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福岡PayPayドームや「BOSS E・ZO FUKUOKA」一帯からつくられる福岡ソフトバンクホークスの”まちづくり” 新たなエンターテインメントの発信地に

2023年、福岡ソフトバンクホークスの本拠地「福岡PayPayドーム」が開業し30周年そしてホークス球団創設から85周年でもあり、”ダブルアニバーサリーイヤー”を迎えた。

これまで進化と発展を進めてきたホークスは、世界のスポーツ界において活発に行われている「スタジアムと周辺を活用したまちづくり」についても、数年前から着手している。

その象徴の1つが20年7月に開業した「BOSS E・ZO FUKUOKA」である。

今回、球団の広報室長である池田優介さんにお話を伺い、施設ができた経緯などを交えて球団の取り組むまちづくりについて特集する。

(表紙写真コピーライト:©SoftBank HAWKS 文:白石怜平)

野球の枠を超えたさらなるニーズの発掘へ

「BOSS E・ZO FUKUOKA」は、ホークスの本拠地・PayPayドームのすぐ横に立地するエンターテインメントビル。

20年7月21日に開場したこの地上7階建てのビルには、劇場やアトラクション、王貞治・球団会長の栄光の軌跡を辿る「王貞治ベースボールミュージアム」など多くのアミューズメントが盛り込まれている。

王貞治ベースボールミュージアム内の様子 ©SoftBank HAWKS

同施設は18年11月に建設が発表され、約3年近くかけてつくり上げてきた。この構想は17年ごろに始まったという。

「球団としては、野球における演出などエンターテインメント性を長く追求しており、次は野球の域を超えて新たなニーズをつくりたい想いがありました。

と言いますのも、PayPayドームは野球の試合を開催していない日でもコンサートを開催したりなど、年間ほぼ100%稼働しています。ビジネスにおける先の展開として、野球で培ってきた”エンターテインメント”を強みとして、何かできないかというのが始まりです」

球場周辺に広がる世界について、ヒントは野球そしてエンターテインメントの本場・アメリカにあった。

「球団幹部をはじめこれまで発信してきたこととしては、ラスベガスやアトランタのような”街中がエンターテインメントになっているような空間”というのを描く理想として考えていました」

福岡ソフトバンクホークス 池田優介広報室長

参考の一つになったのがアトランタ・ブレーブスの事例。

本拠地トゥルーイスト・パーク周辺には、オフィスやマンション、インキュベーションラボなどができている。これらのエリアは球場と街の関係を野球の投手と捕手になぞらえて”The Battery Atlanta”と名付けられている。

球団も野球に限らずヨーロッパなどにも足を運び、視察を重ねて現在の形をつくっていった。

「まさにここもドームの隣にはショッピングモールがあり、周辺にはヒルトン福岡シーホークさらにマンションもあります。このエリアが昼夜問わず365日楽しめるエンターテインメントの空間を求めた形が今に至ります」

PayPayドーム周辺が多くの方が集まり、生活する”まち”になっている ©SoftBank HAWKS

コロナ禍まっ只中のオープン、約2年半は忍耐の期間に

「BOSS E・ZO FUKUOKA」のオープンにおいて、池田さんは”インバウンド”を大きなテーマに掲げていると語る。

福岡県は、県別での外国人観光客数がトップ10以内に入るなど全国有数の観光地。地理的に近い韓国をはじめとするアジア諸国を中心に、コロナ期間を除いて毎年多くの方が訪れている。

球団はこの場所と魅力を活かし、PayPayドーム一帯も世界中の人が集まれる観光のシンボルにしたい想いを抱いてきた。

福岡県の新たな観光シンボルになろうとしている ©SoftBank HAWKS

しかし、開業当初は新型コロナウイルス禍が世界的に猛威を振るい始めたタイミング。オープンから昨年までは海外どころか国内の移動ですらも制限があったため、スタートから苦戦を強いられることになった。

「元々この施設をつくったときも、”インバウンドの集客”というのを大きなテーマとして持っていました。平日昼間や試合がない日の集客を考えると、キーになるところだったのですが、まずそこが完全いらっしゃらないというのがスタートから苦労したところです」

コロナ禍でのオープン後、大変な苦労があった

開業してからは、県内を中心とした地元の方が利用する割合が大きかった。メインテーマである”インバウンド集客”が全くと言っていいほど獲得できない期間だった。

忍耐の日々が続いたが、昨年の末ごろ徐々に風向きが変わり始める。韓国などから福岡への直行便が再開するとアジアを中心に欧米からも観光で訪れる方が徐々に戻ってきた。

そして、今年に入り3月にプロ野球が開幕すると声出し応援が復活。日常でもマスク着用義務の解除などもあり、PayPayドームやBOSS E・ZO FUKUOKA周辺は賑わいを見せた。

