはり減っています。そうした中でのクラウドファンディングは、『支援』という側面と、サポーターの皆さんがクラブやチームとコミュニケーションを取るための『タッチポイント』としての側面とがあると考えています。クラウドファンディングを実施することで、サポーターの皆さんの声を聞けたり逆に私達からメッセージを発したりする機会が増えて良かったと思っていますし、絆が深まったと感じています。」

スタッフの方々から、『サポーターの方あるいは支援者の方が、大分トリニータについてこんなことを話していたよ』というエピソードを聞いたことはありますか。

榎社長「はい。『クラウドファンディングを実施したことで、クラブと一緒になって一つのことを成し遂げられたことが嬉しかった』とサポーターの方が話されていたそうです。

 また、クラウドファンディングのリターングッズをはじめとする商品開発にも、たくさんのサポーターの方のご意見を反映させていただきました。そうした形で、直接お話するという形以外でもサポーターの皆さんとチームやクラブがコミュニケーションを取る機会を増やしていきたいと考えています。

 その一方で、クラウドファンディングに対して否定的な意見があることも承知しています。そこはスポンサー獲得等をはじめ、我々のできることを最大限にやって理解を求めていきたいと思います。」

「ALL Blue Project」の実施に込められた思いとは

(大分トリニータの公式マスコットは写真左のニータン)

今回大分トリニータは、4回目のクラウドファンディングを実施されますが、その主な目的について、伺ってもよろしいでしょうか。

榎社長「現在、トリニータはJ2の中で第10位(5月31日現在)です。厳しい戦いを強いられてはいますが、まだまだチームはもちろん、クラブの誰一人としてJ1復帰を諦めてはおりません。

やはりトリニータはJ1にいるべきチームだと思いますし、そのために、まず、クラブが、チームが全力を尽くす。その上で、多くの方々とともにJ1を目指してチームを作っていくという機運を高めていきたいです。チーム・クラブ・サポーター、みんなで一つになって同じ方向に向かうための『ベクトル』を作りたい。そのような意味を込めて、今回のクラウドファンディングを実施させていただくことになりました。」

J1でもJ2でも大分トリニータの存在意義は変わらない

(ゲーム前、トリニータのサポーターとグータッチをする榎社長)

過去のトリニータの経験をベースに質問させていただきます。J1で戦うときの経営面とJ2で戦うときの経営面では、何か大きな違いはあるのでしょうか。

榎社長「J1とJ2では状況が違いますが、経営方針自体の大きな変化はないと考えています。そしてチームやクラブが常に成長していかなければならないという点も変わらないだろうと思います。

 といいますのも、大分トリニータの存在意義と申しますか、トリニータがなぜ大分にあるのかという理由が『スポーツを通じて大分に元気や笑顔を届けること』、『勝利に向けて、最後まで諦めない姿勢を見せること』というものなんです。そしてこのトリニータの存在意義はJ1で戦うときもJ2で戦うときも全く変わりはありません。

 ただ、皆さんにチームの姿を見て元気になってもらえる、あるいは笑顔になってもらえる度合いというのは、やはりJ1の方が強いんですね。J1で戦っているとアウェーからたくさんのお客さんが来たり、試合の様子も全国レベルで放送されたりします。そこから『大分のチームが、ビッグクラブを相手に頑張っているぞ』という気持ちを、応援してくださる皆さんに届けることができます。そうしたことから、やはりJ1で戦うこと、J1で戦い続けることは大事だと考えています。」

天皇杯の準優勝が大分トリニータにもたらしたもの

大分トリニータは、去年(2021)の天皇杯で準優勝に輝いています。先程榎社長がお話された大分トリニータの存在意義「大分にスポーツを通じて元気や笑顔を届ける」という面から見ると、昨年の天皇杯の準優勝は大きな意味があったのではないでしょうか。

榎社長「天皇杯の決勝戦は、相手がビッグクラブの浦和レッズさんで、試合も東京で開催されました。そのため、試合前にはいろいろな関係者の方から『決勝の国立競技場のスタンドは、(浦和レッズのファンの)赤一色に埋まるのではないだろうか』と言われていたんです。

 でも蓋を開けてみると、決勝戦当日の国立競技場のスタンドには1万人を超えるトリニータの青いサポーターが駆けつけてくださいました。その風景を見たときに、サッカーの、そしてスポーツの持つ力というのを改めて感じました。

