Bチームの選手にも“真剣勝負”の場を 大所帯の大学野球部で価値を増す「みちのくネクストリーグ」

東北7大学のBチームが真剣勝負を繰り広げる「みちのくネクストリーグ」が、宮城県内の球場や大学グラウンドで開催されている。毎年リーグ戦開幕前の春、夏に開催しており、今回で12回目。仙台大、東北福祉大、富士大、八戸学院大、青森中央学院大、東日本国際大、石巻専修大の7校が勝率で順位を競う。虎視眈々と出番を狙う選手たちによるリーグ戦さながらの熱戦は一見の価値がある。(選手の学年は新学年)
2016年から開催…発起人は仙台大の森本吉謙監督
「みちのくネクストリーグ」は、仙台大の森本吉謙監督が発起人となって2016年にスタートした。200人以上の部員を抱える仙台大を筆頭に大所帯の大学野球部が増える中、二軍に相当するBチームの選手にも「真剣勝負の場」を与えようと思い立ったのがきっかけだった。
リーグは各校のBチームのみで編成。試合はコールドゲームやタイブレーク制を適用するなど、公式戦に準じた形式で実施している。
「目標があれば頑張れる。頑張りを表現できる場所を作りたい」(森本監督)。公式戦に出場できないBチームの選手は以前まで、勝敗よりも個人のアピールを重視するオープン戦が主戦場。リーグ発足により本気で「頑張りを表現」する機会が生まれたことで、目の色を変えて野球に取り組みAチームに食い込む選手が続々と出てきた。
ライバル同士の“前哨戦”は緊張感漂う接戦に

大会3日目の3月24日は、東北福祉大野球場で東北福祉大と仙台大が激突。仙台六大学野球リーグで毎季のように優勝を争う両校が、“前哨戦”で火花を散らした。
仙台大は初回、3番・齋藤尋斗外野手(3年=北星学園大付)の適時打などで2点を先制する。二回以降は本塁が遠かったものの、先発の山名健心投手(4年=霞ヶ浦)が8回10奪三振1失点と好投し2対1で勝利した。
東北福祉大は先発の國分太雅投手(2年=学法石川)が9回2失点と力投。三回に4番・渡邊翔真内野手(4年=盛岡大付)の適時打で1点を返したが及ばなかった。
ライバル同士の両校はリーグ戦で幾度となく手に汗握る接戦を展開している。この日はリーグ戦同様にギリギリのプレーの連続で、終始緊張感が漂っていた。球場には仲間を鼓舞する声が響き渡り、九回、併殺打で試合が終了した瞬間は仙台大の選手たちが雄叫びを上げて喜んだ。まさに「真剣勝負」だった。
ラストイヤーに懸ける4年生「一回一回が勝負」
再三のピンチを背負いながらも最少失点に抑えた山名は、「リーグ戦と同じく負けられない戦い。普通のオープン戦とは一味違う雰囲気になる。同期とは『自分たちは一回一回が勝負だぞ』と話し合って、毎試合勝ちを目標に臨んでいます」と話す。
山名は今年がラストイヤー。仙台大は渡邉一生投手(4年=日本航空/BBCスカイホークス)、佐藤幻瑛投手(3年=柏木農)、大城海翔投手(2年=滋賀学園)ら鉄壁の先発陣を擁するが、1年秋からリーグ戦のマウンドを経験している山名の存在はチームに欠かせないはずだ。

この日は直球のほとんどが130キロ台だったものの、得意の変化球が冴えあらゆる球種でストライクを奪い、強力打線を手玉に取った。最上級生の自覚を胸に刻む右腕は冷静に現状を分析しつつ、静かに闘志を燃やす。
「諦めているわけではありませんが、Aチームに上がったら先発の機会はあまりないと思います。それでも一球一球のキレや精度を磨いて、先発、中継ぎ、抑え、どこでも投げられるよう準備してきました。リーグ戦で1試合でも、1球でも使ってもらえるよう、今持っている最大限の力を出し続けたいです」
新1年生も早速躍動…仙台大の大砲候補が存在感
仙台大は合流したばかりの1年生も続々と試合に出場している。東北福祉大戦は野手のスタメン9人中6人が1年生。中でも、4番に座った木村翔平内野手(1年=日本航空/GXAスカイホークス)はバットで存在感を光らせた。
身長187cm、体重94kgの恵まれた体格を持つ右の強打者。第2打席、あと一歩で本塁打になる特大の二塁打を左翼方向へ飛ばすと、第3打席は一、二塁間を抜ける技ありの安打をマークした。

「大学に入って初めての大会ということで緊張しましたが、自分の持ち味は出せた。高校時代は公式戦がなかったので新鮮な気持ちでしたし、久しぶりに好投手と対戦できて良い経験になりました」と木村。昨年までは通信制高校で学びながら公式戦には参加しないクラブチームのスカイホークスでプレーしていたため、「真剣勝負」は久々だった。
桐生第一高を「(野球部の)雰囲気ややり方が自分に合わない」と1年生の9月の段階で中退し、その後スカイホークスに入団。良き指導者と巡り会い進化を遂げたが高卒でのプロ入りは叶わず、仙台大を進学先に選んだ。スカイホークスOBの渡邉一生から話を聞いた際、「個々のレベルを引き上げてくれる素晴らしい環境がある」との印象を受けたのが決め手だったという。
将来有望な大砲候補は「どんな球でも積極的に振って長打にできるのが強み。大学ナンバーワンと呼ばれるような選手になりたい」と力強く口にした。
2年生右腕が久々に抱いた「絶対に勝ちたいな」
「全勝」を目標に掲げていた東北福祉大はライバル相手に惜敗。先発した國分は「初回の2失点がなければこの試合は勝てていたと思う」と悔しさをにじませた。
ただ、國分も「真剣勝負」の喜びを感じていた選手の一人。大学1年目の昨年は肘を痛めた影響で投げられない期間が長引き、登板は紅白戦の1試合のみに終わった。仙台大戦に向けては「久しぶりに『絶対に勝ちたいな』という思いが湧いてきて、(試合の)前日からワクワクしていました」。勝利には届かなかったものの完投し、「1年目はかなり焦っていたので、九回まで投げられると分かってホッとしました」とはにかんだ。

「今日は負けてしまいましたが、次に生かしていきたいです」。東北福祉大もAチームには今秋ドラフト候補の堀越啓太投手(4年=花咲徳栄)をはじめ、櫻井頼之介投手(4年=聖カタリナ学園)、猪俣駿太投手(3年=明秀日立)らプロ注目の好投手が名を連ねる。現段階では遠い目標だが、いずれは届かなければならない目標に向け確かな一歩を踏み出した。
みちのくネクストリーグは4月上旬まで開催される予定。日程や試合結果は仙台大硬式野球部のホームページで随時更新されており、毎試合のスタメンも同部のXで確認できる。
(取材・文・写真 川浪康太郎)