成城大学アイスホッケー部―たくさんの笑顔と共に、100周年を迎えるために―
新型コロナウイルスの脅威はほぼ過ぎ去ったものの、その影響というのはいまだに暗い影を落としている。その一つが、大学の体育会の部活動である。部員の減少や物価高という影響をまともに受け、厳しい環境のなかで活動をしているところも、決して少なくはない。
その状況は、100年という長い歴史をもつ部活であっても同様である。しかし、歴史を受け継ぎ発展させていくために、多くの大学生が学業と部活の両立に奮闘しながら、日々努力を重ねている。
今回は、成城大学アイスホッケー部の磯直希キャプテン(4年・横浜栄)、平井太陸氏(ヒライリク・2年・実践学園)、そして寺岡達哉氏(3年・向上高)の3名に、現在の活動状況や部の創立100周年に向けた話を聞くことができた。
相手チームの選手の「歯」を氷の上で探したことも
まず、成城大学アイスホッケー部の学年別の構成を教えていただけますか。
磯直希キャプテン(以下、敬称略)「プレーヤーは4年生が1名、3年生が2名、2年生が5名、1年生が3名の合計11名です。マネージャーは4年生が4名、3年生が3名、2年生が1名、1年生が4名の合計12名います。」
大学でアイスホッケー部に入る方は、アイスホッケーの競技経験のない方がほとんどではないかと思います。皆さんは、どのようなきっかけでアイスホッケーを始められたのですか。
磯「大学入学時に、今までやったことのない新しいことに挑戦したい、大学生活で何か新たに熱中できることをしたい、という思いがあり、高校の友達に勧められてアイスホッケー部の体験に行きました。そうしたらとても楽しかったので、そのまま入部しました。また、部員のほとんどは新歓や練習体験での部の雰囲気がとても良かったという理由から入部したと聞いています。」
平井太陸(以下、敬称略)「私自身は小学校から高校まで、野球をしていました。成城大学へ進学するにあたり、大学から新たに始められるスポーツをしたいと思っていたら、ラクロスとアイスホッケーがあったんです。でも、ラクロス部は週5日間練習がありましたが、私自身大学に入ったらアルバイトをしたいと思っていたので、週5日間の練習はちょっと難しいなと考えました。一方、アイスホッケー部は週に1日の練習とパンフレットに書いてあったので、アルバイトの時間も確保できそうだと考えて、アイスホッケー部に入部しました。
でも、入部してからわかったのですが、アイスホッケー部の全体練習は週1なのですが、特に初心者の1年生はほぼ毎日のようにスケート場に行って、スケートで滑って曲がって止まることができるようになる練習をする必要があったんです。
実は、そのスケーティングの練習の第1日目に私は思い切り氷の上で転倒してしまい、左目の眉毛のあたりを10針ほど縫うケガをしてしまいました。」
スケーティング練習の初日にそのような大けがをしたのは、本当に大変でしたね。それでも平井さんがアイスホッケーを続けることができたのは、なぜなのでしょうか。
平井「私自身の性格もあるのか、途中でやめて逃げ出すのは、一番簡単だけど一番ダサいことだと思ってしまうんです。だから、大学でアイスホッケーを始める時も、絶対に4年間続けると決めて入部しました。
今は、アイスホッケーが大好きだからという気持ちが大きいです。アイスホッケーの試合の現場の臨場感と迫力って、ほかのスポーツとは比較にならないくらい強烈なものだと思うんです。
アイスホッケーのピッチって意外と狭くて、その中をスケートを履いて大きな防具をつけた選手が、ぶつかり合ったり時には相手をよけたりしながら、高速でゲームを進めるんです。
私はまだプレーヤーとしてのキャリアも短いのですが、上級生やほかの学校の上手な人のプレーを見ると本当にほれぼれしますし、自分もあんな風に上手になりたいという気持ちがわいてきます。そんな思いが、アイスホッケーを続ける私の原動力なのだと思います。」
おそらく平井さんご自身がプレーをしているときは感じられることは少ないでしょうが、例えば、自分が観客としてアイスホッケーを見ているときに、「アイスホッケーはこんなに危ないスポーツだったのか」と、思ってしまうことなどありませんか。
平井「確かにあります。また、自分がプレーしていても、パックが体に当たって青あざができたり、ゲーム中に転倒したときに足首が逆方向に曲がっていたこともありました。
また一度、練習試合に出たとき、試合中に自分がぶつかった相手チームの選手が、試合後に氷の上で何か探していたんです。『何探してるの?』って聞いたら、『ゲーム中に歯が折れちゃって、その折れた前歯を探しているんだよね』って言ってたので、一緒に歯を探したこともありました。その時は改めて、このスポーツって本当に危険なスポーツなんだな、と思いました。」
では、アイスホッケーというスポーツの魅力はどのようなことだと、磯さんと寺岡さんは思われますか。
磯「やはり、アイスホッケーの魅力は、スピード感と激しいコンタクトプレーにあると思います。プレーヤーの動きがスピーディーな上に、氷上のアメフトと呼ばれるほど選手同士のコンタクトが激しいスポーツです。また、ゲーム状況が瞬時に変わるので、チームワークや戦術がとても大切になりますが、それらがうまく噛み合った瞬間は、プレーをしていても本当に楽しいです。」
