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個性と団結力を発揮し、1部復帰へー関西外国語大硬式野球部(後編)

 今春は4年ぶりの1部昇格を狙う阪神大学野球連盟の2部リーグに所属する関西外国語大学硬式野球部。前編では西浦敏彦監督の人柄、指導者としての経歴、野球への思いなどを主に紹介してきたが、後編では選手も交えて、1部昇格へ向けて現状のチームの強みや特徴、課題について語ってもらった。

現在、一部グラウンドの人工芝化の工事が進む。野球部のグラウンドはこの奥にある。

チームを引っ張る名門校出身の控えの主将

「抜群の環境ですわ、ほんまに。学校の中にグラウンドがあって、駅からもそんなに遠くなくて」

 西浦監督がそう言った関西外大のキャンパスは大阪府枚方市にある。練習時間こそ3時間と短いが、アクセス良好な立地のキャンパスの中に野球部のグラウンドがある。

 そんな今のチームをまとめる主将が天理高では野球漬けの毎日を送っていた上田大将(4年・天理高)だ。天理高では投手として新人戦と3年春にベンチ入りしたのみ。ほとんど実績がない形で関西外大に入学してきた。高校時代は寮生活だったが現在は実家から1時間20分近くかけて通っている。ここでも投手として入学してきたが、性格が捕手向きでなんとしても彼を主将にしたい西浦監督と少しでも試合に出場、最後にチャレンジしたいという上田の思惑が一致。捕手へと転向した。そんな上田を投手から捕手に転向、主将に抜擢した理由を西浦監督に尋ねると、ズバリ「性格、人です」と返ってきた。

「まず、自分の投手というポジションを捨ててまで、このチームを強くしたいという思いがありました。強くするため、時には嫌なことを言ったりすることもあります。捕手というのは監督と同列に近い存在で捕手が出したサイン一つでチームの勝ち負けにつながります。そんな責任を背負えるしっかりした人でないと据えられません。そんな性格が捕手向きで、練習メニューひとつとっても変えてくれました。もし、今後、1部で上に行くようなことがあれば、関西外大野球部の分岐点になるような存在です。」

 しかし、捕手としての技術はまだまだだ。昨秋のリーグ戦も米増能亜(3年・東海大大阪仰星高)、道端良介(3年・大阪桐蔭高)といった下級生組にポジションを奪われた格好となっている。そもそも、高校時代から捕手だった二人と違い、捕手としての始動が遅れたハンデがあるが、それでも腐らずに取り組んできた。二人が熾烈な正捕手争いをする中で隙あらばレギュラー奪取も虎視眈々と狙っている。また、主将としても控え選手としてもチームを俯瞰して見ているため、冷静に今のチーム状況も分析している。

「このチームの強みは他の強豪大学に比べて人数は少ないですが、その分、上下関係も離れすぎず、仲良くしっかりコミュニケーションが取れるところです。また、練習も(メンバー外も)除けてせずに全員が参加するので、全員にチャンスがあるのも強みで、ここぞの団結力は他のチームよりもあると思います。」

 チームの強みをこう語る一方で神宮大会などに出場するような強豪大学とは「体つきや技術の部分がまだまだ劣ると感じます」と課題もはっきりと口にした。弱者が強者に勝つために安易に小細工や気持ちの面に走らないところも冷静に自分たちの実力を受け止めていることが窺える。

 また、この取材を終えた後、監督室を退出する前に用意した椅子をもとの位置に戻す気配りや周囲への目配り、話す時の態度も含めて西浦監督が主将に早く据えたかったのも納得の人物だ。その一方で真面目で礼儀正しく、責任感の強い面だけではなく大学生らしい一面も持つ。実は取材当日まで、西浦監督が上田の下の名前の読み方を「だいすけ」だと知らなかったことが判明すると、「監督~、自分で(試合の)メンバー表書かないからですよー」と西浦監督をいじる一幕もあった。このチームの強みである“上下関係が離れすぎず、仲良くコミュニケーションが取れるところ”は監督相手でも変わらない。そんなチームの雰囲気が感じられる西浦監督とのやりとりだった。厳しさと優しさを兼ね備えた控えの主将。チーム事情で出番は少ないかもしれないが、どこかでこの男のプレーが必要になる場面が必ず来るだろう。

主将の上田大将(。彼を中心としたベンチワークも重要になる。

主砲は全国制覇を経験した元応援団長

 次に打のキーマンとなるのが入学時から4番を務める志水渚(4年・履正社高)だ。2019年夏に甲子園全国制覇した時の世代だが、当の本人はアルプスで応援団長をしていた。上田同様、甲子園常連校にいながら目立った実績を持たずに入学してきた。入学後から4番を任されていたが、魅力的な長打力を持ちながらも確実性に欠け、成績も不安定だった。ところが昨年秋のリーグ戦は長打力はそのままに打率.382と春の.273から大幅に数字が向上し、ベストナインに選出された。春から秋の間に一体、何を変えたのだろうか。

「高校時代から大学の3年まではずっとホームランを狙って打っていました。ただ、チーム全体の打撃が落ちていたので、夏からは基本センター返しという意識に変えました。」

 西浦監督曰く、「大人になった」とのことだが、不思議なことにそのような意識で打席に入るようになってから打球の質が変わった。打ち損じが安打になり、安打数が増えたことで打率も急上昇したのだ。そんな本人の今春の目標は首位打者のタイトルを獲得すること。それに加えて、持ち前の長打も発揮してリーグのMVPに選出されるほどの活躍をすれば1部昇格も自ずと近づく。ただ、志水は1部昇格に向けては自分一人の活躍だけでは足りないという。

