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拡張から多難な時代を超えて、ルートインBCリーグは次なる「未来」へ

広尾晃のBaseball Diversity05

2007年にスタートしたBCリーグだが、例にもれず、スタート直後から経営に関する問題を抱えていた。リーグ、そして球団はグラウンドで活躍する選手、監督とは別の難問と格闘していたのだ。

いきなりの資金ショート、経営危機

BCリーグは設立時にリーグ運営会社である株式会社ジャパン・ベースボール・マーケティング(JBM)が各球団に一定金額の分配金を支給することをコミットしていた。その原資としてスポンサー収入を1.6億円と見込んでいたが、実際には6000万円弱しか集まらなかった。村山哲二氏ら経営陣は、球団に分配金の削減を了承してもらうとともに、コスト削減に奔走したが、2008年には債務超過に陥ってしまった。村山氏は私財を拠出するとともに、親族にも支援を依頼、難局を乗り切った。

4球団で始まった北信越ベースボールチャレンジングリーグだが、翌2008年には群馬ダイヤモンドペガサスと福井ミラクルエレファンツが加入、6球団となる。地域が広がったので、この年からベースボールチャレンジングリーグ(BCリーグ)という名称になる。

経営基盤をさらに強化するため、BCリーグは、2009年、当時の6球団の本拠がある地方新聞社に支援を要請した。こうして地域のメディアが独立リーグを支える体制が出来上がった。

リーグ主導でコンセプトを固めていく

2007年の開幕に際してBCリーグは“MIKITO AED PROJECT”を立ち上げた。これは前年7月9日、少年野球の試合前に9歳で急死した水島樹人君にちなんだもの。水島君の母から「あのときAEDの設備があれば命が助かったかもしれない」との手紙が村山氏に届き「水島君の悲劇を繰り返さないために」AEDの普及活動をリーグとして行うことになった。

今も公式戦では“MIKITO AED PROJECT”の告知が行われている。

開幕してからも、一部選手のマナーの悪さが目立った。トラブルも起こった。また、独立リーグの存在意義を深く理解していないと思われる選手も散見されたので、2009年開幕時に「BCリーグ憲章」を制定し、リーグとしての姿勢を明確化した。

BCリーグは、地域の子どもたちを、地域とともに育てることが使命である。
BCリーグは、常に全力のプレーを行うことにより、地域と、地域の子どもたちに夢を与える。
BCリーグは、常にフェアプレーを行うことにより、地域と、地域の子どもたちに夢を与える。
BCリーグは、野球場の内外を問わず、地域と、地域の子どもたちの規範となる。

このように、BCリーグはリーグ主導でコンセプトや方針を決めることが多かった。4球団が独自に方針を立てることが多かった四国アイランドリーグとは対照的だ。設立者である村山氏が、マーケティングや広告の専門家で、コンセプトの企画、立案に長けていたことが大きいかもしれない。

なお、NPBファームとの交流戦は創設年の2007年に日本ハムとの試合が組まれたが、2012年はDeNAと、2014年は巨人、オリックス、広島、などと、2016年からは巨人との交流戦が行われている。

また初年度の2007年から四国アイランドリーグの優勝チームとの間でグランドチャンピオンシップが行われている。

2018年にルートインBCリーグは「26歳定年制」を導入した。これはオーバーエイジ選手を除いて、26歳のシーズンで選手は退団するという制度。これによって選手のセカンドキャリアへの転身を促した。

ルートインBCリーグに参加した滋賀ユナイテッド 2017年

四国の10倍近い大きなマーケットで

2014年にリーグのネーミングライツをルートイングループが取得。ルートインBCリーグとなる。

またこの年四国アイランドリーグplusと一般社団法人日本独立リーグ野球機構(IPBL)を設立、村山哲二氏は副会長に就任した。

翌2015年から武蔵ヒートベアーズと福島ホープスが加入し、8球団体制となる。

さらに2017年には滋賀ユナイテッドと栃木ゴールデンブレーブスが加入。

そして2019年には茨城アストロプラネッツが、2020年には神奈川フューチャードリームスが加わり、ルートインBCリーグは12球団になった。

四国アイランドリーグもエキスパンション(リーグ拡張)を行い、四国4球団だけでなく、長崎、福岡、三重と球団が誕生したが、長続きしなかった。リーグの本拠地が四国であり、他地域の球団は移動に大きな負担がかかったうえに、地元の支援体制も弱かった。

