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「主体性をテーマに」選手だけで東芝対策、創設5年目の北海道ガスが都市対抗で初勝利

 東京オリンピック開催の影響で、一昨年、昨年と11月に行われた都市対抗野球大会。2022年は再び夏の東京ドームに帰ってきた。7月18~29日の12日間、地区予選を勝ち抜いた31チームに前年優勝の東京都・東京ガスを加えた32チームが、激闘を繰り広げた。 

 北海道代表は、創設5年目の札幌市・北海道ガス。2年連続2回目の出場だ。初出場だった昨年は、1回戦を東京都・セガサミーと戦った。先制はしたが、結果は1-10と完敗。全国大会初勝利を手にすることはできなかった。 

 今年こそは1勝を、と再び北の大地から東京ドームに乗り込んだ北海道ガスの戦いを振り返る。 

少ないチャンスをモノにして掴んだ初勝利 

 1回戦の相手は、歴代2位の優勝7回を誇る強豪、川崎市・東芝だった。右のエース・吉村貢司郎投手(3年目・國學院大)を筆頭に、投手が充実しているチームだ。優勝候補の一角とも言われる強敵に対し、北海道ガスは「前半3イニングが勝負。立ち上がりを全力でいこう」と心をひとつにして挑んだ。 

先発はエース右腕・大城祐樹投手

 大事な初戦の先発を任されたのは、エース右腕・大城祐樹投手(4年目・桐蔭横浜大)。昨年も先発したが、5回途中3失点(自責2)でマウンドを降りた。「チームが負けたのは、先発の自分が試合をしっかり作れなかったから」と悔しさが残った。今回は、岩﨑(いわざき)巧投手(5年目・法政大/日本製鉄室蘭シャークスより補強)、鈴木愛斗投手(5年目・滝川西高)などのリリーフ陣も、大会前から好調だったので心強かった。「先発としてしっかり試合を作れるように初回から飛ばしていこう」。そう、渡部勝美コーチと話してマウンドに向かった。 

 初回、2死一、三塁のピンチを無失点で切り抜けた大城は、2回以降いいリズムで打者を打ち取っていった。一方の攻撃は、東芝の先発・吉村を前に1回、2回と出塁できずにいた。ただ、まるでボディーブローを打ち込んでいるかのような北海道ガスの積極的なスイングは、いつか大きなパンチを当てるのではと期待させるものがあった。 

 続く3回には、東海林寛大捕手(5年目・日本大)がチーム初安打を放ち、小栗研人内野手(5年目・星槎道都大)も続いて1死一、二塁のチャンスを作った。先制点とはならなかったが「勝負の前半3イニング」で、得点の可能性は見いだせた。 

四番に座る寺田和史外野手

 そして4回表、今度は四番の寺田和史外野手(5年目・東北福祉大)と安田大将内野手(3年目・亜細亜大)の連打で1死一、三塁とする。打席に立つのは、長谷川寛外野手(5年目・早稲田大)だ。ストレート2球に反応せず1ボール1ストライクとなった3球目、147キロのストレートにバットを出した。「センター寄りに飛ぶイメージでしたが、吉村選手がすごくいい球を投げていたので球威に押されてレフトの方に飛んでいきました」というライン際の犠飛で、三塁にいた寺田が生還。北海道ガスに待望の先制点が入った。 

長谷川寛外野手の犠飛で先制

 6回には、大城が再び1死三塁のピンチを迎えた。それでも「キャッチャーと相談して、まだ1点ある、1点あげてもいいからアウトカウントを増やすくらいの気持ちで、と割り切っていきました。2アウトになってからは、1点もあげない気持ちでいきました」と、東芝にホームを踏ませなかった。そして7回途中、1死から右前安打、中前安打と連打されたところでマウンドを降りた。 

「センター前を打たれたところで中指がつってしまって、治療をお願いしようと思ったら、渡部コーチにそのまま交代すると言われました。自分が出したランナーだったので責任を持って抑えたかったですが、球数(90球)も結構投げていましたし、岩﨑さんは本当にオープン戦から調子が良かったので、あとはお任せするという感じでした」 

