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サッカーを通じて教えたい「世界基準の生き方」〜FORZA INTERNATIONAL田名部順一氏(後編)

サッカークラブFORZA INTERNATIONAL(以下FORZA)は2021年4月、愛知県名古屋市に発足した。“世界基準の育成”をテーマに掲げ、全員が試合経験を積むことのできる少人数制を採用。他クラブでは経験できない特徴あるサッカー環境を子どもたちに提供している。

FORZA代表の田名部 順一氏が伝えるのは、サッカーを通じた「世界基準の生き方」だ。自ら海外遠征の中で感じてきた世界の強さを子どもたちに伝える。FORZAを通じた世界基準の生き方とは、どのようなものなのか? 代表・田名部氏に熱く語ってもらった。

子どもの「夢」全てにチャンスを与えたい

FORZAがチームとしての活動を開始したのは2021年4月と、わずか半年前だ。ただ、田名部氏の手がけるサッカー事業としてのFORZAは2015年4月からスタートした。

最初の活動は、サッカー少年を国際大会に参加させたりセレクションに参加させたりすることから始まった。高い志でサッカーに取り組む選手たちを全国から集め、すべての子どもたちに平等なチャンスを与えた。

「すべての選手に平等なチャンスを与えるなんて、スポーツの厳しさを分かっていない者の綺麗ごとだ」と思う方も多いだろう。田名部氏自身も学生時代に国体選手に選出されるほどトップレベルでサッカーに打ち込んできた経歴の持ち主だ。スポーツの世界が実力主義であることは誰よりも理解していた。

それでも、田名部氏は『自身の実力を確かめるためのチャンスくらいは、夢や目標を持つすべての子どもたちに与えてあげたい』と考えていた。田名部氏が理想としてイメージした指導現場。それは『平等なチャンスを与える環境』だった。

この理念に基づき、FORZAでは今もなお「サッカーが上手い・下手」というだけをものさしに、子どもたちのチャンスを制限することは決してない。夢に向かって頑張りたいという情熱ある子どもたちを迎え入れ続けている。

海外遠征に挑戦するFORZAの選手たち

伝えたい「世界基準」〜勝敗を超え、敵味方なく讃えあうサッカー

現在、FORZAが掲げているのは、世界基準の指導。今や海外でプレーする日本人選手が増え、日本代表は国際大会で他国と互角に渡り合えるようになった。ただW杯で優勝するようなトップ集団にはほど遠く、世界との差は依然として大きい。

世界基準の指導とは何か。子どもたちに伝えているのは田名部氏が海外遠征の中で感じてきた『世界基準の考え方』だ。
例えば、パスミスのシーン。日本では当然のように“パスを出した選手”がミスの原因として問題になる。一方、海外ではパスを受ける選手にもフォーカスをし、受け手の技術が高ければパス交換は成立するという考え方を持つ。プレーの捉え方そのものがまったく違うのだ。

さらに。
2016年4月、FORZAとしてイタリア・バロッコ国際大会に参加したとき、田名部氏は対戦相手の現地チームの行動に衝撃を受けた。

それは、試合に負けた日本の子どもたちが悔しくて涙しているところに、勝者であるはずの選手や監督が次々と歩み寄る姿だった。肩を抱いたり背中に手を回したりして「素晴らしい試合だったよ」「ナイスプレイだった!」と励ましてくれるのだ。田名部氏は感動を抑えきれなかったという。

試合が終わればお互いは敵ではなく、共に戦った仲間。そして仲間の素晴らしさを讃えあうことは当たり前。それが世界標準だ。
根強い勝利至上主義に一石を投じるべく、“勝敗を超えて互いを讃えあう世界の文化”を子どもたちに伝えている。

FORZAで子どもたちを指導するスタッフは過去に海外を経験している者たちばかりが揃う。そこには、“空想で世界を語らせない”という田名部氏の揺るぎない信念がある。海外から多くを吸収してきたスタッフとともにFORZAは“世界基準のサッカースクール”を目指している。

海外経験を持つFORZAのスタッフたち、写真右から2番目はFORZAでストライカーコーチを務める元Jリーガーの長谷川太郎氏

世界基準のサッカースクールを謳う以上、FORZA では選手が必ず海外遠征に参加する必要がある。その結果として、入会の敷居が高くなっている。

これについて田名部氏は、『理想と違うことをやっても、自分自身・子どもたち・保護者の方を含めて誰も幸せにできない。手がける事業に自信を持ち、求めてくれる人のためにやるだけだ』と淡々と話してくれた。

そこには、自信を持って信じた価値を提供するという事業家の一面が垣間見えた。多くの事業経験が、FORZAの運営精神にも活きている。

「食」「いのち」…教えるのはサッカーを超えた人生経験

さまざまな人生経験を経て、人材育成の世界に足を踏み入れた田名部氏。
『夢に向かって挑戦するすべての子どもたちを応援したい』という純粋な想いだけが彼を突き動かしている。

過去に、芸能や飲食店、農業関連の事業を経験してきた田名部氏の教育者としての強みは圧倒的な経験値だ。様々な世界で全力を注いできたからこそ還元できることがある。講演活動もおこない、子どもたちに“多様な人生の生き方”を力強く伝えている。

FORZAでも自身の人脈や人生経験をフルに活用。
農業体験学習を実施したり、海外遠征に炊飯ジャーとお米を持ち込み子どもたちにおにぎりを握らせたりしている。

海外遠征先で選手が握ったおにぎりを現地の子どもたちとともに食べる様子

その根底には、母の死と向き合い多様な世界で生き抜いてきた田名部氏の『いのちを大切にしてほしい』『いのちを支える食も大切にしてほしい』という想いが込められている。

『子どもたちには、時間を大切にしなさいと良く言っています。時間を大切にするというのはいのちを大切にすることだから』
日頃から、いのちの大切さを伝えることを重視する田名部氏。それが、子どもたちの夢や目標へと直結すると考えているようだ。

正解は与えない。ただ子どもたちの「道標」でありたい

最後に田名部氏は、自身が最も大切にしている教育観を語ってくれた。
『子どもたちに考えさせることは大切。ただし、何も教えていないのに“考えろ”というのは無責任だ』

サッカーにしてもその先の人生にしても、ベースをしっかり教えることは我々大人の役目だ。基礎となる考え方や生き方を伝え、それをどう活かしていくかは子どもたち次第。

『答えを教えるわけではないが、ヒントを与えて手を差し伸べてあげられるような大人でありたい』と、田名部氏は力強く語ってくれた。

目指すのは、挑戦し続けるすべての子どもたちの“道標となる存在”。夢を持つ次世代の子どもたちとともに歩む田名部氏の挑戦は、これからもまだまだ続く。

写真左がFORZAの子どもたちとハイタッチする田名部氏

(取材・文/西口遼)

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