千葉ドリームスター 「第31回全国身体障害者野球大会」出場 日本代表選手の活躍を弾みに夏の地区大会3連覇へ
5/13〜14の二日間、神戸市で「第31回全国身体障害者野球大会」が開催された。全国38チームから選抜された7地区、16チームが神戸に集結した。
関東甲信越大会で現在2連覇中の「千葉ドリームスター」も昨年に続き本大会に参戦。2日間行われた試合を追った。
(取材協力:千葉ドリームスター 写真 / 文:白石怜平)
昨年に続き、通算7回目の大会出場に
千葉ドリームスターは11年に発足した、千葉県唯一の身体障害者野球チーム。
千葉県出身で、プロ通算打率.310・2120安打等をマークした小笠原道大・現巨人三軍打撃コーチが社会貢献活動の一環で設立した。小笠原コーチ自身が”夢を持って野球を楽しもう”という想いからチーム名を「ドリームスター」と名付けた。
ドリームスターは昨年まで夏の地区大会である関東甲信越大会で2連覇中。この春の全国大会には今回が7回目の出場となり、19年にはベスト4まで進出している。初制覇をかけ神戸へと乗り込んだ。
初戦の対戦相手は、四国勢で唯一の参戦となった「高知ニューフレンズ」。ドリームスターとは、初参加の14年以来の顔合わせとなった。
”東日本唯一の代表戦士”が打線を牽引
試合はほっともっとフィールド神戸で11:20プレーボール。両日ともに雨予報であったことから、試合時間は100分から80分に短縮して行われた。
ドリームスターは先攻で、1番・土屋来夢が打席に立った。土屋は、9月に名古屋で行われる「第5回世界身体障害者野球大会」の日本代表に選出されている。東日本のチームにおいて選出されたのは土屋ただ一人。
左打席から広角に打ち分ける技術とパンチ力を併せ持つ打撃、守備では遊撃手として軽快なフットワークと華麗なグラブトスで見るものを魅了する。
土屋はかつて甲子園を目指した高校球児だった。しかし高1の夏休み、練習後のグラウンド整備中に機械に右手を挟まれるアクシデントに見舞われた。親指以外の利き手の指4本を失い、左手での生活を余儀なくされた。日常生活ですらままならない毎日。
そんな中、生きる希望を与えたいと現在もチームでヘッドコーチを務める父・純一に連れられ、怪我から約半年近く経った14年末に身体障害者野球の門を叩いた。
この試合でも、土屋は早速チームに勢いをもたらした。1回裏に先頭打者として打席に立つと、フルカウントから6球目を振り抜いた。打球は逆方向に大きく飛び、左翼の頭上を超えた。
快足を飛ばし、三塁を回ると悠々ホームイン。先頭打者本塁打で先制点をもたらした。ベンチも総出で迎え、2回で6点を加えるなど試合の主導権を握った。
2人の”ベテラン”がマウンドで躍動
守りの面では、2人のベテラン投手がマウンドで輝いた。1人がこの試合の先発を務めた藤田卓。投手だけなく内外野をこなす貴重なユーティリティプレイヤーである。
藤田は学生時代の交通事故により、左腕が麻痺。以降は投打ともに右腕でプレーしている。チームが本格発足した2年目の12年に入団し、在籍年数は10年を超えた。
当時は初心者も多かった中での貴重な野球経験者。連盟加盟そして全国大会出場と、ドリームスターが強くなる過程を肌で感じてきた。
昨年は中堅手として出場。同じほっともっとフィールド神戸で行われた準々決勝の岡山桃太郎戦、初回2死1・2塁のピンチで前に落ちそうな当たりをスライディングキャッチ。チームのピンチを救うプレーを見せていた。
今年はマウンドで存在感を発揮。2回無失点に抑える投球で、序盤の攻撃での勢いを守りでも生かしてみせた。
「大事な試合の初戦、バックに助けられながら無失点に抑えられてよかったです。いい経験をさせてもらったので、これからもチームのために頑張っていきます」
と試合後語り、チームメイトに感謝した。
3回からは2番手として三浦敏朗が登板。三浦も藤田と同じ12年に入団した”ベテラン”の一人。先天性の脳性麻痺による歩行機能障害を持ち、主に投手を務めている。
練習にはほぼ皆勤ペースで参加し続け、昨年ついに春の大会での初めての登板を果たした。2年連続出場となった今年、ほっともっとフィールド神戸では初のマウンドとなった。
腕を真上から振り下ろし、弧を描きながら捕手のミットへと投げ込む。
昨年の初登板の時のように緊張したという三浦は当初ボール球が続くも、「捕手が後ろのファールをダイビングしてくれて緊張が徐々にほぐれた」と語り、ストライクが増えていく。
野手陣もその投球に応え、三浦を盛り立てた。レフトへ大きなフライが2球連続で飛ぶも、この試合は本職の投手から左翼を守った山岸英樹が走り込んでキャッチ。
打球がスライス回転する難しい打球をグラブの先で押さえ、長打を防いだ。
しかし、その後は死球と安打でピンチを迎える。それでも三浦は腕を掲げながら大きな声と野手にアウトカウントを示し、自ら気持ちを落ち着かせると後続を三ゴロに打ち取り、無失点で切り抜けた。
三浦は自身の投球について、
「最初ストライクが取れなくて不安だったのですが、野手のみなさんが全力で守ってくれましたし、信じて投げることができました。途中からは楽しむことができたのでよかったです」
と安堵の表情を見せた。
悔しくも準々決勝で敗退、8月の地区大会で3連覇を目指す
初戦は6−0で快勝したドリームスターは翌14日の準々決勝に臨んだ。
この日は前日から雨が降り続き開催も危ぶまれたが、グラウンドキーパーの方たちが早朝から準備し、途中雨足も強まるも決勝まで行うことができた。
予定から1時間遅れの10時試合開始となった準々決勝、ドリームスターはこの大会決勝まで進出した京都ビアーフレンズと対戦。今回初顔合わせとなった試合は、ドリームスターが序盤に2点を先制される苦しい展開に。
3回表に追いつくも裏に1点を加えられサヨナラ負け。準決勝進出はならなかった。
指揮を執った小笠原一彦監督は、
「選手の実力を最大限発揮出来るような采配が出来なかったことが反省点です。そんな中でも皆が声を出し、最後まで一丸となって戦えたのは収穫の一つだと思います」
と反省と収穫を語った。
来年この場に立つためには、8月に行われる関東甲信越大会で準優勝以上を収めることが条件となる。監督も引き締めた表情で意気込みを述べた。
「今大会ベスト4の東京ブルーサンダース、また群馬アトムはともに全国2位の実績を持つ強豪チームです。この2チームを撃破しないと11月の全国大会には行くことはできません。昨年度王者とはいえ胸を借りる思いで、全力で挑めるようチーム力の向上を図りたいと思います」
大会翌週から早速再始動したドリームスター。この夏が秋そして来年に向けた大きな山場となる。
(おわり)