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2025年は東北福祉大が“四冠”達成 注目度上昇中「仙六」の未来を担う下級生も多士済々

今秋のドラフトで計5人が指名を受けた仙台六大学野球リーグ。11月1~3日には秋季新人戦が開催され、東北福祉大が3季連続の優勝を飾った。今年は全日本大学野球選手権で日本一に輝いた東北福祉大がリーグ戦、新人戦ともに春秋連覇。とはいえ、どの大会も簡単に頂点に立ったわけではない。来季を占う今大会も、群雄割拠のリーグを象徴するような熱戦が繰り広げられた。

東北福祉大・中川輝星が完封「やる気が起きない時期も…」

東北福祉大は準決勝の宮城教育大戦に13対0で大勝するも、決勝の東北学院大戦では接戦を強いられた。打線は東北学院大のアンダースロー右腕・小野涼介(2年=一関学院)に手玉に取られ、3安打を集め長谷陸翔(2年=八戸学院光星)の適時打で先制した4回以外は無安打無得点に封じ込まれた。

2試合計4安打5打点と躍動した長谷

重苦しいムードが漂う中、チームを救う投球を披露したのが先発左腕の中川輝星(2年=天理)だ。毎回のように走者を出し再三のピンチを背負いながらも、9回6安打6四死球無失点と粘投し完封勝利。124球を投じ虎の子の1点を守り切った。

「ピンチの場面でも打たせて取る自分のピッチングができた。自分の中ではベストピッチングでした」。得意球であるスライダーを多投してカウントを整え、130キロ台の直球を球速以上に速く見せる。遊撃手・三宅世馬(2年=倉敷商)ら野手陣の好守にも助けられながら、リーグ戦でもレギュラーを張る好打者が並ぶ東北学院大打線を翻弄した。

昨年5月に左肘の靱帯を損傷。保存療法を続け、今年10月にようやく復帰を果たした。入学直後の長期離脱とあって、「モチベーションも上がらず、やる気が起きない時期も長かったです」と振り返る。それでも、体作りに励んで体重を約10kg増やし、コンディションが良好な日は投球の感覚を失わないようキャッチボールをした。復帰後のブルペンで「問題なく投げられる」と安堵できたのは、腐らずに野球と向き合った日々があったからだ。

怪我を乗り越えマウンドに立った中川

新人戦での先発を告げられたのは大会の約1週間前。大学では練習試合の登板経験もなく、「ぶっつけ本番」で最高の結果を残した。今秋のドラフトで指名を受けた櫻井頼之介(4年=聖カタリナ学園)、堀越啓太(4年=花咲徳栄)とはタイプが異なるが、「自分ももっと成長してドラフトで名前を呼ばれるような選手になりたい」と意気込む。来年は飛躍の1年になりそうだ。

東北学院大・稲岡大輝が堂々デビュー「祖父が近くで…」

東北学院大は春の新人戦、秋のリーグ戦に続き準優勝。準決勝の東北工業大戦はタイブレークにもつれる接戦の末、9対5で制し、決勝でも東北福祉大に肉薄した。

決勝で好投した小野をはじめ、すでにリーグ戦で経験を積んでいる1、2年生が多い中、右の強打者・稲岡大輝(1年=鶴岡東)は準決勝に「4番・指名打者」でスタメン出場し公式戦デビューを果たした。3回、2死満塁の好機で先制の2点適時打を放つと、9回は犠飛で走者を返し、3打点をマーク。上々のデビューに「思い切り振ることだけを意識して打席に入った。チームの勝利に貢献できてホッとしました」と胸をなで下ろした。

決勝で9回3安打10奪三振1失点と快投した小野

稲岡は続けて、「何回もリーグ戦のメンバー落ちを経験して、つらいこともたくさんあったんですけど…祖父が近くで見守っていると信じて頑張ることができました」と口にした。昨年春、祖父・豊さんが他界。母子家庭で育った稲岡にとって、「父親代わり」のような存在だった。自宅にバッティングゲージを作ったり、ピッチングマシンを購入したりして、野球に打ち込める環境を整えてくれたという。

豊さんが亡くなった直後の全国高校野球選手権山形大会はベンチ入りできず、甲子園もチームの応援に徹した。その後、「祖父に甲子園でプレーする姿を見せたかったんですけど叶わなくて、悔しさを大学野球にぶつけようと思いました」と競技継続を決意。地元・三重に戻ることも考えたが、元プロ野球選手の星孝典監督に指導を仰ごうと同じ東北の東北学院大に進んだ。

初出場ながらバットで貢献した稲岡

「やるんだったら思い切りやり切れ。後悔だけはするな」。幼少期から豊さんに口酸っぱく言われてきた言葉だ。「4年間野球をやり切って、祖父に良い姿を見せたいです」と稲岡。後悔なくユニホームを脱ぐ日まで、全力で白球を追い続ける。

「速い球」なくとも…個性磨く将来のエース候補たち

新人戦では今秋のリーグ戦で下位に甘んじた東北工業大(リーグ戦5位)と宮城教育大(同6位)も奮闘した。

東北工業大は1回戦の仙台大(リーグ戦3位)戦に6対2で勝利。先発した左腕の佐藤遥輝(1年=古川学園)が7回4安打8奪三振1失点と快投を披露した。今北孝晟(2年=北海)、新保玖和(2年=霞ヶ浦)ら実績のある打者が名を連ねる仙台大打線に、スライダーを主体とした変化球とコースを突く丁寧な投球で応戦。公式戦初先発で持ち味を存分に発揮した。

直球の平均球速は130キロ台前半。佐藤は「理想を言えば150キロを投げたいですが、そんなに簡単な話ではない。ドラフトで上位指名されるピッチャーのように速い球は投げられないので、今できることをしっかりやっています」と話す。

仙台大打線を封じた佐藤

この日は「今できること」の実践が強い相手にも通用すると実感した一方、「ボールの威力が足りない。今のストレートではついてこられる」と課題も見つけた。東北工業大は近年、後藤佑輔(現・七十七銀行)、熊谷蓮(4年=東陵)ら好左腕が次々と育っているが、先輩たちに続く存在となる可能性を十分に示した。

宮城教育大は1回戦の東北大(リーグ戦4位)戦に5対3で勝利。先発した右腕・泉陽泰(2年=三本木)が9回7安打5奪三振3失点で公式戦初の完投勝利を挙げた。泉も球速は120キロ台にとどまるが、「速い球を投げるのは難しいですが、自分の体に合った投げ方を追求して、『遅いけどなぜか打てない球』を目指しています」と個性を磨いている。

高校時代は捕手がメインで、大学でも当初は捕手としてプレー。志願して1年秋からは投手に専念するも、ここまでは毎シーズン防御率10点台と苦しんできた。「捕る方が嫌だと感じるボール」を研究しながらキャッチボールを行うなど試行錯誤を重ねる中、きっかけを掴んだのは今秋のリーグ戦終了後。腕の位置を下げてスリークォーター気味の投球フォームに変更すると、空振りを取れる直球を投げられるようになったという。

直球の質を求め腕の位置を下げた泉

独自路線を見出しつつ、「球速を上げて、東北福祉大や仙台大も抑えられるピッチャーになりたい」と球速アップにも意欲をのぞかせる。それぞれの課題と向き合いながら、それぞれの思いを胸に努力する1、2年生がどんな成長曲線を描くか。来年以降も「仙六」から目が離せない。

(取材・文・写真 川浪康太郎)

読売新聞記者を経て2022年春からフリーに転身。東北のアマチュア野球を中心に取材している。福岡出身仙台在住。

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