• HOME
  • コラム
  • 野球
  • 「警戒されている中でもチームを勢いづけるバッティングを」理想的な成長曲線を描く、武蔵大の4番・松下豪佑

「警戒されている中でもチームを勢いづけるバッティングを」理想的な成長曲線を描く、武蔵大の4番・松下豪佑

 武蔵大に、1年春の首都大学野球リーグ戦から全試合フル出場している男がいる。松下豪佑外野手(3年・佼成学園)だ。 

 3年生となった今年の秋、全10試合のうち半分の5試合を終えて、打率.438、出塁率.609と抜群の成績を残している松下は、ここまでどんな成長曲線を描いてきたのだろうか。 

フルスイングの1年生が4番に 

 はじけるような笑顔が印象的だった。 

 2019年秋、武蔵大は首都大学野球リーグ戦で2位となり、横浜市長杯争奪関東地区大学選手権(以下、関東大会)へと駒を進めた。立役者となったのは、長打が魅力の左打者・松下豪佑だ。当時1年生だった松下は、調子の上がらない先輩に代わりリーグ戦の途中から4番に座っていた。リーグ戦では12試合すべてに出場し、打率.300、10打点を挙げる活躍でチームを関東大会へと導いた。本塁打も2本打ち、特に最終週の日体大1回戦で放った豪快な3点本塁打は、存在感を示す一発となった。 

 関東大会はトーナメント戦だ。2位以内に入ったチームは明治神宮大会に出場できるが、武蔵大は残念ながら2回戦で敗退となった。初戦は横浜商大に勝利したが、松下自身は押し出しとなった四球を選んだのみで、この日のヒーローではなかった。だが、報道陣はリーグ戦で頭角を現した1年生に注目せざるを得なかった。 

 囲み取材の場に呼ばれた松下は、勝利の喜びいっぱいの顔で報道陣の前に立った。矢継ぎ早に浴びせられる質問のひとつひとつに、ハキハキと答えていく。 

 当時、三振か本塁打かという勢いでフルスイングをしていた松下は「高校時代も4番を打っていました。ホームランにこだわりを持ってやっています」と語り、1年生らしく、とにかく長所を生かすことでチームに貢献していた。 

大きく成長を見せた2年生の松下 

 2020年春、新型コロナウイルス感染拡大の影響で首都リーグ戦は中止となった。2年生となった松下のプレーを観ることができたのは、秋になってからだ。 

 秋には全国各地でリーグ戦が開催されたが新型コロナウイルス感染拡大防止の措置がとられており、首都リーグも例外ではなかった。首都1部に属する6校が1試合総当たりで戦うという、1校につきたった5試合の秋季リーグ戦。その上、最終戦の直前で対戦相手である東海大の不祥事が発覚したため、武蔵大は不戦勝となり、実際にできたのは4試合だった。 

 そんな中でも、松下の打撃が1年前と違うことは見て取れた。何よりも強く感じたのは、打席に立っているときの「余裕」だ。1球1球、落ち着いて見極めている。その結果、1年秋は12試合で15三振だったのが2年秋の4試合で2三振と大きく減り、同じく12試合でたった3個だった四死球は4試合で4四死球となった。 

 四球が選べるようになったこともあり、打率は.250と1年秋の.300に比べて振るわなかったにも関わらず、出塁率は.340から.438へと大幅に上がった。 

 3試合目の帝京大戦後、そんな松下に話を聞くことができた。この試合、武蔵大は0-6と大きく負けていたところから、8回に松下のグランドスラムで2点差に迫り、9回に追いつくという熱い戦いぶりを見せていた。だが、延長10回タイブレークで帝京大に3点の勝ち越しを許し、そのまま6-9で負けを喫した。 

 1年前に見た、はじけるような笑顔はそこにはなかった。たとえスタンドに満塁弾を叩きこんでも、チームが負ければ意味はない。悔しさをにじませる松下に、この1年、特に意識して取り組んできたことは何かを尋ねた。 

「大学に入ってバットが金属から木に変わり、レフト方向への打球の伸びが足りないと感じていたので、ウエイトトレーニングに力を入れました。その結果、詰まった当たりでも抜けたり、打ち損じで感触が悪くてもホームランになったりと、レフト方向だけでなく全体的に打球が変わりました」 

 これまで、松下はフルスイングが信条だった。いわゆる「引っ張って打つ」イメージしかなく、ヒット性の打球はライト方向に飛んでいた。少なくともこの時点での公式戦では、まだレフト方向への安打を見ることはなかったが、その意識も持って打席に立つようになったことは大きな変化だった。 

 チーム事情にもよるだろうが、たくさんいる部員の中で1年生を試合に出しておきながら、4年生と同じことを要求するのは無理がある。体にしても技術にしても、4年という年月で少しずつ成長していくことが理想だろう。そういう点では、4番という重責を負いながらも自由にフルスイングができた1年時、逆方向への意識も持ちながら打席に立つようになった2年時と、松下は理想的な段階を踏んでいると言えた。 

チームの大黒柱となった3年生の松下 

 3年生になり、武蔵の4番・松下は対戦相手から特に警戒される選手となっていた。それでも、春季リーグ戦では10試合で打率.303、出塁率.439と過去一番の成績を残した。さらに、現在行われている秋季リーグ戦では5試合を終えて、打率.438、出塁率.609と好調だ。 

 無警戒だった1年生のときのように、甘い球が来ることはめったにない。だが、それも「想定済みです。厳しい球で2ストライクまで取られると、フルスイングだけでは対応できません。引っ張るだけじゃなくて逆方向に打ったりだとか、低めの変化球の見極めを意識して練習にも取り組むようにしています」と、悠然と構える。 

 実際にレフト方向への打球も増え、「選球眼を磨くための秘密の練習」の成果も、5試合で3三振、7四死球という数字に表れている。山口亮監督からの「とにかく打点を挙げて欲しい」という要望にもきちんと応え、ここまで8打点を挙げた。 

 相手の守備位置や走者の状況を確認して、打球の方向をイメージする。前の打席での攻められ方を元に、配球を予測する。松下が打席でこなしていることはすべて、打者の基本かもしれない。だが、誰もがこなせるわけでもない。松下は、やるべきことをしっかりやることで、相手の厳しい攻めを上回る打撃を見せていた。 

 武蔵大はここまで3勝2敗、勝ち点3で日体大と並んで2位につけている。負けた試合では、ここで松下が打てていたら勝てたかもしれないという場面もあった。3年連続の関東大会出場、そして初のリーグ優勝を果たすためには、松下の活躍が不可欠だ。 

 チームの大黒柱に成長した男が、そのバットで勝利を呼び寄せる。 

首都大学野球連盟 (tmubl.jp)

武蔵大学硬式野球部ホームページ (musashi-bbc.net)

好きな時に好きなだけ神宮球場で野球観戦ができる環境に身を置きたいと思い、OLを辞め北海道から上京。 「三度の飯より野球が大好き」というキャッチフレーズと共にタレント活動をしながら、プロ野球・アマチュア野球を年間200試合以上観戦する生活を経て、気になるリーグや選手を取材し独自の視点で伝えるライターに。 大学野球、社会人野球を中心に、記者が少なく情報を手に入れづらい大会などに自ら赴き、情報を必要とする人に発信することを目標とする。

関連記事