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「NYで出会って関学で厳しさを知ったアメフトを、生まれ故郷の尼崎へ根付かせたい」チャレンジャーズ主将・亀山暉

アメフトXリーグ・アサヒ飲料クラブチャレンジャーズ、X1SUPER(=1部、以下SUPER)昇格1年目シーズンが終わった。

レギュラーシーズン5試合を2勝3敗で終え、プレーオフ進出を果たすなど健闘のシーズンだった。現場を引っ張るキャプテン・WR亀山暉(あきら)にシーズン終了直後の率直な思いを語ってもらった。

X1SUPER 1年目、強豪チーム相手にも手応えを掴んだシーズンとなった。

~細かい部分を詰められなかったのがスコアの差

チャレンジャーズは昨年まで所属したX1AREA(=2部、以下AREA)とは全く異なるタフな舞台を戦い終えた。SUPER昇格1年目のチームをまとめたのが、今季からキャプテンに就任した亀山。フィールド内外でチームを叱咤激動しながら戦い続けた「背番号11」にとっては、チーム間の実力差と共に手応えを感じたシーズンとなった。

「富士通、パナソニック、オービックがSUPER内で抜けているのはわかっていました。でも、対戦前には負ける気持ちはありませんでした。レギュラーシーズン前は『5戦全勝で行こう』とチーム内で話していました。勝負を最初から諦める気持ちはなかったです。シーズン終了後も結果は受け止めていますが、これで終わりとは思っていません。大きな可能性があるはずです」

「強豪チームとの対戦は大きな経験になりました。正攻法で勝負できるほど甘くないのはわかっていましたが、実際に対戦して通用する部分もあると感じました。フィジカルやスキルは抜けている選手も多く、チームの成熟度も違った。でも、それ以上に細かいところを詰められなかったのが、スコア差に出たのだと思います。そういった部分を改善できれば近付けると思います」

今季は9月19日エレコムとの開幕戦は黒星スタート(10-17)も、9月25日東京ガスを相手に初勝利(19-17)を挙げる。10月9日富士通(7-40)、10月23日オービック(17-35)と連敗するも、11月5日otonari福岡との最終戦に勝利して(52-22)プレーオフ進出を果たした。

フィジカルやスキルの差はあるものの、細かい部分を徹底すればスコア差は縮められるはずだ。

~モメンタムは自分たちで作り出している

キャプテンとして改めて感じたのは、チーム内に蔓延する取り組み方への甘さだった。試合までにしっかり準備を行い、試合中は平常心を保ち普段のパフォーマンスを発揮する。それだけでアメフトで最も重要と言われるモメンタム(=試合の流れ)を作り出せる。強豪チームとの差を縮めるため、亀山が最も必要だと考えている部分だ。

「大学時代(=関西学院大)に平常心の重要性を教えられた。大村(和輝)監督から常に言われていたのは『プレーの1つずつに一喜一憂するな』ということでした。『モメンタム(=試合の流れ)は自分たちで勝手に作り出している。完璧な準備をして平常心でいれば、ミスは出ても流れが行ったり来たりしない』と。自分の中で一番大事にしている部分です」

「感情を出して前向きにファイトするのは絶対に必要です。でも今年のチームは感情面での起伏が大き過ぎた。開幕戦(エレコム戦)では同点に追いついた時にチーム全体が喜び過ぎ、その後に逆転を食らった。またミスが続くと気分が落ちてパフォーマンスへの影響もあった。メンタルを動かさずフラットでやる。それを浸透させるのが難しいと感じました」

準備を行いプレー中に平常心を保てれば、自分たちに有利なモメンタムを作り出せる。

~関学時代のライスボウルでアメフトの厳しさを知る

尼崎(=アマ)で生まれてニューヨークで育った。アメフトの母国で思春期を過ごした男は13歳で帰国、その後も当然のように楕円球を追い続ける日々を過ごした。大人になってアマを本拠地にしたチャレンジャーズのキャプテンとなったことには、どこか運命的なものすら感じる。

「祖母と母がアマの人で僕も生まれはアマです。中学1年の夏までニューヨークにいて、アメフトは自分の周囲に当たり前にありました。高校の試合が日本の甲子園くらいの人気で見に行ったりもしました」

関西学院大アメフト部時代には全国の舞台を経験した。社会人との日本一決定戦であるライスボウルには大学1、3年の2度出場を果たしたが、どちらも富士通相手に敗戦(2015年『24-33』、2017年『13-30』)。社会人トップチームの強さを身を以て経験したことが、現在の大きな礎になっている。

「学生と社会人にはスコア以上の大きなレベル差を痛感しました。対戦相手の富士通は日本一を目指すチーム。フィジカル、技術など圧倒的な個を持った選手たちが団結力を持っていると感じました。学生同士の試合では組織力で何とかなりますが、それすら通じない。まずは個の力で完全にねじ伏せられました。その上で組織力もあるので強いはずです」

「フィジカルの違いがすごい。ライスボウルに出るチームの選手は、学生時代から積み上げたものに加えて常に努力している。社会人のその他チームには学生でも勝てるかもしれないですが、日本一を目指すチームはレベルが違い過ぎた」