 7回裏1死一、二塁、点差はわずかに1点。あとを託された左腕の岩﨑は、無失点でこの回を凌ぐ好リリーフを見せた。東芝も7回から左腕の藤村哲之投手(2年目・横浜商大)がマウンドに上がり、3回パーフェクトの投球。1点差のまま、東芝の最後の攻撃を迎えた。 

 ここまで好投してきた投手陣だが、野手が守備で魅せるシーンも多くあった。特に、今年は主に四番・指名打者で試合に出場してきた寺田が、この試合でライトの守備につきフェンスに激突しながら捕った2つのフライは、なにがなんでも勝つという気持ちの強さを感じさせた。寺田は昨年、レフトの守備で、天井の白色と同化した飛球を見失い失点するという苦い経験をしている。昼間の東京ドームではよくあることだが、今年は18時開始の試合だったこともあり「フライがはっきり見えて変な緊張感がなかった」と全力プレーを見せることができた。 

好リリーフの岩﨑巧投手

 9回裏、岩﨑が打者3人をピシャリと抑え、北海道ガスは犠飛で奪った1点を完封リレーで守り抜いた。北海道ガスの都市対抗初勝利となったこの1勝は、北海道勢にとって実に6年ぶりの勝利だった。 

主体性を大切に、1勝に向けての準備  

 都市対抗野球大会の醍醐味のひとつに、補強選手制度がある。前年優勝チーム以外の本大会出場チームは、地区予選で敗退したチームの中から3人まで選手を補強できるというものだ。北海道ガスも、日本製鉄室蘭シャークスの左腕、岩﨑巧投手(5年目・法政大)と航空自衛隊千歳の古谷成海外野手(3年目・日本大)を補強した。 

 岩﨑は、2019年に自チームで都市対抗の舞台を経験している。1回戦の日立市・日立製作所戦で先発。7回途中まで投げて失点は2ランの2点のみと好投したが、打線が沈黙し0-2と悔しい敗戦を味わった。「すごい」という言葉より「うまい」という言葉がぴったりな左の技巧派で、都市対抗のマウンドも知っている岩﨑は、北海道ガスの大きな戦力となった。 

 古谷については、清水隆一監督が「足が非常に速く、守備範囲も広い。うちはDH含めて外野手4人が全員試合に出ているので、万が一のときや、ここぞというときの代走、あるいはセーフティーバントで出て欲しいときなどに起用したい。北海道で一番足の速い守れる選手、という評価で補強しました」と選んだ理由を語っていた。 

足が評価されて補強選手に、古谷成海外野手

 その「万が一のとき」が、8回裏に訪れた。フェンスに激突しながらフライを捕球した寺田が、足を痛めたのだ。9回表の寺田の打順、代打で出場した古谷は9回裏もそのままライトの守備についた。 

こうして、補強選手も含めた全員で1勝を挙げた北海道ガスは、清水監督が就任した昨年から「主体性」をテーマに日々を過ごしている。「責任は監督がとるから自分たちで考えてやりなさい」と、試合中はほぼノーサインで各自が考えながらプレーし、ミーティングも選手たちだけで行っている。ミーティングでは「今日の試合で良かったところ」「改善した方がいいところ」などを出し合い、改善した方がいいところについては「明日の練習から何をどうやるか」まで話し合う。いいプレーは固有名詞を出して言い、悪かったプレーは全体で共有するにとどめる。 

 「そう言いながら『監督のノックが下手だ』とか(名前を出して悪いところを)書いてきたりするんですけどね(笑)」と冗談っぽく笑う清水監督は、選手たちの“自分で考えて工夫する姿勢”を改めて称えた。「東芝さんと戦うと決まった抽選の日から1カ月間で、本当にたくましくなったと感じています」。 

60年住んだ東京を離れて北海道へ、清水隆一監督

 東芝の吉村は、最速153キロ、常時140キロ後半の力のあるストレートを軸に投球を組み立てる投手だ。吉村の質のいい速球を攻略するために、選手同士で意見を出し合い対策を考えた。速球は反射的に打ちたくなるが、打ち気にはやると開きが早くなる。球の下をつい振ってしまったりもする。どうすれば、うまく捉えることができるだろうか。 