「昨年までと比べて各フロアで1日の最高入場者数更新や、過去最高の売り上げを更新する日が続きましたので、レジャーにおける機運が戻ってきたというのを実感していますし、本格的なスタートが切れたと思います」

PayPayドームでも年間200万人を大きく超える動員を見せた

自治体と連携してインバウンド誘致を強化

インバウンド誘致をさらに高めるべく、球団は自治体と連携している。

県や市の観光連盟など共に各国へ直接提案し、海外のインフルエンサーにBOSS E・ZO FUKUOKAへ来場いただくなど尽力。インフルエンサーがSNSでその魅力を伝えることで、海外からの来場を促進する取り組みを行っている。

また、球団のインバウンド誘致を担当する部署が行政と一緒に台湾など現地へ行き、交流を深めることでコンテンツ制作へと活かしている。

「インフルエンサーさんに協力いただくことで、若い層に支持されてるスポットになったり、海外の方々に”行ってみたい”と思ってくださっているので嬉しい限りです」

日本有数の観光名所でもある福岡。その魅力は海外に向けたものだけではない。今後国内で力を入れたいことについて語る。

「団体さんの誘致にもっと力を入れていきたいですね。例えば修学旅行。学校さんの修学旅行というのは、ここ1年先の話ではなくて3年〜4年先のことを決めていくんですね。

ここでも行政の方々と協力をして、九州に来ていただけることになれば、『ぜひ福岡に・ぜひBOSS E・ZO FUKUOKAに立ち寄ってください』などとお伝えしています。コロナ禍の時期から種を蒔いてきたのもあり、ようやく軌道に乗ってきてる手応えはあります」

ドームをはじめ常に賑わいを見せている

賑わいを見せているホークスがつくり上げる街。取材当日は試合のない平日日中の雨の日だったが、BOSS E・ZO FUKUOKAには学生や乳幼児と一緒のファミリーなど地元の広い層が多く訪れていた。

各フロアが賑わいを見せており、県内有数のレジャースポットとして確実に定着している印象を受けた。

「それまで試合のない日は結構寂しかったですよ。確かにそうですよね(笑)。でもこの施設ができたことで、今日みたいな平日の野球がない日でも人通りがある。とても意義のあることだと思います」

野球以外でも楽しめる場所がたくさんある。「チームラボフォレスト 福岡 – SBI証券」 福岡PayPayドーム隣

「我々はエンターテイメント企業です」

取材の中でホークスを表す上でのキーワードがあった。池田さんを始め、球団が揃えて語っていたのは「我々はエンターテインメント企業なんです」ということである。

親会社がソフトバンクとなった05年から掲げているスローガンは「めざせ世界一!」。球団運営にとどまらず、「世界一のエンターテインメント企業」を目指すと宣言している。

球場演出もエンターテインメント性が多く盛り込まれている

PayPayドームではプロ野球の開催日以外にもコンサートや展示会などが開催され、BOSS E・ZO FUKUOKAでは11/5まで「NARUTO THE GALLERY FUKUOKA」が行われるなど、その言葉通りエンターテインメント全般を担っている。

池田さんと共に広報を担当する田中美帆さんはこの点について

「BOSS E・ZO FUKUOKAの運営会社も弊社ですので、常設のコンテンツだけでなく、NARUTOのようなアニメ関連のイベント取材なども我々が対応します。ホークスの広報と聞くと驚かれるメディアさんもいらっしゃいます」

と語る。球団経営の枠を超えた企業としての在り方もホークスはいち早く実践していた。

BOSS E・ZO FUKUOKAの開業から約3年、コロナ禍を経て今年再スタートを切ったとも言える球団のまちづくり。

今後実現したい世界観を池田さんに語っていただいた。

「PayPayドームが中心となり、隣にBOSS E・ZO FUKUOKAがあるので、この一帯が昼から夜まで、何なら1日だけじゃなくて2日,3日と連日楽しめるっていうようなエリアに創り上げたいというのが一番の想いであります」

福岡のシーサイドももちエリアに広がる球団がつくる”まち”。福岡県の観光シンボルになるとともに、スポーツ界のモデルケースとしてさらに発展を遂げていく。

(おわり)

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