「高校だったら甲子園を目ざしてメンバーもメンバー外もやってるじゃないですか。大学生だと一般組も含めて全員で練習するので、方向性の違いが生じてしまいます。1部昇格という目標はありますけど、全員が思いきれていないというか、思っているのは試合に出ている人だけって感じですかね。その辺は上田がよくやってくれてるんですけど……」

 主将の上田は技術やフィジカル面を課題にしたのに対し、志水は心理的な部分を課題にあげた。優勝チームの要因に「全員が同じ方向を向いていた」というコメントをよく目にすることがあるが、今の関西外大にはそれが欠けているという。これでは上田が言っていたここぞの団結力という強みを発揮することができない。特に上田、志水の二人は高校時代に全国レベルの取り組みを間近で見ていただけにもどかしさや物足りなさもあることだろう。そんな志水に西浦監督は「応援団長はもう卒業してもらいたい」という活躍や振る舞いを期待し、上田とは逆にプレー面で引っ張ってほしいという。

監督から主軸を任される志水渚。個人としての目標は首位打者とMVP。

4年生不在も底上げされた豊富な投手陣

「この冬はウエートとジャンプ、ダッシュ系のトレーニングに取り組んできました。まずはリーグ戦に出場して、どこで投げてもチームを勢いづけるような勝利に貢献できる投球をしたいと思っています。」

 リーグ戦の開幕が待ち遠しいと言わんばかりの表情で語ったのが北野颯(3年・桜宮高)だ。大阪の公立の雄・桜宮高出身の右腕だが、ここまでけがなどもあり、リーグ戦の登板はない。しかし、地道な取り組みの成果で素質が開花しつつあり、西浦監督も今春期待する投手の一人だ。実は関西外大の現在のチームには4年生の投手がいない。そのため、今春のリーグ戦は3年生以下の布陣で戦うしかないが、嬉しい誤算でそんな投手陣がこの冬の間で順調な成長を遂げ、140キロ台に乗った投手が続々と出ている。そんな投手陣の成長株の筆頭がこの北野だが、他の投手たちの存在も頼もしい。北野が今の投手陣の現状を語ってくれた。

「右も左もいい感じにまとまってきていて、以前と比べて投げられる投手もどんどん増えてきています。今回のリーグ戦はおもしろくなるんじゃないかと自分としては思っていますね。」

 北野も当然、チームの1部昇格を目標に掲げるが、まずは個人としてリーグ戦の登板で結果を出すことが目先の目標だ。

 主将の上田と同じく練習を真面目にコツコツと取り組むタイプなので、その姿勢を見ているチームメイトからの信頼も厚い。練習に取り組む姿勢を評価している西浦監督も北野が活躍すれば、他の投手の励みや刺激となり、さらなる成長を生む相乗効果が期待できる。そのためにも今春の北野の活躍は今後のチームを占ううえでも鍵となりそうだ。

この冬、投手陣の中でも急成長を見せた北野颯。

2部に留まらない。いつか大きな舞台に立つ選手へ

 このように主将、投打のキーマンの話も交えてチームについて語ってもらったが、他にも攻守に安定した遊撃手の中谷駿介(3年・桜宮高)、パンチ力のある打撃が魅力の外野手・角倉宏河(4年・初芝立命館高)や成長中の下級生や有望な1年生も入ってきている。

 ただ、選手たちは高校時代は甲子園に縁がなかった経験を持つ者がほとんどだ。中には上田や志水のように甲子園常連校出身で補欠ながらもレギュラーと一緒に汗を流した経験を持つ選手もいる。しかし、公立出身の選手は甲子園という目標が現実味がなかったからなのか、取り組みに対する意識が「どこか、ややのんびりしている」と西浦監督は語る。おそらく、上田や志水が感じる目的意識の違い、もどかしさとはこの部分だろう。

 主将の上田は前述のように高校時代は野球漬けの日々を送っていたが、寮の近くに室内練習場があったため、時間ギリギリまで練習が可能だった。現在は練習時間の長さという差を痛感しながらも、決して長くはない練習時間と空いた時間に自主練習をこなすなどして、捕手として出遅れたハンデを取り戻そうとしている。志水も履正社高時代の限られた練習時間の中でプラスアルファを探すという経験を生かして、技術を磨き続けてきた。昨年秋季リーグでベストナインを獲得した志水だが、高校時代の同期たちと比べ、自分を低く見積もってしまいがちだ。しかし、現役時代からアマ野球界で40年以上選手を見てきた西浦監督は志水の打撃は決して他の履正社高の同期組にも引けを取らないものだと評価している。特に長打力に関しては光るものがあり、社会人野球を経由してプロも狙えるほどの素質だという。

 志水だけではない。まだ、リーグ戦の登板もない北野もあと1年、成長を続ければ社会人野球に挑戦できるほどのポテンシャルはある。他にも見渡せば、次のステージで活躍できそうな選手は数多くいる。そんな選手は年々増えており、西浦監督も「まだまだ発展途上ですが、なんとか形になってきた」とチームとしての成長も実感する。本気で自主的に取り組み、個々の能力が向上した選手が集まって、それがチームになった時、どんな力を発揮するのか。そして、どんな結果を生むのか。今春のリーグ戦での戦いぶりだけでなく、2部リーグで留まるにはもったいない彼らの今後の活躍も楽しみだ。

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