ゴルフ人口を増やすために検討するべき施策とは 安価なサービス普及と大学体育授業履修が鍵か
昨今の人々の余暇の活動の変化はゴルフ界でも見て取れる。比較的コロナ感染のリスクが小さいと言われているゴルフを、始める人や再開する人が増えた。8都道府県の対象ゴルフ場からの報告(経済産業省「特定サービス産業動態統計調査」)によると、2021年のゴルフ場利用者数は1025万7560人で、2000年以降初めて1000万人を越えた。2020年は891万2524人で、コロナ前の2019年でも929万6106人なので、大幅に増えている。
ゴルフ練習場の利用者数の伸びはさらに大きい。8都道府県の対象ゴルフ練習場からの報告によると、2021年は2506万8816人で、こちらも2000年以降最多。2020年は2128万1859人で、2019年は1950万2580人だった。
ゴルフは生涯スポーツ。技術レベルを問わず、親子三世代など老若男女が同じフィールドで楽しむことができる。また、認知機能向上や発達障害へのアプローチとして有効であることを示す研究結果が発表されているなど、ゴルフ活動の社会的意義は小さくないようだ。
ゴルフ場とゴルフ練習場の従業員数も2000年以降最多となっているが、このまま地方に多いゴルフ場の雇用が促進されることで、“都市部への人口流出による地方衰退”の抑止にも期待できる。
しかし、ゴルフ場やゴルフ練習場の状況がどうなるかは不透明。ゴルフ利用者数が維持あるいは増加し、これからゴルフ市場が活性化するためには何が必要なのだろうか。新規ゴルファーの創出、というのが思い浮かぶが、ゴルフを辞める人を減らす、ということも合わせて考えてみたい。
やっぱりゴルフはお金がかかる?~新規ゴルファー開拓には安価なサービスが必要~
まず継続的に新規ゴルファーを増やすために、ゴルフ未経験者がゴルフをしない理由について探ってみたい。CCCマーケティング株式会社の報告(『ゴルフに関するアンケート調査』気軽に楽しめるゴルフ場がアクティブな若者のゴルフデビュー後押しに!)によると、「ゴルフをしたことは一度もないが、ゴルフをしてみたい」というゴルフ関心層がゴルフを始めない一番の理由は、お金の問題であることが分かった。ゴルフ用具、アパレル、ゴルフ場プレーフィーがネックになっているのだ。
これまでゴルフ関連企業が、ゴルフ初心者に中古ゴルフクラブを1本プレゼントしたり、若い世代が対象のゴルフ場やゴルフ練習場を無料で利用できたりと、新規ゴルファー増に向けた施策を講じてきた。
ラウンド料金に関しても、気軽に行きやすい料金になってきている。年会費だけで対象のゴルフ場ラウンドし放題のラウンドサブスクリプションサービスがリリースされた。高価なイメージがあるゴルフクラブやゴルフウェアに関しても、レンタルサービスなどゴルファーの経済的な負担が小さくなるサービスが出てきており、ゴルフの環境を整えやすくなってきている。
このようなサービスがもっと普及していくことで、経済的な負担を減らしてゴルフに対して前向きになりやすくなるのではないだろうか。
ゴルファーがゴルフを辞める理由
新規ゴルファーを増やすことだけでなく、辞めるゴルファーを減らすことにも目を向けたい。
過去には年1回以上コースラウンドをしていて、現在まで5年以上コースを回っていない45歳以上の男性400名を対象にした調査報告(北徹朗、森正明 ゴルファーの離反理由に関する研究―2020 東京五輪に向けたゴルフ市場活性化への提言)によると、ゴルフから離れている理由として、5段階評価で「大変あてはまる」「まぁあてはまる」の合計値が最も高かったのが「プレー代が高い」だった。以下「用具価格が高い」「所得が減った」「うまくならなかった」「社内ゴルフが減った」「仲間がゴルフをしなくなった」と続く。