 ピッチングマシーンから出る150キロ以上の球をバントしてみたり、球の上をゆっくり空振りしてみたりと、意味を持たせた練習方法を考えつくだけ試していった。実際、吉村から5人が1本ずつ打った安打のうち4本は変化球を打ったものだが、決勝点でありこの試合唯一の得点となった長谷川の犠飛は「振り遅れたりファウルにせずしっかり打ち返せるように、自分で工夫しながら練習でつかんでいったタイミング」でバットを振り、外野に運んだことで生まれたものだった。 

 長谷川は「やらされてやるよりは自分たちで考えてやっていた方が絶対にいいと思うので、その成果が出て本当に良かったです」と笑顔を見せた。主体性を持って取り組む環境が選手たちを急成長させたのは確かなようだ。もちろん、北海道ガスは創設5年目という若いチームであり、何も整っていない創設当時から今のようなやり方でできたとは言い難いため、3年間の土台があったからこそ今があるということも忘れてはいけないだろう。 

 他チームの一員となって練習や試合を共にするという経験は、補強選手にしかできない。岩﨑は、北海道ガスの印象と学んだことについてこう話した。 

「室蘭シャークスは監督とコーチが1クールのメニューを提示してくれて、それに自分たちがどう取り組んでいくかですが、北ガスさんは練習メニューから選手間で決めるということにまず驚きました。若いチームで上の人がいないので、ダラダラしたり練習が身にならないのではないかと思っていましたが、実際一緒にやらせてもらうと、選手個人個人の向き合い方が外側から見ている以上にすごく強いと感じました。清水監督になって、北ガスさんがすごく力をつけてきている理由がわかりました。自チームでも、メニューは与えていただきますが自分たちのものにするためには主体性がすごく大事で、北ガスさんが東芝さんに勝てたというのはひとつの大きな結果だと思います。自チームでは勝敗に直結する立場でやらせてもらっているので、その責任ももっと感じながら、そういう(主体性を大事にする)部分を自分だけではなくチーム全体で感じて取り組んでいきたいと思います」 

新たな目標に向けて 

 広島市・JR西日本と戦った2回戦で敗退した北海道ガスだったが、今回の1勝はチームの歴史に刻まれただけではなく、北海道野球の歴史を6年ぶりに動かした1勝にもなった。 

 「都市対抗・北海道勢100勝まであと2勝」から何年も足踏みを繰り返し、近いようで果てしなく遠いと感じていた100勝が今回の1勝で、グンと引き寄せられた。周りから100勝、100勝と言われながらも、とにかくまず1勝をという思いで臨んでいた北海道ガスだったが、東芝に勝った瞬間から次の目標は「チーム2勝目」ではなく「自分たちで北海道勢100勝を」となった。 

JR西日本に敗れ、来年もまた東京ドームに戻ってくることを誓う

 来年また、地区予選から始まる都市対抗。100勝をかけて戦うためには、まず北海道で一番になり東京ドームへの切符を手に入れなければならない。この夏の経験が、今後どのように生かされていくのか。北海道ガスの進化も楽しみだが、他チームがどう立ち向かっていくのかも興味深いところだ。互いに競い合いながら、北海道の野球が発展していくことにも期待したい。 

 来夏、東京ドームに立つのは北海道ガスか、それとも。 

好きな時に好きなだけ神宮球場で野球観戦ができる環境に身を置きたいと思い、OLを辞め北海道から上京。 「三度の飯より野球が大好き」というキャッチフレーズと共にタレント活動をしながら、プロ野球・アマチュア野球を年間200試合以上観戦。気になるリーグや選手を取材し独自の視点で伝えるライターとしても活動している。 大学野球、社会人野球を中心に、記者が少なく情報が届かない大会などに自ら赴き、情報を必要とする人に発信する役割も担う。 面白いのに日の当たりづらいリーグや選手を太陽の下に引っ張り出すことを目標とする。

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