 また、昭和電工ドーム大分で行われたパブリックビューイングにも多くの方が応援に来てくださいましたし、やはり大分トリニータがより大きな舞台で戦うことが、大分の方々はもちろん、トリニータを支えてくださる人に、元気を届ける力になるのかな、と思っています。」

ちなみに、トリニータが天皇杯の決勝戦まで勝ち上がったことは、チームを支えていたスタッフの皆さんに、どのような影響を与えていると思われますか。

榎社長「天皇杯の決勝の舞台に立てるというのは、ある意味でそれまでの戦いや日々の練習に対する神様からのご褒美のようなものだと思っています。とはいえ、浦和レッズさんとの戦いに敗れたときは、やはり悔しい思いをしましたね。でも、あの大きな舞台で戦えたのは、チームはもちろん、我々スタッフにとっても大きな経験であり、財産であると考えています。

 また、準決勝の川崎フロンターレ戦で勝ったときは、私も涙が出るほど嬉しかったです。その昔、トリニータがJ3からJ2に昇格したときと同じくらいの嬉しい勝利になりました。涙を流すほどの試合を経験できたのは、スタッフにとっても今後の支えや誇りになると思います。」

大分トリニータの将来の理想像とは

(練習会場で下平監督と話している榎社長)

榎社長は地元大分県のご出身と伺っております。大分トリニータの未来像について質問させていただきたいのですが、今から5年後、あるいは10年後くらいに、トリニータは大分県の方々からどのようなチームだと認識されていてほしいですか?夢や理想などは、お有りでしょうか。

榎社長「実は最近、私共のクラブで2030年に向けた長期計画を作りました。その中では、今回のようなJ2への降格をはじめとする紆余曲折があっても、2030年までにはJ1に定着するチームになる、ということを目標の一つにしています。

 『スーパー』な選手はいないかもしれませんが11人の力を12人分にするくらい走り負けず、勝負を最後まで諦めないチームになってほしいですね。同時に、ゲームを見ている方々をいつでもわくわくドキドキさせるチームであってほしいとも思います。また、状況に応じて選手一人一人がポジションを越えて柔軟に対応できるフレキシブルな能力を持つチームになりたいです。そして、そのときの主力選手には、トリニータのユースから上がった選手が1/3を占めるようになれば嬉しいです。

 そして、大分のスタジアムに老若男女問わず、おじいちゃんが孫を連れて応援に来たり、ご夫婦や家族連れでトリニータの試合を見に来たりするような、トリニータが日常に溶け込んでいるような状況をつくっていきたいと思います。

 また、大分には外国人の方もたくさんお住まいです。そうした方々も、『自分のチーム』として大分トリニータを応援してくださるようになりたいと思っています。」

では、5年後か10年後、大分トリニータは日本全国からどのようなチームであると認識されていてほしいですか。

榎社長「トリニータには大分出身の選手もいますが、県外出身の選手もたくさんいます。そして、県外出身の選手がトリニータでプレーする時には、その選手の出身地のファンの方もトリニータを応援してくださるという姿をつくりたいです。

 そのように、ローカルであることを全面に出しながら、より全国区に近づけるようなチームになってほしいです。そして、『トリニータって地方のクラブだけど、頑張っているよね』あるいは『地方にいるから、トリニータはあれだけのことができるんだよね』と思われるようなチームとクラブになりたいと思います。」

では最後に、5年後か10年後、世界のサッカー関係者から見て、大分トリニータはどのようなチームであると認識されていてほしいですか。

榎社長「『大分トリニータは頑張っている、将来伸びそうな選手がいるチーム』と、サッカー界で広く認識されるようになれば嬉しいですね。

 そして、いつの日かトリニータから直接海外のチームに移籍する選手が現れて、ヨーロッパなどでキャリアを積んでから、またトリニータに戻ってきて、その経験をチームやクラブに伝えてほしいと思っています。」

今回の「All Blue Project」は、大分トリニータのJ1復帰に向けた足がかりであると同時に、将来の大分トリニータへの投資という側面も持つ。「ローカルに徹することで全国で勝負できるようになる」という榎社長の将来像に向かって、トリニータはこれからも戦い続ける。

(インタビュー・文 對馬由佳理)

(写真提供・大分トリニータ)

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