アメフト・アサヒ飲料クラブチャレンジャーズ、尼崎でのホーム全試合開催を目指す理由
アメフト・アサヒ飲料クラブチャレンジャーズ(以下チャレンジャーズ)のX1SUPERへの昇格2年目は本拠地・尼崎(アマ)から始まった。
チャレンジャーズは2020年10月に尼崎市と包括連携協定を締結。地域・社会貢献活動を通じて地元住民や行政との太いパイプができつつある。秋季リーグ初戦は有料試合にも関わらず約1000人の観客が訪れ、チームの劇的勝利を心から喜んでいた。
~ベイコム陸上競技場での試合開催はアメフト人気を高める(代表兼GM・鍜次茂氏)
「今季は開幕戦のみの開催ですが本当はもっと多くの試合をここでやりたい。将来的にはホーム全試合開催を目指しています」
チーム代表兼GM・鍜次茂氏はアマでのホーム試合開催にこだわる理由を語ってくれた。
「包括連携協定を結んだことでアマが実質の本拠地となりました。以前からアマにチーム練習場があるのに加え、ベイコム陸上競技場(尼崎市記念公園陸上競技場、以下ベイコム)の存在も大きな理由です。以前は学生や社会人のアメフトも数多く開催された関西におけるアメフトのメッカ的場所です」
「JR尼崎駅から徒歩10分ほどの素晴らしい立地条件です。アマは大阪市から目と鼻の距離にあり電車や車で気楽に来れます。ここで試合をすれば多くの人が足を運んでくれるはず。チャレンジャーズと共に日本アメフト界の人気復活にもつながるはずです」
ベイコムは1980年の尼崎市記念公園完成時にできた。第2種公認競技場に認定されており陸上各種大会の他、学校単位での体育祭も行われる。市民にとっては欠かすことのできない運動施設だ。
「市民からの人気が非常に高い施設です。アメフトシーズンが始まる秋から先の週末のほとんどは各種大会で埋まっている。今後は公式戦開催を増やせるように尼崎市側とも協議を重ねている最中です。まずは今季、開幕戦ができたことは大きな進歩と言えます」
~選手と観客の両方にとって親切な競技場
「日程調整の他にもフィールドサイズやスタンド席など、本拠地開催を継続するには幾つかの課題が存在する」と鍜次氏は続ける。
「現状のフィールドではアメフトの公式サイズが取れず、エンドゾーンには人工芝を敷かないといけません。選手たちはベイコムでプレー経験が多く慣れたので支障はないですが、今後を踏まえれば考えないといけない部分です」
「キャッチ後に両足でストップする時以外は全く気にならない」(WR阿部拓朗)とプレーする分には問題ない。しかし日本最高峰リーグを定期開催する箱としては気になるところだ。
「公式戦は興行なので観客側の立場も考える必要があります。メインスタンド以外はフィールドとの角度がなくて見えにくい状態です。神戸市王子スタジアムのように仮設で良いのでスタンドが設置できるのが理想です」
関西アメフトの聖地と言える神戸市王子スタジアムは1951年開場。これまでも改修を重ねて使用されてきたが、その中でアメフト観戦に特化する形で仮設のバックスタンドが設置され見やすさが格段に上がった。
~地道な活動によって地域や行政との距離を縮める(事務局長・桂雄史郎氏)
アマでのホーム試合開催にこだわり続けているのが、チーム運営を担う事務局長・桂雄史郎氏。2000、2001年とチームが社会人連覇した時のQBは、事務局長就任後には年1回の『尼崎ボウル』を定期開催するなど地道なレール敷きをしてきた。
「ベイコム陸上競技場を使用したアメフト祭りを企画しました。招待試合等を無料で楽しめるイベントなのでチームに利益は出ないですが、地域に何か還元しなければクラブの存在価値はないと思いました」
コロナ禍の2年間は開催中止となったが、そこまでは6年連続で継続開催。2022年に再開してからは協賛という形で協力してくれる企業も増えた。
「当初から尼崎市との関係構築、将来的なアマでのホーム試合開催を念頭に置いていました。そのためには地道なことでもできることをやって地域や行政との距離を縮めることが重要です。現状のスタンスを維持しつつ新しいこともやっていきたいです」
~行政の長が強い関心を持ってくれたのは心強い(副代表・川口陽生氏)
行政や地元との架け橋となっているのは、尼崎プロジェクトリーダーを任される副代表・川口陽生氏。普段は一般企業で働くビジネスマンだが、週末を中心にアマの至る場所に顔を出してチームをPRしている。
「チームと地域の距離が少しでも近くなって欲しいと思っています。時間が許せば商店街を歩き、お祭りがあれば足を運びます。おかげさまで少しずつチームの知名度も浸透してきた感じがします」
行政側のチームに対する関心も高まっている。春季トーナメント戦には尼崎市長・松本眞氏も来場、試合中には横に座り解説を行ったところ大きな興味を抱いてもらった。
「試合の翌週には早速、市役所へ招集され今後の方針等のリサーチを受けました。ざっくばらんに様々な話をさせていただき、今後のバックアップを約束していただきました。行政の長が強い関心を持ってくれたのは本当に心強いです」
~ベイコムでのアメフト開催は心から嬉しい(尼崎市副市長・吹野順次氏)
尼崎市副市長・吹野順次氏は業務とは関係なく、プライベートでも頻繁に試合へ足を運び続けてくれる。もともとアメフト好きだった副市長はチャレンジャーズの奮闘を心底、応援してくれている。
「身内にアメフトをやっていた人がいたので昔から好きでした。当然ベイコムで社会人や学生の試合が行われていたのは知っていました。様々な要素があったのは理解していますが、近年、試合が行われていないことに残念な気持ちもありました。だからチャレンジャーズの試合開催が嬉しいです」
「包括連携協定を結んだ縁もありチャレンジャーズに興味を抱きました。X1SUPERの強豪相手にも『もしかして…』と期待を抱かせる戦いに惹かれます。また様々な地域・社会貢献活動にも積極的に関与してくれます。今後もこのような優良な関係を継続していきたい。私も応援を続けます」
開幕戦は炎天下の中だったがキックオフのかなり前に会場入り、選手の状態を入念に確認する姿があった。
~尼崎市長まで興奮させた開幕戦の逆転勝利
X1SUPERの常連チーム・東京ガスクリエイターズ相手に「17-13」のスコアで勝利を収めた。最後までわからない展開、残り6秒で逆転しての勝利にゲームセットまで会場は熱気に包まれた。
「後半に間に合った尼崎市長・松本眞氏と今回もご一緒したのですが、終了直前には試合の緊迫感から一言も話さず、まさに固唾をのんで戦況を見守られていました。ギリギリの試合に勝利を収めたことで、この試合を見た人はまた足を運んでくれるはず。もちろん市長、副市長もそうだと思います(笑)」(川口氏)
「尼崎市としても可能な限り全力でチームをバックアップします」(尼崎市長・松本氏)と試合後の選手に対して高らかに宣言をしてくれた。
試合を重ねるごとに地域密着度が高まっていく。チャレンジャーズは少しづつだが「アマのチーム」になりつつある。アマでのホーム全試合開催も決して夢物語ではなさそうだ。
(取材/文/写真・山岡則夫、取材協力/写真・アサヒ飲料クラブチャレンジャーズ)