2部優勝!1部昇格を目指す京都大学女子ラクロス部。その強さと組織変革の秘密に迫る(前編)

 1897年に国内で2番目に創設された帝国大学で、東京大学に次ぐ大学偏差値を誇る京都大学。日本の学問におけるトップクラスと言える名門校には54の運動部が存在するが、女子学生が入部できる部は少ない。
 その中で1991年に創部されたのが女子ラクロス部だ。1998年に関西学生リーグ2部に昇格するも、その後は長らく2部にとどまっている。男子ラクロス部は全日本大学選手権で4度の準優勝を果たすなど強豪として知られているが、女子部については、現在指導する岩崎功一郎ヘッドコーチの言葉を借りれば「印象になかった」というのがラクロス界からの評価だった。
 スローガンに“MAKE 1T!”、結果の目標として“2部優勝、1部昇格”を掲げて臨んだ今シーズン、関西2部リーグAブロックで圧倒的な強さを見せつけて全勝。同リーグBブロック1位の大阪体育大学との試合も7−5で制し、創部初の優勝を全勝で達成した。満を持して12月11日に園田学園女子大学との1部2部入替戦に挑む。
 2部が定位置だったチームの好成績の裏には、様々な改革を断行して変化を恐れず課題に向き合った現役生、OGの奮闘があった。

トップレベルを知る岩崎ヘッドコーチを招へい
選手たちの素直さも相まり、急成長を遂げる

 京都大学女子ラクロス部の指導は代々OGが担当しており、いい意味で積み重ねができていた組織だった。しかし逆に同じ環境でラクロスに触れ合ってきたOGが同じ方針で指導をするということは、新しい風が吹かないというデメリットもある。それが長らく2部から抜けられない原因の一つになっていたと考えられる。思いは引き継がれるものの、新しいラクロス感を注入できていなかったのだ。そこで2021年、ヘッドコーチに岩崎氏を迎えた。岩崎ヘッドコーチは現役時代に日本代表に選出されるなど活躍。引退後も各大学のヘッドコーチを歴任し、今夏まで3年間女子日本代表のアシスタントコーチを務めており、まさにトップを知る人材。上を目指すチームを指導するには適任で、女子日本代表の柴田陽子ヘッドコーチから紹介を受け就任した。

 岩崎ヘッドコーチは当時愛知県名古屋市を拠点にしており、加えて就任当初はコロナ禍だったこともあり、選手たちとの最初の顔合わせはオンラインで行われた。画面越しとはいえ、岩崎ヘッドコーチが彼女たちから感じたのはラクロスに対する熱量だった。「熱意が大きかったです。当時は名古屋から京都、現在は東京から京都へ指導に通っていますが、移動距離はあまり苦になりませんでした。一緒に歴史を作りたいというのが一つのモチベーションになっています」と高い志で指導にあたっている。
 平日の練習は映像で確認し、夜に幹部とミーティング。土日に直接指導し、「試合でどのように力を発揮するかの計画、実行、反省の繰り返しで、そこに対してコメントをしています」と学生に対して、社会人でよく用いるPDCAサイクルを循環させている。
 岩崎ヘッドコーチを迎えたことで、選手たちのラクロスに対する考えも変わった。工藤有紗キャプテンは「岩崎さんが来てからチームの雰囲気はいい意味で変わりました。新しいことが多く、1年目は戸惑いながら受け入れていましたが、今まで正しいと思っていたことがガラッと変わりました」と言う。国内トップレベルで経験した指導に触れ、自主練習で行う壁打ちから意識が変わったことで、この2年間でメキメキとスキルを向上させていった。
 加えて、チームの伝統である“素直さ”が奏功した部分もある。一般的に大学から始める選手が多いラクロスは「やったらやった分だけ実力が付く」と岩崎ヘッドコーチ。どこまで実直にラクロスに向き合えるかが成長の鍵となるが、「アドバイスを素直に聞いて実践できる子が多いです」と工藤キャプテンが話すように、新しいことにも前向きに取り組める素直さと、大事なことは何か?を理解する力が高いことがチームの持ち味だ。その伝統的な土台の上に、岩崎ヘッドコーチが理想とするラクロスがフィットし2年目にして早くも結果が出ているのである。
 「2年しか見ていませんが、チームとしての成長を感じます」と岩崎ヘッドコーチ。来年度でひとまずの任期を満了するが、チームに確かな“新しい風”を吹かしている。