ゴルフを始めるのも、ゴルフを続けるのも、共通して“お金”の問題が大きいということ。新規ゴルファーだけでなく、既ゴルファーに対しても、先に挙げたコストパフォーマンスが高いサービスの普及が必要だろう。
ゴルフ授業で「受動的」から「能動的」へ
ゴルファー増に向けてより本質的な部分にアプローチすることを考えた場合、ゴルフに対するイメージをより良いものにする必要があるのではないだろうか。
ゴルフ場予約サイト楽天GORAが20~39歳の計500人に対して行った調査によると、ゴルフを始めるきっかけとして最も多かった回答が「友人・同僚などのすすめ」で、その後に「家族・恋人のすすめ」「仕事の都合上」という回答が続く結果になった。
「自分から率先して」というよりも、「やむをえず」「誰かに誘われて」などと受け身で始める人が多いようだ。受動的に始めたものに金銭面など何らかの壁を感じてしまうと、それから遠ざかってしまうのは頷ける。ただ、これが「したくてする」「始めたくて始める」状態であれば、これらの壁を乗り越えようとするのではないだろうか。
社会人になってから能動的で前向きにゴルフがしやすくなるための策としては、学生時代のゴルフ体験が挙げられる。
大学で60名(ほとんどがコースラウンド未経験者)の学生を対象にゴルフ授業をした際の調査報告(益子詔次 生涯スポーツを目指した大学体育としてのゴルフ授業)によると、約80%が「大変おもしろかった」もしくは「おもしろかった」と回答した。
ゴルフ授業前は約9%が「老人のスポーツだと思う」と回答したが、ゴルフ授業後は約4%に下がり、イメージが好転した。肉体的にハードなイメージは約1%しか持たれていなかったが、それがゴルフ授業後は約45%となり、「ゴルフもスポーツ」と感じた点も見逃せない。
早い時期に楽しさだけでなく、難しさやハードさを体感しておくことで本格的にゴルフを始めることを検討し始めた時に気後れすることなくスタートをきれるのではないだろうか。
実際、1970年から2014年に大学もしくは短大を卒業した社会人1800名に調査した報告(小林勝法・北徹朗「学生時代及び卒業後のゴルフ経験とゴルフへの意識に関する研究」)によると、学生時代にゴルフ授業を履修した者の方が、しなかった者よりも社会人になってからゴルフ実施率が高い。
コロナが落ち着いてから、増えたゴルフ場やゴルフ練習場の利用者が減るのはやむなしと考えざるを得ないかもしれない。中長期的にゴルフの理解を促進しゴルフファンを増やすためには、ゴルフ関連団体や企業による、コストパフォーマンスに目を向けた策が必要だろう。
また、今回の調査で大学時代のゴルフの授業の普及が有効なものになる可能性があることが分かった。
大学でゴルフの授業を普及させるには、授業ができる道具や場所を確保する必要があるが、少子高齢化など多くの課題に直面する大学にとって優先度は低いだろう。クラブメーカーからのクラブの提供や、ゴルフ練習場による場所の提供・利用料金の割引など企業の支援があればゴルフの授業が普及する可能性がある。企業にとってはゴルフ人口が増えることが将来的に収益増につながるのだから実施する意味はある。
また大学生の質の高いゴルフ体験は卒業後のゴルフ実施率を向上させるだろう。ゴルフ場の一般利用客スタート後の時間を使った、通常とは違う形でのゴルフ体験の受け入れはどうだろうか。初心者に扱いやすく綺麗なクラブで、広いゴルフ練習場で球打ちを楽しみ、前後の組を気にすることなく、まずはのんびり自分たちのペースでコースラウンドができると良い。
社会人と比べると時間があり、様々なことに興味を持つ大学生がゴルフを経験し、ゴルフの距離感を縮める。これがゴルフ普及の大きな鍵となる。ゴルフ関連企業や大学にはぜひ検討していただきたい施策である。