寺岡達哉(以下、敬称略)「私も、アイスホッケーの魅力はスピード感とコンタクトの迫力を他のスポーツより強烈に感じられることだと思います。また、プレーヤーの立場として言えば、大学に入って、全く経験のない状態からアイスホッケーを始める人が多いので、自分の努力次第で周りと差をつけることができる点も魅力のひとつですね。」
深夜2時過ぎからリンクでトレーニング
アイスホッケー部の皆さんは、練習がある日はどんなスケジュールで過ごしているのでしょうか。
磯「練習時間が深夜の2時15分から1時間半ということもあり、部活の次の日の午前中に授業を入れていない部員がほとんどで、午前中に寝て午後から学校に行くというスケジュールです。午前中に授業がある部員に関しては練習後そのまま寝ずに授業を受けて、空いてる時間で部室にあるベッドで寝て1日を過ごすという感じになってます。また、アイスホッケー部では陸上トレーニングやインラインホッケーもトレーニングに取り入れていますが、その場合は授業が終わって夕方から夜にかけて練習している感じですね。」
寺岡「練習のある日は平日が多いので、日中は学校に行き、その後アルバイトなどをして夜に練習に行く選手が多いです。土日に練習がある日はアルバイトをしたり、遊びに行った後に練習に来る選手もいます。時間が遅い分自分の好きなことに時間を使えます。」
成城大学アイスホッケー部はまもなく100周年を迎える、歴史ある部と伺っています。現役の学生またプレーヤーとして、平井さんご自身がその100年の歴史を実感されたことは、ありましたか。
磯「正直なことを言うと、普段の練習や活動において歴史が長いという事を実感することはあまりありません。時々行くスケートショップで昔の話を聞いたり、監督を含むOBの方々が昔のことを話してくれることは稀にあるものの、”歴史が長いから伝統を守らなければならない”という気持ちを持ってる部員は少ないと感じています。しかし、もうすぐ100周年という節目を迎える事もあり、OBの方々との繋がりをより深くしアイスホッケー部としての歴史をこれからも作っていかなければならないと感じています。
私たちの代が入学したのは、コロナが流行ったあとすぐではなく、その1年後ということもあり、今と変わらない頻度で練習することはできていました。しかし、先輩から、コロナの最中には、アイスホッケーのゲームをやったり、少人数で日中のスケートリンクの一般滑走に行くなどしてモチベーションを保っていたと聞いたことがあります。」
平井「かつて、自分たちよりも4つ上の先輩たちが、このようなことを話していたことがあるんです。
その4つ上の先輩方がちょうど大学2年生の頃に新型コロナウイルスが蔓延して、部活が全くできない状態になってしまいました。また、同じ頃たくさんのアイスホッケー部員が退部してしまって、結局3人くらいしか部員が残らなかったそうなんです。
でも、その3人の先輩方は、みんな本当にアイスホッケーが大好きな方ばかりでした。だから、そうした苦しい状況にもかかわらず、その先輩方が1年生に声をかけて部員を増やしたりして、試合ができない時期でも部としての活動を維持していたんですね。だから、今私たちがアイスホッケーを成城大学でプレーできるのも、そのような先輩方の活動のおかげなんです。
実はその頃に部の維持に奔走した3人の先輩方のうちお2人が、今私たちのコーチをされています。いつでも楽しそうに、いろいろ教えてくださる先輩方です。
きっと成城大学アイスホッケー部の100年の歴史の中には、このような先輩方がたくさんいらっしゃることでしょう。今回の100周年を通じて、幅広い年代のアイスホッケー部の方とご連絡を取りたいと思っていますし、たくさんのOBの方からご声援を頂ければ、部としてもより大きく発展できるのだと思います。」
アイスホッケー部に入って一番楽しかったこととは、どのようなものでしょうか。
寺岡「一番楽しいのは、試合に勝った時です。私たちは他の大学より人数も少ないため、人数差による体力負けに屈してしまうことが多いです。でも、その中で試合に勝てた時は嬉しさと楽しさを一番強く感じます。」
磯「入部して一番楽しかったことは、合宿です。普段氷上練習は週1回か2回しかない中、合宿では練習が多いだけでなく他の部員と接する時間も長くとることができました。そのため、よりチームワークが良くなり、チームとして強くなった感じがしました。また、練習以外でもたくさんの思い出を残すことができて、とても楽しかったですね。」
平井「成城大学アイスホッケー部って、大学の体育会系の部活でも群を抜いて仲の良い部活なんです。今年の新歓期間に入部した1年生が『他の部やサークルの新歓にも行ったけど、アイスホッケー部が一番部員同士の仲が良くて、楽しそうだった』と言ってくれました。また、週に1回くらい、みんなで部室に集まって、試合や練習中の録画を見ることがあるのですが、その時に部室にあるNintendo Switchなどでみんなでゲームしたりしますし、その後みんなでご飯を食べに行くことも普通にあります。良い意味で厳しい上下関係がない部活といえるでしょうね。先輩方も自分たちと同じように、全くの初心者から始めたので、後輩がどのようなことで困っているのかということもわかってくれます。また、後輩の話も積極的に聞いてくれるので、風通しがよい部活だと思います。」
では逆に、アイスホッケー部に入って、一番苦しかったことは?
