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「仙六」のドラフト候補は”代表落選”をどう捉えたか 東北福祉大・堀越啓太と仙台大・渡邉一生の現在地

今年の日米大学野球選手権は、日本が21年ぶりの全勝優勝を果たした。仙台六大学野球連盟からは3人が大学日本代表入りし、自己最速159キロを計測するなど速球で沸かせた佐藤幻瑛投手(3年=柏木農)、全試合にスタメン出場して打率.375をマークした平川蓮外野手(4年=札幌国際情報)の仙台大コンビが躍動。東北福祉大の櫻井頼之介投手(4年=聖カタリナ学園)も第4戦で3回無失点と好救援し白星を挙げた。

一方、1年時から注目を集め今秋ドラフトでも上位指名が期待される東北福祉大・堀越啓太投手(4年=花咲徳栄)と仙台大・渡邉一生投手(4年=日本航空/BBCスカイホークス)は、代表選考合宿には招集されたものの選出されず。大学ラストシーズン、そしてドラフトに向け調整中の二人に、春の振り返りや現在の心境を聞いた。

東北福祉大・堀越啓太が振り返る「実感のない日本一」

「選ばれるために全力で(選考合宿に)臨みましたが、完璧なコンディションではなかったので、正直、自分の中で落ちる覚悟は持っていました。悔しい気持ちはありつつ、すぐに切り替えることができました」。堀越は2年連続の「落選」を冷静に受け止めていた。大学ラストイヤーはコンディションとの戦いが続いている。

先発としてフル回転するつもりだった今春は、右肩に違和感を覚えた影響で予定していたリーグ戦開幕2戦目の先発を回避。1イニング限定で中継ぎでの起用が続き、状態が回復した仙台大2回戦は先発登板するも、2回3分の1を投げ3失点と試合を作れなかった。

大一番の仙台大戦で先発を任された堀越

1年春以来に出場した全日本大学野球選手権はチームが日本一に輝く中、堀越の登板は東日本国際大との2回戦で先発した1試合のみ。登板後の疲労が抜けず、準々決勝以降は最大限のパフォーマンスを発揮できない状況だったという。堀越は「優勝できたのは素直に嬉しかったですが、自分としては『何もしていない』に近いくらいの貢献度で、実感のない日本一でした」と唇を噛む。

中でも、決勝を含む4試合(うち3試合は先発)に登板して優勝に貢献し、評価を急上昇させた櫻井の姿はまぶしかった。「東京六大学や東都で投げているピッチャーと持っているものは変わらないとずっと思っていたので、こうやって評価を受けられてよかった」と同期の飛躍を喜ぶ一方、「あれほどの大車輪の活躍は自分が理想として描いていたものだった。最後のマウンドに自分が立っていたかったという思いもあります」と悔しさものぞかせた。

全国の舞台で先発し好投、発揮した「試行錯誤」の成果

とはいえ、唯一の登板となった東日本国際大戦は6回10奪三振無失点と好投した。「ゼロに抑えられたのは、今まで試行錯誤してきたことをできた結果。全国の舞台で先発として6回投げられたことは自信になりました」。球数の多さや立ち上がりの不安定さは課題に感じつつ、確かな手応えを得た。

完投を想定して自身のスタイルを崩した仙台大戦を反省し、初回から全力投球。先頭打者の初球から150キロ台を連発し、持ち前の剛速球で打者を圧倒した。球速の落ちてきた中盤以降も直球の質は維持したまま、変化球を駆使してカウントを取ったり、打たせて取ったりする器用な投球を披露。速球だけに頼らない多種多様な投球術を身につけるため日々取り組んできた、「試行錯誤」の成果を発揮した。

全日本大学野球選手権では自信も手にした

ただやはり、最大の武器が速球であることには変わりない。今秋からは仙台大・佐藤の160キロ台到達への期待が高まるが、堀越は「負けられない気持ちはある。この球場(東北福祉大球場)で比べてもらえればと思います」と強気だ。目標にしてきた「実戦で160キロ」、そして「ドラフト1位指名」に向け、ラストスパートをかける。

仙台大・渡邉一生、今春不調も「最後に笑うのは自分」

「これだけ調子を崩している状態の自分が(代表に)選ばれたら、日本のレベルに問題があると思う。変に天狗にならずに、自分の実力不足を身をもって感じられたという意味では良かったのかなと。現実はそう甘くないということを代表の選手たちが教えてくれました」

昨年は代表入りした渡邉も、今年の「落選」を受けて自身の現在地を見つめ直していた。チームメイトの佐藤、平川や昨年ともに戦った伊藤樹投手(早稲田大4年=仙台育英)らの活躍は「応援していたので素直に喜びました」。そう笑顔を見せながらも「今回は選ばれませんでしたが、これでまた一から練習を頑張る理由ができましたし、最後に笑うのは自分だという気持ちにもなりました」と静かに闘志を燃やす。

今年はエースナンバーの背番号18を背負う渡邉

昨年11月に手術を経験。復帰直後は感覚が良く、リーグ戦開幕直前の社会人チームとのオープン戦で自己最速153キロを計測するなど順調に調整を進めていた。しかし、その後は背中を痛めたことや体重が急激に増加したことが影響して投球フォームを崩し、調子が下降。リーグ戦は5試合、21回3分の1を投げ防御率1.27だったものの、与四死球が11を数えるなど本領は発揮できず、球速も伸び悩んだ。

大一番の東北福祉大1回戦も4回途中2失点で降板。投げ合った櫻井の完封劇を目の当たりにし、「実力の差を感じた。やるべきことをやれずに完全にピッチングを崩したので、手術は言い訳にならない」と反省した。

目標は「ドラフト1位指名」から「ドラフトキング」に

東北福祉大の日本一については「仙台大が全国に出ていたら自分たちが優勝していたかもしれないという思いもありましたが、優勝してくれないと自分たちの負けに納得がいかないので嬉しかったです。点差とかを含めてうちが一番良い試合をしたと思う。秋はやり返して日本一になります」と話す。ライバル校の快挙も代表落選も、前へ進むエネルギーに変えている。

ライバル・東北福祉大の日本一も前向きに捉えた

現在はトレーニングよりもストレッチなどによる体のケアに注力している。春のような体の急激な変化による不調を避け、「体型を維持しながらパフォーマンスを上げる」のが目的だ。

また以前は「ドラフト1位指名」を目標としていたが、今は「ドラフトキング」を目指しているという。「プロの世界に飛び込んでからが勝負。順位にはこだわらず、指名された後にその年の一番の当たり選手である『ドラフトキング』になれるよう頑張ります」。どのみち、指名されないことにはスタートラインに立てない。渡邉もまた、勝負の秋に向けて新たな一歩を踏み出した。

(取材・文・写真 川浪康太郎)

読売新聞記者を経て2022年春からフリーに転身。東北のアマチュア野球を中心に取材している。福岡出身仙台在住。

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