チームに新たな風を吹かしている岩崎ヘッドコーチ

OGからGMを輩出し、さらなる体制強化を図る

 チームの改革はこれだけに留まらない。組織体制の見直しを図るため、2018年にゼネラルマネジャー(以下GM)を新設した。
 GM新設当時はマネージャーで、2021年から2代目のGMを務める山本未帆氏は「以前は4回生を中心に1年単位でチームを作って、卒業したらまたチームカラーやコーチが変わって、と毎年生まれ変わるような形でした」と振り返る。選手もスタッフもチーム作りに奔走するが代が変われば方向性や指導方針がリセットされ、また一から作っていくというサイクルで、組織力が高いとは言えなかった。
 そこでチームの伝統や考えを次の代にも引き継ぐために設けられたのがGMである。運営のトップとして、チームが抱える課題を現役生と話し合いながら解決していくなど幹部とともに環境改善していくのが主な業務だ。山本GMも岩崎ヘッドコーチと同様に東京在住のため、頻繁に現場に足を運ぶことはできないが「後輩が大好きなので」と物理的な距離を凌駕する愛情で部の運営のサポートをしている。
 山本GMの強みはOGとして、また社会人としての経験を活かし、学生がアプローチしづらい部分に向き合えることだ。京都大学には「将来のために勉強がしたい」「学生だからこそできる趣味を楽しみたい」「お金を貯めるためアルバイトがしたい」など様々なことに取り組む学生が多く、ラクロス部にも部を離れてしまう学生が少ないものの毎年いる。その際には山本GMが相談に乗り、学生一人ひとりと真剣に向き合う。工藤キャプテンは「山本さんは部を4年間経験しているので違う視点があり、私たちから言えない話をしてくれるのでありがたいです」と存在の大きさを語る。
 「自分が引っ張るではなく頑張っている人を支えたいと思っていて、落ち込んでいる人がいたら声をかけるように意識をしています」と山本GM。部や後輩への愛情と社会人だからこそのアプローチで2代目のGMとしてチームを陰ながら支えており、現役生に絶大な安心感を与えている。

山本GMが就任した初年度の2021年度のチーム

理念を掲げ、チームとしてブレない方針を定める

 こうして組織改革を行ってきた京都大学女子ラクロス部だが、GM新設と同時に理念を策定した。GMと同様、チームの方針や方向性を代々引き継いでいくことが狙いで、初代GMの小宮山碧氏が「『社会をリードする女性の輩出』~Be the One!! 唯一無二の人財になれ~」という理念を制定。さらに2021年には部内で話し合いを重ね、「枠にとらわれない知性と組織力で全員が強みを誇れるチームをつくる」を掲げている。
 いずれもチームのブレない支柱として、組織力と部員一人ひとりの帰属意識を高めるためのもの。1部昇格を最大の結果目標とし、理念は部としての行動指針になっている。工藤キャプテンは「代が変わったときに『どういうチームを作りたいか』を話したり考えたりするのですが、そのときにどのように理念を体現するのかを考えています。大きな部分がブレないというのはいいです」と毎朝活動理念を読み上げ、全部員が暗記をしているという。
 理念を元にして、部員たちの思いが脈々と引き継がれ、代が変わっても一本の筋のように組織力が強固になった。1部昇格はもちろんのこと、京都大学女子ラクロス部に所属する意義を常に考えながら練習に励んでいるのだ。

結束力を高めて大一番に挑む選手たち

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