寺岡「一番苦しかったことは試合中です。勝てた時はとても嬉しく楽しいですが、アイスホッケーって競技中は凄く走るスポーツなので、人数も少ない分かなり体力的にも精神的にもきついです。」
磯「一番苦しいことは、人数が少ないという現状です。実は、私が入部した当初は試合もできないほど人数が少ない状況でした。その頃よりも今は若干ましな状況にはなりましたが、それでも部員が少ないと資金的にも苦しくなりますし、試合の場でも体力的に不利な状況になってしまいます。率直に言って、今のこの状況が非常に苦しいと感じています。」
100周年に向けて部員を増やし、充実したアイスホッケー部にするために
今回、成城大学アイスホッケー部は、多くの方にご支援をお願いすることになりました。その背景について、伺ってもよろしいでしょうか。
寺岡「当部は1931年に創部され、新型コロナウイルスによる規制が緩和された昨年に90周年記念式を行いました。次は100周年に向け、強かった成城大学を取り戻すべく、まず4部昇格を目標に新たなスタートを切りました。しかしコロナウイルスの影響により部員数が激減し、戦力的にも経済的にも厳しい状況が続いています。
現在は経済的な問題もあり、リンクの一番遅い時間である26時15分から練習をしています。そのため興味を持ってくれた新入生も入部に難色を示し、部員がなかなか増えにくい状況です。そこで、今回皆様にご協力頂いた分で、もっと早い時間からリンクで練習できる環境を整えたいです。
また、経済的理由により、ここ2年は春の大会の出場を断念していました。しかし、チームのレベルを上げるために実践での経験はとても大切なので、2024-2025シーズンから春の大会にも出場したいと思っています。そして何より、貴重な学生時代の経験や思い出をチーム全体で作っていきたいです。
これからも歴史ある成城大学アイスホッケー部を存続させたい。そのためには部員数を増やすことが重要であり、部員を入部しやすくするためにも新入生が参加しやすい環境づくりが必要になります。
しかし、今の私たちの経済状況では、このすべてを賄うことは難しいため、今回ご協力をお願いすることになりました。」
磯「先程もお話させていただいた通り、成城大学アイスホッケー部は人数が少ないため、他の大学のアイスホッケー部に比べ、活動資金が少ない状況です。ただでさえアイスホッケーを始める初期費用は高い上に、練習のためのリンク代などもかなり高額になります。また、大会に出場する費用もかなりの額ですので、この数年の春の大会は出場を断念してます。
部活に本気で取り組んでいる以上、費用が足りないから大会に出れない、という事がないように、今回ご協力をお願いしようと決断しました。
同時に、この機会を通じて、成城大学アイスホッケー部のOBの方々とつながりを強くしたいと思っています。部の発展のためには、OBと現役の繋がりを強くして、練習面や事務的な面で様々なサポートを頂ければ、とてもうれしいです。
また、将来のアイスホッケー部員には、大学時代に本気でアイスホッケーに取り組んでもらいたいと思っています。そのため、私たちがOBになった時には、資金面・技術面など、さまざまな角度からサポートしたいと考えています。未来の後輩たちがアイスホッケーに集中出来る環境を、今から私たちが構築していきます。この機会を通じて、成城大学アイスホッケー部OBの先輩方にも、その過程を一緒に楽しみながら見守って頂ければと思います。」
創立100年という長い歴史の中でも、現在特に厳しい時期を経験している成城大学アイスホッケー部。しかし、そのような状況であっても、アイスホッケーが好きという思いはしっかりと受け継がれ、次の世代へ手渡す準備も着々と進められている。
たくさんの人の笑顔のなかで創立100周年を迎えるため、成城大学アイスホッケー部は、今も奮闘中である。
(インタビュー・文 對馬由佳理)(写真提供・成城大学アイスホッケー部)