「当時を振り返っても、今のチャレンジャーズでは頂点には程遠いと思います。フィジカルや基本の動きを徹底して底上げする必要があります。もちろん戦略も大事ですが、それだけで誤魔化せるリーグではない。付け焼き刃でやってもダメで、しっかりとしたベースが必要です。それがあるから細かい部分の徹底にもつながります。チャレンジャーズなりの戦いができるはずです」

ベースを高め細かい部分を徹底することで、チャレンジャーズなりの戦い方を目指す。

~明確な基準を提示してチームを同じ方向へ導く

SUPERに挑む新チーム結成にあたり、覚悟を示そうとキャプテンに立候補した。実は昨年までのキャプテン巽豊(たつみゆたか)は本職が小学校教諭。「指示を出す時などは小学校で話す時と同じ部分もある」と語るほど、リーダーシップに富んだ人物だった。跡を継ぐ形となった亀山は、前任者と異なったアプローチ方法でチームを牽引する。

「巽さんは『さすが先生だな」と感じた時もありました。僕は話がうまいとか、めちゃくちゃ熱いタイプではない。少しスキがあるような感じ。以前は僕も『自分のパフォーマンスを出すだけ』と思っていたけど、自分の本気度を示したかったのでキャプテンになった。小さなことでも見ぬふりせず1つずつ潰していくことを重要視し、厳しいことも言います」

「学生時代の方が(アメフトへの取り組みが)厳しい感じがしました。もちろん全部を同じにするのは無理です。でもプレー1つへのこだわり、細かい部分を徹底するところなどで少し甘さがある。休日に趣味で楽しくアメフトやりたいなら、それでも良い。でも勝ちたかったらダメ。SUPERという日本最高峰リーグに上がったチームとして徹底すべきです」

1998-99年は2年連続ウエストディビジョン全勝優勝、2000年ライスボウル制覇(日本一)、翌01年も社会人制覇を果たした。過去の栄光を思えばAREA時代は屈辱ともいえ、1日も早いSUPER昇格という明確な目標があった。しかし今後の優勝争いは、ハードルが高いと言わざるを得ない。

「AREA時代は昇格のため必死でした。また外国人選手がいないチームもありましたが、うちには4人います。チーム全体で戦術を徹底しなくても、彼らの活躍で勝てる試合もあった。今後そういう戦い方では上を狙うことはできない。キャプテンとして明確な基準を提示し、チームを同じ方向へ導く必要があります。そこが僕にはまだできていない部分です」

キャプテンとしてチームを同じ方向へ導くことが結果にもつながると考える。

~アマを盛り上げるためにも強くなりたい

これまではイチ選手としてプレーしてきたが、キャプテンという肩書きが加わった。イチ社会人としてはアメフトだけでなく、仕事、プライベートとやるべきことは多い。今後SUPERを戦うチームの一員として、亀山の負担は日に日に重くなっているように見える。

「立候補したので自己責任(笑)。チームメイトが助けてくれるので、一人でシンドイというのはない。まずはアメフト選手としてしっかりプレーすること。シーズン中は週末の全体練習の他、平日3日は筋トレや走り込みでコンディションを維持する。水曜日はチームのグラウンドが使用できるので、QBや他のレシーバーとプレーを合わせたりします。練習回数より密度を濃くすることを大事にしています」

「選手として活躍しなければキャプテンとして説得力がない。チームの窮地を救う、勝利に導くような選手になりたい。ワイドレシーバーとしては、キャッチ力や競り合いは負けないと思っています。球際の強さに一番こだわっています。ギリギリでキャッチできるかどうか、が自分に託されたタスクです。反対に課題はクイックネス(=俊敏性)なので、日々、トレーニングを重ねています」

米国でも最上級のスポーツ熱が漂うニューヨークで育った亀山にとって、日本のアメフト環境は納得できるものではない。自らのプレーで、生まれ故郷アマを盛り上げたい気持ちも持っている。

「アマは阪神タイガース一色で、チャレンジャーズはまだ始まったばかり。盛り上げるには強くなることです。強くなれば露出も増えるし注目されます。自分のやるスポーツをアマの人に応援してもらえれば本当に嬉しい。ポスターなどが生まれ故郷に飾ってあったら最高です」

チームが強くなればアメフト人気も高まり、アマにも定着するはずだ。

SUPER1年目のチーム成績は及第点とも言える。しかし同リーグ内でのレベル差は大きくとても受け入れられるものではない。チーム力を上げ、一歩ずつでも差を縮める。強くなることで尼崎が本当の本拠地になると信じている。

「アメフトって本当に面白いけど魅力を伝えるのは難しい。激しい中にも緻密さがある。色々なことが計算され細かいことが勝敗を分ける。本当は大人気スポーツになっているはずですけど(苦笑)。まあ、一番わかりやすいのは強くなることですね」

最後までチームが強くなることを気にかけていた。亀山が引っ張るチャレンジャーズはまだまだ強くなるはず。一足飛びに頂点到達は難しいかもしれないが、来季、上位チームに一泡吹かせてくれるのを期待したい。

(取材/文・山岡則夫、取材協力/写真・アサヒ飲料クラブチャレンジャーズ)

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