しかしBCリーグはもともと北陸、中部、関東、東海と球団が広域に所在している。移動などのコストに不公平感はない。また、四国と比べてルートインBCリーグがカバーするエリアは広大で、人口も圧倒的に多い。

両リーグが所在する県の人口を比較する。2020年時点。

ルートインBCリーグは、四国アイランドリーグplusの10倍近い大きなマーケットに立脚していることがわかる。

ビジネスの可能性も、四国よりも大きく、独立リーグが存続できる基盤があったと言えよう。

リーグ内格差が顕在化

ルートインBCリーグ自身も「野球事業を通じて地域の活性化にチャレンジする」ことを謳っており、エキスパンションを積極的に推進した。その結果、毎年のように各県から加盟申請が提出され、リーグ理事会で可否が健闘された。中には静岡県のように「時期尚早」として準加盟のままに申請が見送られたケースもあるが、加盟したい地域があればリーグ側も積極的にアドバイスし、体制つくりに協力したのだ。

そんな中から、新潟アルビレックスBCのように、健全経営で黒字を生み出す球団も出てきた。また2017年の加入ながら栃木ゴールデンブレーブスは、親会社が手掛けるスポーツ人材派遣業と連動し、村田修一、西岡剛、川﨑宗徳、ティモンディ高岸宏行など話題性のある選手を獲得し、多くの観客を集めた。

栃木でプレーする西岡剛 2019年

ただし、すべての球団の経営が順調だったわけではない。

2018年には福島ホープスを運営する株式会社福島野球団が経営難に陥り、球団運営を新たに設立した株式会社Y.O.Aに移管し、元メジャーリーガーでプレイングマネージャーだった岩村明憲氏が代表兼監督となりチーム名も福島レッドホープスとなった。

滋賀ユナイテッドベースボールクラブは2019年に経営難に陥り経営者が交代、さらにスポンサーだったオセアングループが経営を引き継ぎ、オセアン滋賀ブラックスとなった。

さらに福井ミラクルエレファンツを運営する株式会社福井県民球団は、2019年オフに会社清算に入ると発表、村山哲二氏などリーグ関係者が球団存続のために奔走し、株式会社FBAが設立され、球団名も福井ワイルドラプターズとなった。

端的に言えば、12球団と球団数が増え、本拠地も本州の広いエリアに広がり、観客動員や経済状況でリーグ内の「格差」が顕在化しつつあったと言えよう。

グラウンド整備をする武蔵ナイン 2018年

新型コロナ禍で新たな動きが

2020年の新型コロナ禍はルートインBCリーグにも大きな影響を与えた。

2020年は開幕が6月にずれ込み、巨人との交流戦も行われなかった。またリーグは東、中、西の3地区に分かれて行われ、試合数も圧縮された。

2021年も3地区制で行われたが、東、中が地区をまたいだ交流戦を行ったのに対し、西地区は他地区との交流戦を行わなかった。観客動員も制限され、各球団はリーグ運営に苦心した。そんな中でネットを使った試合中継を行うなど、さまざまな試みも行われた。

しかし、コロナ禍以降、人的交流や、コミュニケーションが少なくなる中で、地域の「温度差」が顕在化したことは否めない。

2021年9月、ルートインBCリーグの西地区4球団は来季から新たな独立リーグ、日本海オセアンリーグを設立すると発表した。

西地区4球団からは、リーグ全体の運営から取り残された、リーグがどう動こうとしているのか、わからない。という声が上がっていた。コロナ禍によるコミュニケーションロスが、今回の分離独立の背景にあったのは間違いないところだ。

また、福井、石川、富山、滋賀という北陸を中心にした4球団は、冬季の降雪、他地域に比して小さなマーケット、関東から遠い立地など他とは違う特性があったのも事実だ。

四国は当初から「4つでまとまるのが当たり前」だったが、広域に球団が点在するBCは常にリーグを組んで野球をする「意味」を確認しながら運営していかなければならなかった。ガバナンスの難しさがあったと言えるのではないか。

四国アイランドリーグplusとルートインBCリーグはともに野球を通じた地域貢献と、NPBへの選手輩出を大きな目標としているが、BCの村山哲二代表は「地域貢献をより重視したい」と強調する。このあたりが四国との違いだ。

4球団が抜けて2022年から8球団になったルートインBCリーグ。創設17年目を迎え、新たなビジネスモデルの創出に取り組む時期を迎えている。

村田修一が入団した栃木の試合に駆け付けたファン 2018年

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